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お母様とお兄様と再会して。

 その日の夜、またジークに家まで送ってもらいました。流石に帰りはいいよ、と言ったのですが、


「ユリアとちょっとでも一緒にいたい……だめ?」


 と、最近のジークには珍しい捨てられた子犬のような顔をされたので、それ以上は何も言えませんでした。


(たまにこういう顔をされると、ねぇ?)


 私は馬車があまり好きではないのですが、王家所有の馬車はやっぱり違いますね。乗り心地が全然違います。そんな馬車にホイホイ乗せてもらうのもどうかと思うのですが、まあジークが寂しそうになるので気にしないことにしましょう。


「じゃあユリア、また今度ね」

「うん、またね」


 王宮に引き返す馬車を見ていると、胸の辺りにじんわりと暖かい気持ちが広がっていきました。


「お嬢様、早くお部屋へ参りましょう?」

「ええ……って、あれ?」


 私は家の中に入ろうとしたときに、1台の馬車を見つけました。さっきまで私が乗せてもらっていた王家の馬車ではなく、侯爵家の家紋が彫られている馬車でした。


(そういえば……)


 私はふと、昨日お父様が言っていたことを思い出しました。


『今は侯爵領の視察に回っております。明日頃に帰ってくるかと思われます』


「……ベル」

「はい。何でしょうか、お嬢様」

「今日は、お母様とお兄様が……?」

「そろそろお戻りになられるかと」


 じゃあ、あの馬車にはお母様とお兄様が……?

 そうこうしているうちに馬車の扉が開いて、中から人が出てきました。


「「……ユリア?」」


 ……息ぴったりですね。

 やっぱり乗っていたのはお母様とお兄様でした。私は固まってしまっている2人のところへ行きました。


「お久し振りです。お母様、お兄様」

「……本当に、ユリアなの?」

「はい」

「……元気? 怪我とかしてない?」

「はい、どこも悪くないですよ」


 しばらく見つめ合っていると、お母様に優しく抱きしめられました。


「お帰りなさい、ユリア」


 お兄様はお母様ごと私を抱きしめました。いつの間にか、お兄様は前よりももっと大きくなっていたようです。


「お帰り、ユリア」

「ただいま、です」


 私たちはお父様が出てくるまで、ずっと抱き合っていました。


 * * * * *


「へえ、じゃあジークハルトは兄さんじゃなくて弟になるのか」


 家族(お姉様を除く)で久し振りに食卓を囲んでいると、不意にお兄様がそう言いました。


「まあ、そういうことになるな」


 それと、言い忘れていましたね。私たちは上から順にお姉様、お兄様、私です。とは言っても2つずつしか歳が離れていないのでそれほど差は感じません。


「久々にこっちに帰ってきたと思ったらすぐまた外に行くし、今度こそ帰ってきたと思ったらまさかの妹を連れて帰ってくるとはな。ジークハルトとはどんな感じなんだ?」

「……仲良く、してます」

「ローレン、あまり女の子にそんなことを聞いてはいけませんよ。そういうことはこっそりジークハルト様に聞くのですよ」

「お母様!?」


 ちなみにお兄様がローレンで、お姉様はオリヴィアです。

 しばらくみんなで談笑していると、少し真面目な顔になったお父様が口を開きました。


「ユリア、少し聞きたいことがあるのだが」

「何でしょうか?」

「学園に戻らないか?」

「……」


 この国では、貴族と平民は分けてありますが子どもは全員10歳から18歳まで学園に行くことになっています。私は今16歳なので、あと2年残っているのです。


「別に行かなくてもいいとのことだったんだが……」


 学園ですか……ぶっちゃけ前世の知識でほぼできるんですよね。歴史とかも大抵覚えてしまっていますし。

 学園はいいかな……と思っていると、突然頭の中に一瞬何かの記憶が通りすぎていきました。


(……?)


 しかしその記憶はすぐに消えてしまい、何を思い出していたのか分からなくなってしまいました。


「私、学園に行きます」


 気付いたら、私はお父様にそう答えていました。


「そうか。なら近日中に学園長と話をしようか」

「はい」


 学園。そこで何が起こるのかはまだ分かりません。でも、何かが起こる、そんな予感がしていました。

 その日、私は一抹の不安を抱えたまま眠りにつきました。






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