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……もう全部スルーしたいです。

 レイモンド侯爵子息は顔を真っ赤にして怒っていました。そんなに短気では次期侯爵にふさわしくありませんよ。まあその可能性なんて初めから潰れてしまっているのですが。


「もういい、貴様らに謝罪の機会を与えたにも関わらずまだ足掻くというのだな。ならば、ここで学園長にも聞いていただき、処分を科していただこうではないか!」


 ……帰っていいですかね。


「(ヒソッ)ユリア、我慢だよ」

「……」

「(ヒソッ)終わったら甘やかしてあげるから、ね?」

「(ヒソッ)……分かった」


「学園長、そこにいる5人はまず、編入されてすぐのジャスミンがクラスで孤立するように仕向けたのです!」

「……続けなさい」

「ジャスミンはクラスに居場所がなくなり、校舎裏で泣いていたのです。内気な彼女を追い詰めたことはとても許しがたいことです!」

「……」

「私たちはジャスミンが少しでも楽しく過ごせるようにと、授業ではないときは一緒にいました。ジャスミンは私たちが傍にいるときだけは笑えるのです」

「……校則では長時間婚約者でない男女が行動を共にすることを禁じていますが、それについては?」

「しかし、校則に囚われていることで彼女が悲しむのなら、私はいくらでも校則を破ります」


 ……うわー、またまたぶっ飛んだ発言ありがとうございます。周りのみなさんの顔を見たらどうでしょうかね、みんな仲良く口ポカーンとしていますよ。

 というかスルーしてしまいましたが、何ですか孤立するように仕向けたって。ベロニカからジャスミンの転生者っぽい発言を聞いていたので、大方嘘なんでしょうね……。


「しかもそれだけではないのです! ジャスミンを孤独にするだけでは飽き足らず、今度はジャスミンの持ち物を奪い、ひどいときには破壊したのです!」


 ……もういいですって。


「ジャスミンの教科書を破いたりノートにひどい落書きをしたりするのは日常茶飯事で、あるときにはジャスミンが誕生日にもらったという物まで盗んだのです! それも一度や二度じゃなく、何度もです!」


 ……それ、本当になっているのだとしたら100%自作自演ですね。


「そして、だんだん彼女に暴行を加えるようになったのです。廊下で足を引っ掛ける、わざとぶつかる、水をかぶせるなど様々でした。しかも、いつも複数で行っていたのです。更に数日前、彼女は階段から突き落とされたのです! これは完全に悪質ないじめです!」

「……はぁ」


 学園長は深いため息をつき、レイモンド侯爵子息をじっと見据えました。


「レイモンド侯爵子息、あなたが話した内容の根拠は何ですか?」

「根拠、ですか? それは……」

「あなたのその話の根拠は何ですか?」

「ジャ、ジャスミンが……」

「まさか、チェリス子爵令嬢1人の言葉を鵜呑みにしたのですか?」

「……」


 レイモンド侯爵子息は、先ほどとはまるで打って変わって大人しくなっていました。が、代わりにうるさくなった人がいました。


「あ、あの! エリック様をいじめないでください!」


 ……は?


 この会場の9割の人の心が1つになった瞬間でした。


「チェリス子爵令嬢、婚約者でないのに格下の者が格上の方の名を呼んではなりません」

「わ、わたしは、エリック様となかよしだから……」

「仲が良い、悪いの問題ではありません。ましてや婚約者のいる方にそのように接するなど」

「でも……」

「それに、先ほどのお話、私に上がってきた報告と何もかも違うのですが」

「え……?」

「私が聞いたのは、『レイモンド侯爵子息、オスカー伯爵子息、ロバート伯爵子息が婚約者を蔑ろにして1人の少女に現を抜かしている。さらに婚約者である令嬢たちはいじめを受けている』だったのですが」

「が、学園長、それは、誰から……」


 おや、レイモンド侯爵子息が復活したようです。


「それは、僕だよ」


 学園長が口を開こうとしたとき、どこかで聞いたことがある気がする声が聞こえました。






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