そこからすべてが始まった。
僕と彼女は、幼い頃から婚約をしていた。大人になったらいわゆる政略結婚をする……はずだった。
僕と彼女は、互いを嫌っていたわけではなかった。むしろ世間から見ると少し珍しいくらいに、友人としての仲は良好だった。小さい頃から少しお転婆だった彼女と一緒によく勝手に森に行き、侍女たちに叱られていた。
僕と彼女は、学園に入学した。貴族の子息や令嬢がみんな通う学校で、学園の中に身分の差はないとされていた。たまにそれを無視する輩もいたが、僕たちは貴族の中でも上に位置する存在だから、規範となれるように人一倍努力していた。
僕と彼女は、ときどきお忍びで街に出ていた。さすがに国を出ることは出来ないけれど、自分の国の街を歩き回るのは楽しかった。衛兵にバレて連れ戻されないように、事前に根回しをすることを覚えてしまい、両親に呆れられたりした。
僕と彼女は、あの日一緒に夜会に出た。既に僕たちは夜会に数回出たことがあるが、どれもあまり楽しくなかった。あの煌びやかな雰囲気がどうも自分には合わないようだった。彼女にそれを言うと、私も、と笑ってくれた。その日は彼女の妹が社交界デビューをする日だというので、僕はその令嬢に少なからず興味を持っていた。
僕と彼女は……
それぞれに愛する人が出来てしまった。
僕と彼女は、何事もなければ学園を卒業した後すぐに結婚する予定だった。でも、1番起きてはならないことが起こってしまった。互いに違う人を好きになってしまうということが。
僕と彼女は、何日も話し合った。あの夜会で愛する人が出来たのは互いに知っていたから、喧嘩になることはなかった。それが何よりもありがたかった。喧嘩などをしている暇があったら話し合わなければ。僕たちは2人ともそう思っていた。暇な時間が出来たらすぐに人気のない場所を探して、1番穏便に終わる方法はないかと考えていた。
僕と彼女は、卒業試験の日が近づいていた。卒業試験は普通の生徒なら合格しやすいが、真面目にしていなかった生徒は合格しないこともある試験だ。だが僕たちはこの卒業試験をほぼ満点で合格しなければならなかった。未来の王と王妃だから、ということなのだろう。普段の試験なら慌てることもないけれど、今回は心配事が大きすぎて試験前に慌てていた。
そうこうしているうちに、試験の3日前になった。未だに解決策は見つかっていなかった。その日、彼女に呼ばれて空き教室に行った僕は、1つの案を聞かされた。それは……
彼女は駆け落ちをして国外へ行き、空いた僕の婚約者の席にあの令嬢……彼女の妹を、ということだった。
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