私の末路。
「『エリック様たちは、私を守ってくれていたんです!』」
これも選択肢を間違えてしまったときに出てきた選択肢だ。ここまでして持ち直せないなんてことは、流石にないはず……。
「では、実際に受けたいじめの例でも聞こうか」
……ダメだった。
ねえ何で? 何であなたは私を愛してくれないの? 私はあなたのことが大好きなのに。どうして分かってくれないの? どうしてそんな無表情で私を見つめるの? ゲームではあんなに笑いかけてくれたじゃない……。
「れ、例……ですか?」
「当たり前だ、証拠がなければ意味はないのだからな。それとも、話せないのか?」
「『……教科書を、ボロボロにされました』」
ゲームでジャスミンが受けたいじめ。今は私が捏造しているいじめ。まさか本当にバレてしまっているの? 証拠もないのに?
「それは誰から?」
誰から……やっぱりこいつ以外に選択肢などないだろう。
私は……ユリアを指差して言った。否、言おうとした。
だがその前に、今度はヴィオラ・レガートが口を開いた。
「ユリアちゃんはこれについてどう思う?」
「いや……教科書ボロボロにされたの私だし……」
「嘘よ、そんなの嘘よ……!」
やめて! やめなさいよ! まだ間に合う! 今なら何もなかったことにできる! だから……!
「他には?」
「ヴィオラはノート等の私物をぐちゃぐちゃにされた、ジェシカは廊下で水をかぶせられた、ドロシアは足を何度も引っかけられた。ベロニカは大事にしていた物を盗まれて壊された。私はこの間、階段から突き落とされた」
やめて!!
私は何度もそう思ったけれど、喉の奥で言葉が引っかかるように何も言えなかった。
周りがだんだん騒然としてきて、さっきまでユリアたちに向けられていた疑惑の目が、完全に私だけを捉えていた。
どこかから、
「私、ジャスミンさんがいじめてるの見たことあるよ」
というような声が聞こえてきた。そんなバカな。誰にも見られないようなところで全部してきたはず。脇役レベルの人が見てたなんて絶対にあり得ない!
「違う……違う……! こんなのおかしい!」
もう自分が何をしていて何を口走っているのかも分からなくなってきていた。
「何でシナリオ通りに動かないのよ! 何でヒロインの私に攻撃するのよ! 悪役は私のために消えてちょうだいよ!」
「え……? ジャスミン、何を、言って……」
エリックたちが何かを言っている気がする。でも、全然聞こえない。話すならもっと大きい声で言ってほしいわ。
「ああ本当に無駄なことをしたわ。もう1回やり直さないと。ていうか運営に苦情入れとかないと。ヒロインにしてくれるのはいいけど、もう少し簡単にしてくれないと進まないじゃない! 面倒な性格の奴ばっかりで嫌になるわよ」
「……」
私の剣幕に恐れをなしたのか、その場にいた全員が黙り込んだ。最初からそうやって、何も言わなければよかったのに。そうすれば悪役はいなくなって、私と攻略対象は幸せになって、モブはモブらしく生きられたのにね。浅はかな人たちだわ。
そんな中沈黙を破ったのは……学園長だった。
「チェリス子爵令嬢は停学処分です。自宅に帰り己の行いに向き合いなさい。レイモンド侯爵子息、オスカー伯爵子息、ロバート伯爵子息は2ヶ月の自宅謹慎を命じます。連れて行きなさい」
学園長はそう言った後、会場を出て行ってしまった。
ねえ、待ちなさいよ。まだ話をしているの。何で私が停学処分なんかにならなきゃいけないの? エリックたちも何で自宅謹慎しなきゃいけないの? 私たちは何も悪くないじゃない!
「ちょっと、何するの! 離しなさいよ!」
「ジャスミン!」
私たちは衛兵に捕まって、外に連れ出された。
私たちを見る人は誰もいなくて、私が最後に見た会場では、ジークハルトがユリアに甘く蕩けた顔を見せていた。
その後は自室に戻る事すら許されず、学園の馬車に乱暴に乗せられた後、誰かが部屋にあった私の物を全部持ってきた。
こうして私は、強制的に学園を去ることになってしまった。
* * * * *
私は、ここで何をしているのだろう。
何もすることがなく、窓辺に座って外を眺めるだけの日々。
あの日帰ってきてから、お父様と1度も話をしていない。前は優しかったのに。きっと、学園で私が悪い存在だという噂が流れたから、必要ないどころか足手まといだとでも思っているんでしょう……。
(ジークハルト……)
そして私は心の中で、攻略対象が助けに来てくれることを願い彼らの名を呼ぶのだった。
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