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学園長とお話ししました。

 コンコン。


「どうぞ」


 私は1つの部屋のドアをノックしました。中には私を呼んだであろう人物がいるようでした。

 ゆっくりとそのドアを開けると、目の前には書類仕事をこなしている学園長がいました。


「すこし待っていてください。そこのソファに座って」

「はい」


 言われた通りにソファに腰掛けました。滅多に入ることのない学園長の執務室は、他とはまた違った雰囲気を醸し出しています。

 1、2分ほどして、学園長が席を立って私が座っている向かい側にいらっしゃいました。


「ごめんなさいね、仕事が立て込んでしまっていて」

「いえ、お気になさらず。それより、今日はどういった御用で?」

「ああ、それよ。少しあなたに聞いておきたいことがあって」

「……? それはどのようなものでしょうか?」

「あなたはよく分かっている、1番知っているはずよ。この間の『婚約破棄』騒動」

「……何を、お考えなのですか」

「何を考えてというか、私は純粋に気になってしまったのよ。高位貴族の子息がいきなり揃って婚約者に婚約破棄を言い渡すなんて普通ならあり得ないでしょう? それも学園主催のパーティーで……」

「ああ……」


 やはり学園長もあの騒動を気にしておられたようです。ですが……。


「私たちは、何とも……まったく予想していませんでしたし」

「それはそうよね……まさかあんな場であんなことをするなんてヴィオラ嬢たちも想像していなかったでしょう。彼女たちには申し訳なかったわね」

「学園長の落ち度ではありませんよ。仕方のないことだったのです。今回のことで学園長に責任があると考えている人は誰もいませんよ」

「だと、いいのだけれど」


 学園長は苦笑していました。どことなく疲れているようでした。


「……お疲れ、ですか?」

「……分かる?」

「もちろんですよ。何年見てきたと思っているんですか、クロエ叔母様」

「そう、よね」


 学園長__クロエ・コゼット様は、私のお父様の妹です。

 若いうちから学園長となった叔母様のことを小さい頃からずっと見ていて、ずっと憧憬の念を抱いていました。叔母様は私たちの家の近くに住んでいるので、時間があるときは一緒に遊んでもらったこともあります。

 その顔立ちからきつい性格だと思われてしまうことがよくあるのですが、私は、本当は叔母様は少し内気な性格であること、コーヒーが苦手なこと、大好物はチーズケーキで生クリームは少し苦手なことなど、いろいろなことを知っています。少し注意してみてみると可愛らしい部分がたくさんある叔母様が大好きです。


「最近あの3人がいろいろしていたせいで疲れてしまったのでしょう? 休めるときにはきちんと休んでくださいね。私も手伝えることがあったら手伝いに来ます」

「ごめんね、ユリア。でも、なるべく1人で片付けられるように頑張るわ。ユリアは私の大事な姪なのだし」

「自分のことも大事にしてね」

「ええ、もちろん」


 叔母様は穏やかに笑っていました。


「そうだ、今度久し振りに遊びに行ってもいい?」

「え? すごく久し振りね。いいに決まってるじゃない。お父様やお母様も喜ぶわ。帰ったらすぐに伝えるからいつでも来て頂戴ね」

「ありがとう、ユリア」

「それなら、私も叔母様の家に行ってみたい」

「あまり片付いてないわよ?」

「そんなの気にしないよ」

「まあいいわ。早く休めるように頑張るわね」

「ぜひともそうして頂戴」


 久々の叔母様とのお喋りは思っていた以上に弾んで、私がなかなか帰ってこなくて心配したみんなが突撃してくるまで続いていました。






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