助けに来てくれたのは。
「リア!!」
もう一度、私を呼ぶ声が聞こえました。さっきよりも強い声でした。
ゆっくりとその声がした方を見ると……。
「……ジーク!」
しばらく見ていなかったジークは、ひどく憔悴しているようでした。こちらに向かって走ってくるジークを見て、ぎゅうっと胸が締め付けられるように痛みました。
「あぁ? 何だテメェ。おいおまえら、あいつをとっとと放ってこい」
私を抱えたままの男が周りにいた男たちにそう指示すると、男たちはジークに襲い掛かりました。その手にはやはり、さっき見たものと同じ刃物がありました。
「ジーク!!」
ジークが殺されてしまう。そう思いましたが、その心配はいらなかったようでした。
ジークは悠々と男たちを躱し、手の刃物を地面に叩き落としてしまいました。
勢い余って転がってしまった男たちにそれ以上は何もせず、一直線に私の方へ走ってきました。
「おいテメェ。それよりも近づいたらこの女がどうなるのか分かって、あ? ……うぐ」
私を捕まえていた男が言い終わるよりも先にジークは後ろに回り込み、男を気絶させてしまいました。
落ちそうになって慌てる私を、ジークは優しく抱き留めて背中をさすってくれました。
「リア……ごめん。こんなことになるなんて思いもしなかった」
私は何も言うことができず、されるがままになっていました。
「……リア、もう大丈夫。だから、泣いていいよ」
「え……?」
「そんなに泣くのを我慢してる顔しないでよ」
私が、泣くのを我慢している……?
「う……ぁ……」
何故でしょうか。突然どうしようもないほど何かが込み上げてきて、喉の奥から嗚咽が漏れてきました。
「うわぁぁぁん……」
涙が溢れて止まらなくなり、混乱している私の頭をジークは撫でていました。
私がジークにしがみつくように抱き着くと、更に強く抱きしめてくれました。
しばらくそうしていると、ジークが口を開きました。
「リア、そろそろ戻ろう? ずっと雨の中にいたし、風邪引くかも……って、リア? どうしたの!?」
「ジーク……?」
その後もジークは何かを言っていましたが、何を言っているのか分かりませんでした。
「リア! リア!!」
私の意識は、そのまま闇に落ちていきました。
* * * * *
ここは……どこ、でしょうか……目が重たくて開けられません……。
外、ではない・・・部屋の中? 私は、一体……
あら? 遠くでドアが開くような音が聞こえました。誰、でしょう……? なんだか私の方に近づいてきている気がしますね……。
ん……? えっと、私、頭を撫でられている、みたい……? あったかくて、優しくて、私がよく知ってる気がする手で、ちょっとだけ起きかけているのにまた眠ってしまいそう……。
あ、ほっぺた撫でてるのかな……あったかい、安心する……ほんとにまた寝ちゃいそう……誰だったのか確認したかったのに、意識が、また……。
* * * * *
次に私が目を覚ましたのは、『アイリス荘』の自分の部屋でした。
ベッドに横になっていた私は窓の外を見ようと体を起こしました。起こそうとしました。
(ん……?)
体に、うまく力が入りません。どうしたのでしょうか。
何度か頑張ってみましたがどうしてもだめで、諦めてベッドに体を沈めました。
というか、なんだか体がおかしいような気が……少し動いただけで息が上がるし、頭と体が怠いような……。
しばらく考えていると、控えめな、いえ、控えめすぎるくらいのノック音が聞こえてきました。
ぼーっとした頭でドアの方を見ていると、ゆっくりとドアが開かれました。
「……あれ? リア、起きてたの?大丈夫?」
入ってきたのは、ジークでした。
「ジーク、私は……」
「ん? ああ、覚えてないのか。リア、3日も寝込んでたんだよ」
「3日……!?」
「あんなに長い間雨で濡れていたから、風邪引いちゃったんだね。イザベラさんたちも心配してたよ」
「そういえば、ジークが私をここに……?」
「ああ、あの後そのまま倒れちゃったから。傘もちゃんと持って帰ってきたよ」
「あ、忘れてた。ありがとう」
ふっと視線をずらすと、ドアの近くに私の傘がありました。
「熱は……もう下がった?」
「ふぇ!?」
いきなりジークが額をくっつけてきました。
「ふふ、もう元気になったかな。でも、まだ動き回ったりしちゃだめだよ」
「うん……」
そういえばジークは結構スキンシップが多いんでした。でもそれがくすぐたくって、嬉しくて、ジークはちゃんとここにいるんだって思えました。
それから他愛もない話をしていると、廊下の方から誰かがやってくる気配がしました。
その人物は私の部屋の前で立ち止まり、迷いもせずにドアを開けました。
「あ、やっと見つけましたよ殿下「フレッド!」……って、やべ」
……ん?殿下?
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