僕は気付いた。
僕はしばらく、何も考えることができなかった。
まさか侯爵令嬢という地位を捨てるなんて、思いもしなかった。まあ彼女もその地位を捨てたのだがこの際置いておこう。
(彼女は、こうなることが分かっていたのか……?)
そんなことを考えていてもどうしようもないのは分かっていた。
でも僕にはどうしたらいいのか分からなかった。
何を考えてこの国を出たのだろうか。妹君は何が嫌だったのだろうか。妹君はこれからどうしたいのだろうか。
いくら考えても本人がいないのだからどうしようもない。だからといって僕にできることなんてそれぐらいしかない。
悩みに悩んだ末、僕は1つの結論に至った。
妹君を、ユリア嬢を探しに行こう。
もうこれしかなかった。僕には何も分からない。だから、ユリア嬢に直接聞こう。
だが追いかけようにもなぜか妹君が通った痕跡は綺麗になくなっていて、追いかけることもできなかった。
だが世界を旅していていれば、いつかどこかで会えるかもしれない。
そう信じて、僕は国を出る決心をした。
もちろんたくさんの人に反対された。もっと王子だという自覚を持てだとか、侯爵令嬢にそこまでしなくていいだろうとか、本当にいろいろ言われた。その度に僕はこう言った。
「僕は彼女がいないならどうなったっていい」
こう言うと皆すぐに大人しくなった。
実際そうなのだ。僕は彼女がいなくなることがこんなにも辛いことだなんて知らなかった。僕の中で彼女がこんなにも大きな存在になっていることに気付いていなかった。
だから、なんとしてでも見つけなければ。
(ユリア、待ってて)
* * * * *
それからの僕の行動は早かった。貴重な春休みを無駄にするわけにはいかないからすぐに出発する準備を始めた。
最低限の荷物だけを選び、ある程度の進路を決め終わっていつでも出られる状態になったのは彼女が失踪した4日後のことだった。何も考えずに進めていたから、4日も経っていたなんて気付かなかった。
その翌日、見送りなんて邪魔なだけだと思い、日が昇る前に出発することにした。まだ辺りは薄暗く、朝の冷たい空気が肌を刺すようだった。
そして僕は、表向きは旅行として、ユリア嬢を探す旅に出た。
やはり終わりの見えない旅というのは辛いところがあって、夜寝る前などは特に気持ちが落ち着かなくなった。
そんな時はいつも何も考えずに荷物の整理をしたりこれからの進路を修正したりしていた。余計なことに意識が行くと変なことまで考えてしまいそうだったから。
そして僕は、初めに北の国に着いた。
少しユリア嬢のことを街の人たちに聞いてみたりもしたが 返ってきた答えは「知らない」だった。
まあ初めから聞き込みが上手くいくなんて思っていなかったから別に気にしていない。というよりここであっさり情報が手に入ったら逆に疑うだろう。
僕はしばらく北の国に滞在して、次の国に移ることにした。
そして北の国を出る日、僕は1つのことに気付いた。
入れ違いになる確率が、高すぎる。
まあこればっかりは1人で動いている以上仕方のない事なので気にしないことにしようと思った。
彼女に会えるのはまだまだ遠い未来の話だな、と思った。
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