お父様と再会しました。
あれから数日が経ち、私は『アイリス荘』と西の国に別れを告げて、ジークと一緒に故郷へ帰ってきました。あ、それとフレッドさんもいます。
(なんか、よく分からない感じ……)
私は一応貴族令嬢として育ったので外を出歩くことはほぼなかったし、家出したときも国を出ることを最優先にしていたので、国内の様子などはあまり知らなかったのでした。
私がそう考えていると、不意にジークが笑いだしました。
「どうしたの?」
「ふふ、いや、何でもないよ」
すると彼は私の頭を優しく撫でて、蕩けるような微笑みを見せました。
「これからたくさんデートしようね」
「……!」
あう、心臓に悪すぎる……!
「えーっと、そろそろ行きますよー。あんまり遅いと置いていきますからね」
「……お前それでも僕の側近候補か?」
「何か御用でしょうか第1王子殿下」
「やめろやめろ気持ち悪い」
「それはいくら何でも酷いでしょ……ね、コゼットさん?」
フレッドさんが私のことを『コゼットさん』と呼ぶのは、ジークが名前を呼ばせたくないと言ったからです。
本来ならもう少し敬語にしなければならないけれど、ジークとフレッドさんは幼馴染で、公の場でなかったらいつもこんな感じなんだとか。幼馴染っていいなぁ。
「さて、フレッドがうるさいしそろそろ行こうか」
「誰のせいだと」
「うん」
「無視するなー!」
全部放り出して出てきてしまったので不安なことがたくさんあったのですが、ジークが傍にいてくれるし、面白い人もいるので少し安心しました。
* * * * *
(私の、家……)
ジークは王宮に帰らずに侯爵家まで来てくれました。まあ私が道を覚えていなかったからというのもあるのですが。
私たちが門に近づくと、警備員さんが気付き、とても慌てていました。
「ユリアお嬢様!? それに第1王子殿下!? 旦那様ー!!」
2人いた警備員さんの片方が慌てて屋敷の中に走って行き、残った方の警備員さんはふらつきながら応接室に連れて行ってくれました。
長らく見ていなかった私の家は、ところどころに小さな変化はありましたが記憶にある家とほぼ変わっていませんでした。
5分ほど経った後、部屋の外が騒がしくなってきました。
「そろそろ侯爵が来たかな?」
ジークは若干苦笑いを浮かべていました。もう少し静かに来てほしかったです……。
騒ぎは部屋の前まで近づいてきて、その騒ぎの中心にいる人物が部屋のドアを勢いよく開きました。
「ユリア! 帰って来てくれたというのは本当だったのだな!」
「はい。お久しぶりです、お父様」
実は、お父様のことはあまり覚えていませんでした。というよりもそれほど印象に残るようなことをしていないので、目立つ人として覚えていなかったというだけです。
なので久しぶりに会ったお父様にどう接したらいいのか分からず固まっていると、いきなりお父様に頭を撫でられました。
「お父様……?」
「すまなかった、ユリア。私がもっとしっかりしていれば、こんな風にはならなかったのに……」
「……」
……もしかして、お父様は私が家出をしたのは仕方のない事で、苦労をしたとか辛い思いをしていたとか思っているのでしょうか? 割と、というかかなり楽しかったのですが。
「侯爵殿」
「おお、ご挨拶もせず申し訳ありません、第1王子殿下」
「それは構わないのだが、侯爵夫人と子息はどうしたのだ?」
「今は侯爵領の視察に回っております。明日頃に帰ってくるかと思われます」
「そうか。時に侯爵殿、そろそろユリアを放してもらえないか? 明日には王宮にも行かなければならないし、今日はもう休んだ方がいいと思うのだ」
「確かにそうですな、早いうちに休ませましょう。殿下はどうなさるおつもりで?」
「1度王宮に戻る。ユリア、明日は迎えに来るから待っていてくれないか?」
「分かった」
ジークとは一旦ここでお別れかぁ……毎日ずっと一緒にいたから夜の間だけでも隣にいないのがとても寂しくなってしまいます。
それが顔に出てしまっていたのか、複雑そうに笑ったジークにそっと抱きしめられました。
「9時には迎えに来るから、それまでいい子に待っててね?」
「……うん」
私から離れていったジークを少し名残惜しく感じましたが、明日の朝までですし、頑張りましょう。
「では明日また来ます、侯爵殿」
「はい、お気を付けて」
ジークを見送った後、私は久々の侯爵家でお父様と夕食を取り、侍女たちにお風呂に入れてもらい、うっかりそのまま寝落ちしてしまったのでした。
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