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なんか引っかかる方に出会いました。

 イザベラさんとリリーちゃんと一緒に1階に降りると、そこにいた人たちの視線が一斉に私たちに向きました。


「……ねえ、あの、イザベラさんの隣にいる大きい子って、誰?」

「知らねえ。リリーちゃんに上の子っていたか?」

「でも私、昨日あの子が宿泊部屋に連れてかれてったの見たわよ?」

「じゃあ何なんだ?」


 ……なんか、『私たち』を、というよりも、『私』を見ているような気がします。

 しばらく微妙な空気でいると、その場にいた1人の若い男性が私たちに声をかけてきました。


「こんにちは、イザベラさん。そちらのお嬢さんは?」

「ああ、昨日ウチに来たお客さんよ。何? まさかと思うけど、私の隠し子とかだと思ったの?」

「いいえ、そんな訳ではありませんよ。少し挨拶をと思いまして。はじめまして、僕はジークです。お嬢さん、貴女の名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「私は、リアです」

「リアさん、ですか。……失礼を承知の上でお嬢さん、以前どこかでお会いしたことがなかったでしょうか?」

「え?」


 私、前にこの方に会ったことなんてあったでしょうか。でも、何故でしょうか、少し、ほんの少しだけ引っかかります……。


「おいおいジーク、こんな真っ昼間からナンパする気かあ? お前よくやるなあ褒めてやるよ」


 少しの間考えていると、人だかりの中からジークさんの知り合いでしょうか、どちらかと言えば派手な格好をした男性が現れました。


「な、ナンパなどではありません。私は、ただ……」

「ナンパの常套句吐いといてよく言うよ、ったく。やっほーお嬢ちゃん、俺はフレッド。ヨロシクねえ」

「リアさん、こいつとは一生よろしくしないでいいですからね。というよりむしろよろしくしないでください」

「は、はあ……」


 こんなに勢いがある人もすれ違ったことすらないはずなのに、やっぱりどこかに引っかかっているんですよね……何故でしょうか。


「おーい嬢ちゃーん、昼メシいらねえのか?」


 はっとして辺りを見回すと、食堂の入り口でクマさんが仁王立ちしてました。


「あ、おねえちゃん、お腹空いてる?」

「わたし? 空いてるよ」

「リリーね、もうお腹ぺこぺこなの!」

「そっか。じゃあそろそろご飯食べに行こっか」

「うん!」


  * * * * *


「はー、リリーお腹いっぱい!」

「私も。美味しかったね」

「うん。おとうさんのご飯はいつも美味しいの!」


 クマさんが出してくれたのは、まさかの、焼きそばでした。

 しかも日本にいるときにお祭りの時に食べていたような、かつお節たっぷりのソース焼きそばでした。嬉しすぎて心の中で狂喜乱舞してしまいました。

 ああ、貴族に生まれてよかったです。おかげで人前で変な顔を晒さずに済みました。貴族の子どもは感情が表情に出ないように訓練させられるのです……手加減されていたとはいえあの頃は面倒すぎて授業を脱走しようとしてましたけど。こんなところで生きてくるなんて、人生の経験って大切なんですね。

 ていうか、この世界にかつお節とかソースとかあるんですか!? あれですか、異世界あるあるの『別のものからそっくりのものが作れるよ~もしくはまったく同じものが作れるよ~』みたいな。

 家を出る前も頑張って地球にある食材とか調味料とか探していたのですが、貴族のお嬢様は行動範囲が狭すぎて全然見つからなかったのです。侍女の皆さんにも変わり者のような目で見られてしまいましたし。


「リアさん、そろそろ外で準備をする人たちが出てくるだろうから、ついでにリリーと一緒に街の中を散策してきたら?」

「はーい」


 一度部屋に戻ってイザベラさんから借りた小さめのショルダーバッグに持っていたお金などを入れて、準備ができたリリーちゃんとアイリス荘を出ようとすると、ご飯の前に会った男性……ジークさんでしたっけ? にまた会いました。


「リアさん、これからどこかに行かれるのですか?」

「イザベラさんにリリーちゃんと街を散策してきたらと言われたので。ジークさんは?」

「散策、ですか。もし差し支えないようでしたら、ご一緒させていただいても構わないでしょうか?」

「え、えっと「いいよ!」え? リリーちゃん?」

「みんなでお散歩したいな……おねえちゃん、ダメかな?」


 ……リリーちゃんのお願いを聞かないわけにはいきませんね。


「ううん、いいよ。3人で行こう」

「やったあ! よろしくねおにいちゃん!」

「……! はい。リアさん、リリーさん、よろしくお願いします」


 こうして私は、リリーちゃんに加えてさっき会ったばかりのジークさんと町を散策することになったのでした。






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