どうして……?
「はあ、学園長に先を越されてしまったな」
ジークハルトは、私の方には一切目もくれず、ユリアに微笑んでいた。何で? 何でまだその女に笑いかけるの? 私を助けてよ!
「ジーク……ハルト殿下?」
「ふふ、何でそんな他人行儀なの? いつもみたいにしてたらいいのに」
「どうして……?」
「ごめんね、学園長と話し込んでて、来るのが遅くなっちゃった」
「何で、学園長と?」
「ああ、それはね。僕、知っていたんだ。こうなること」
「え?」
「側近から聞いていたんだよ。今日のパーティーでやらかすってね」
……やらかすって、何? 何を言っているの? もしかして、悪役令嬢たちを断罪しようとしていること? でも、これはシナリオに沿っているんだから当然じゃない。この場だってシナリオ通りだし。
「前々から学園長はそこの3人の素行が目に余ると感じていたそうでね、だけど処分を下すための決定打となる事例がまだなかったから、あえて放っておくことにしたそうだよ。そのせいで、ユリアやユリアの友人の令嬢方に辛い思いをさせてしまい、申し訳ない……」
「……まだ、整理できていないところもあります。ですが、私たちはもうある程度割り切れています。なので、謝らないでください。第1王子殿下」
「ヴィオラ……」
ねえ、何でそいつらと親し気に話してるの? 私とお話してよ!
「おい! 無視をするな!」
エリックが顔を真っ赤にして怒り始めた。
「もういい、貴様らに謝罪の機会を与えたにも関わらずまだ足掻くというのだな。ならば、ここで学園長にも聞いていただき、処分を科していただこうではないか!」
ちょっとエリックは冷静になった方がいい気もするけど……でもこのセリフ、何度も見たことある。やっぱりシナリオ通りに進んでる。大丈夫。
エリックは真っ赤な顔のままもう一度話し始めた。ジークハルトがだめでも学園長は説得できるかも、と思った。けれど、私の想像を真っ向から否定するような展開になってきた。
「レイモンド侯爵子息、あなたが話した内容の根拠は何ですか?」
「根拠、ですか? それは……」
「あなたのその話の根拠は何ですか?」
「ジャ、ジャスミンが……」
「まさか、チェリス子爵令嬢1人の言葉を鵜呑みにしたのですか?」
「……」
学園長はなぜ味方をしてくれないの? ゲームだったらすぐにこっち側に来てくれたのに。
こうなったら仕方がない。私も参戦しよう。
「『あ、あの! エリック様をいじめないでください!』」
ゲームで何個か選択肢を間違えてしまったときにジャスミンが喋るセリフだった。ここでちゃんと正解の選択肢を選んだら大抵持ち直すことができていた。……なのに。
「チェリス子爵令嬢、婚約者でないのに格下の者が格上の方の名を呼んではなりません」
チェリス子爵令嬢?……って、私か。ていうか、え? なんでセリフをそのまま言ったのに、そんなことを言うの?
「わ、わたしは、エリック様となかよしだから……」
「仲が良い、悪いの問題ではありません。ましてや婚約者のいる方にそのように接するなど」
「でも……」
「それに、先ほどのお話、私に上がってきた報告と何もかも違うのですが」
「え……?」
「私が聞いたのは、『レイモンド侯爵子息、オスカー伯爵子息、ロバート伯爵子息が婚約者を蔑ろにして1人の少女に現を抜かしている。さらに婚約者である令嬢たちはいじめを受けている』だったのですが」
「が、学園長、それは、誰から……」
「それは、僕だよ」
……え? 誰? って、まさか……!
「……フレッド、さん……?」
「やっほー、ユリアちゃんだったっけ? 久し振りだね~」
「どうしてここに……?」
「ん? それはね……」
「エドワーズ様」
ずっといないと思ったら……なんでこんなタイミングで……?
「まずレイモンド侯爵子息、オスカー伯爵子息、ロバート伯爵子息に聞く。何か言いたいことはあるか?」
「わ、私は、ジャスミンを守っただけで……」
「守っただけ、だと?」
「彼女はいじめられて傷ついていた。そんな彼女を見捨てろというのか!?」
「……チェリス子爵令嬢がいじめられていたことの証拠は?」
「え? そんなものなくても……」
「いじめられている、ということが嘘だとは疑わなかったのか?」
「どういう、意味ですか……」
「どういう意味も何も、チェリス子爵令嬢が嘘をつき、自分にすり寄ってきていただけだとしたら?」
「そんな、ひどいですエドワーズ様!」
確かに私のは自作自演だ。でも、絶対に誰にもバレないように細心の注意を払ってきたし、そんなのあり得ないはず……。
(一体、どうしてこんなことに……)
今更そんなことを思っても、目の前の光景がなくなったりすることはなかった。
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