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物語というのは予期せぬ方向へ転がるものです。

 それは、珍しく私が家から1歩も出なかった日に起こりました。

 そのときはもうご飯なども済ませていて夜も遅く、私は自室で眠るためにベッドに潜り込み、本を読んでいました。

 程よく眠気が増してきたところで本をサイドテーブルに置き、明かりを一番小さなものにしてからベッドに入り直しました。


「お休みなさい……」


 * * * * *


 ここは、どこでしょうか?

 見たことのない花畑の真ん中で、私はただ立っていました。


『……』

(……!)


 不意に、誰かに呼ばれた気がしました。しかし、周りを見渡しても人はおろか動物1匹もいません。どういうことかと首を傾げていると、もう一度呼ばれました。


『百合』


 * * * * *


 夢はそこで途切れてしまったらしく、私は自分が今ベッドにいることを確認しました。

 目を閉じたまま少し寝返りを打ち、結局上を向いておくことにしました。

 なぜだか少し暑くなってしまい、1度バルコニーに出て体を冷やすことにしました。

 そうして私がゆっくりと目を開けると、黒い人影がうっすらと開いた視界の中に写り込んできました。



「……!」


 殺される。私はなぜか唐突にそう強く思いました。

 すぐに覚醒してベッドから飛び起きた私は、一瞬のうちに思考を巡らせました。

 まずはっきりしているのは私じゃこいつと戦えない、ということです。暗殺者だか何だか知りませんけど、侯爵令嬢で戦闘訓練などを受けたこともないひ弱な私は、1秒でもこいつとやり合ってはいけません。すぐにやられてしまいます。

 だとしたら逃げなくてはなりません。でもどこから?

 部屋のドアは……だめだ、こいつがドアの前にいるから通れません。他に出口なんてこの部屋には……仕方がありませんね。


「……えい!」

「!?」


 私は……恐怖心を何とか丸め込み、窓の外に飛び出しました。

 自室は2階です。落ちても上手くやれば軽傷で済むでしょう。そう思っていたのですが……。


「……え?」


 ドスンッ!!


 ……こいつは、何と私の下敷きになって伸びていました。

 しかし、私はこのときそれ以上に大事なことを考えていました。いえ、思い出していました。


 私の、前世の記憶を。


『ねえ聞いて聞いて! ついに私全ルート攻略し終わったんだよ!』

『よかったわね』

『ひっどーい。もうちょっと何かあってもいいんじゃないの?』

『はいはい。で、今日は何かあったの?』

『そうよそれ。聞いて、私がいつも見てる攻略サイトでね、隠しキャラがいるって書いてあったの!』

『隠しキャラ?』

『そう! いや~ほんとに隠しキャラはマジでおすすめ。どんなゲームでも隠しキャラはサイコーだよ~』

『そうなのね』

『確か名前がね……』


「ルーク、フリント……侯爵子息……」

「……!」


 そう、その人は……この乙女ゲームの『隠しキャラ』でした。






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