懐かしい朝でした。
久々の家でぐっすり眠っていた私は、いきなりの強い光で半分目が覚めてしまいました。
「……ん~、眩しいよ……まだ寝るの……」
まだ起きたくないのに、なんかやたらと眩しいです……。何で……?
布団を頭まで引っ張ってかぶせて、これで眩しくなくなったし、安心してまた寝れる……と思ったのも束の間、今度はいきなり布団が消えてしまいました。
「……あれ、お布団は……?」
目を閉じたままなくなった布団を手繰り寄せようとしたら、頭上からわざとらしいため息が聞こえてきました。って、誰かそこにいるの……?
「お嬢様、おはようございます。いつまで寝ていらっしゃるのですか?」
聞こえてきたのは、私がもう10年近く聞き続けていた声でした。
「ん……? あれ、ベル……?」
「まだ寝ぼけておられるのですか? 起きてくださいお嬢様。あと1時間半ですよ」
「ふぇ?」
「今日は王宮に向かわれるのでしょう? 早く起きてくださいませ。急がないと間に合わなくなりますよ」
「……あ」
ここでようやく意識がはっきりとしてきました。ってやばくないですか!? あと1時間半!?
「っ、大変! ベルごめんね、大急ぎで支度するわ」
「待ってくださいお嬢様。まさかお1人で支度なさるおつもりですか?」
「ベル、早く!」
「お嬢様ぁ~?」
私の動きがピシリと固まりました。これはちょっとやばめかもです。ベルは私が小さいときからずっと仕えてくれている侍女なのですが、同時に私の教育もある程度はしていたのです。そのベルが、とてもいい笑顔になっているのです。嫌な予感しかしません。逃げたい……。
「お嬢様? 王宮に向かわれるのでしょう? 木登りをしてくるというような気分で行くのではないのですよ?」
「もう、流石にそれくらい分かっているわよ。というより木登りをしていたのは5歳くらいまでよ!」
「今でもやりかねませんけれどね。お嬢様、お忘れですか? 王宮に行くときはそれなりに気合を入れなくてはならないでしょう? それをお1人ですべてされるというのですか?」
「うぐ……」
ちなみにベルは私のもう1人の姉のような存在で、こんな風に怒られることが結構あります……。というより、こんなときに私がお転婆だった頃のことを持ち出さなくてもいいでしょうに……。
そんな気持ちを込めてベルを見ていたら、逆に威圧されてしまいました。どちらが上なんだか……。
「ほら、そうこう言っている間に時間はどんどんなくなっていきますよ、支度しましょう?」
「うぅ、分かったわよ……」
* * * * *
それから1時間ちょっとしてベルたちに支度をしてもらい、何とか間に合わせることができました。何かとお小言をもらったりもしますが、みんな優しくて大好きです。
「まったく……お嬢様はいつまでも変わりませんね」
「何よベル、私ちゃんと大きくなっているわよ?」
「そういう感じの話ではなく……」
ベルとそんな他愛もない話をしていると、玄関が騒がしくなってきました。
「あら、そろそろお迎えがいらっしゃったようですね」
「ええ、じゃあ私行ってくるね」
「……まあいいでしょう。行ってらっしゃいませ、お嬢様」
私は自分の部屋を出て、令嬢としてはどうかと思いますが走って屋敷の玄関に行きました。
そこには、ちょっと苦笑いをしているジークが立っていました。
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