私の世界。
私は選ばれた人間なのだ。
誰もが私を愛して、私に尽くして、私に見てもらおうとして、私のために何だってする。時に私を取り合って争う。自身が破滅しようとも構わない。私だけのために全てを捧げる。私のために。
そう、思っていた。
……なのになぜ、私は暗くて冷たい場所にいるのだろう。
* * * * *
「ジャスミン、私がお前のお父様だ。これからは私と一緒に暮らすんだよ」
その人は、丁度1年前に現れた。街で寂しく暮らしていた私のところに、煌びやかな馬車に乗って。
初めは、何を馬鹿なことを、と思っていた。私には父はいない。母が私を女手一つで育ててくれた。貧乏なのは辛かったが、それでも平気だった。
だがその人は、母を病で亡くしてすぐの私を半ば無理矢理連れて行った。母と暮らした小さな家に全てを置いて、私だけを連れて行った。
しかし、その人が私を連れて行くために腕を掴んだ瞬間、私は全てを理解した。それと同時に、歓喜に打ち震えた。
(ここは、乙女ゲームの世界だ……そして私は、ヒロインなのだ……!)
信じられなかった。街の隅で細々と生きていた私が貴族になり、キラキラとした生活を送ることが。でも、これが私の妄想でないなら、私の願いは何でも叶う。なぜなら、私はヒロインだから。
私は前世の自分が男だったか女だったかも思い出せなかった。思い出したのは純粋な乙女ゲームの内容だけだった。でもそんなことはどうでもよかった。どうせ碌な人生じゃなかったんだろう。私はこの世界で幸せになるんだ!
私はその人について行くことにした。その頃にはもう、母親のことは記憶の片隅に追いやってしまっていた。逆に、私に貧乏な暮らしをさせた、と怒りの感情が出てきてしまうくらいだった。
その人はまず始めに広い部屋をくれた。今まで住んでいた家の敷地と同じぐらいなのではないかと思った。家具も揃っていて、物語のお姫様のようだった。
次にドレス。何十着と入っているクローゼットを見るのは楽しかった。アクセサリーも数え切れないほどもらった。これからもいつでも買っていいって言われた。
侍女や侍従もたくさん付けられた。これも好きにしていいって言ってくれたから、侍女は私より可愛い子はちょっといたずらをすることにした。とは言っても、そんなにひどいことはしてないわよ? 私が欲しいものを持っていたら譲ってもらったり、服や髪型がいつも同じだとつまらないだろうから切ってあげたり、街の男の人達と遊ばせてあげたりしただけよ。
解雇はしなかったし、やめたいって言った子とはちゃんとお話ししたわ。そしたら勝手にいなくなっちゃったから、仕方がないから連れ戻してちょっとだけお仕置きしてあげたわ。喜んでたから今度からはみんなそうするって決めたの。
侍従も似たような感じ。お気に入りだけ傍にいさせて他は雑用をさせたわ。一瞬でも視界に入ったらお仕置き。でも侍女達より喜んでたわ。お気に入りの子達にもいろいろしてもらってるし、その子達にはたまにご褒美をあげてるの。可愛くて従順な子は大好き。
お父様は何でも私に協力してくれる。だから、みんなと仲良くなれたの。お父様に感謝しなくちゃ。
それに、乙女ゲームではヒロインなんだから、私は何をしてもいいの。何をしても私は愛される。だから、私は自分のやりたいことをやったの。
それにしても、お父様はまだ私の『お父様』じゃないみたい。おかしいよね? お父様はお父様なんだから。早くちゃんと『お父様』になってくれないと、まだまだ外にあんまり出れないじゃない。退屈だな……それに、遅くなるともしかしたらゲームに失敗しちゃうかもしれないし。初期設定は大事だもの。
やることがないから、暇つぶしに侍女と遊ぼうかしらね。
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