退屈なので外に出てみたら。
(……さすがに、暇だなあ)
ジークがこの街を去ってから2週間ほど経ちました。もうジークを探すのは無理だとわかっているから、ずっと『アイリス荘』に引きこもっています。
今日は朝からずっと雨が降っているので、他のお客さんもそれほど外出していないようです。ちなみにかなり長いこといるので、『アイリス荘』に来ている人とはそれなりに仲良くなりました。ジークほどじゃないですけれど。
あまりにも暇でベッドに寝転がってごろごろしていると、私の頭にある考えが浮かんできました。
(よし、お散歩しよう)
え? この雨の中でって? もちろんですよ、でないとなぜ今言い出したんだということになってしまいます。
本当に退屈で仕方がないんですって。大雨っていうわけではありませんので大丈夫ですよ。
まあだからといってこのまま外に出たら風邪を引いてしまうので、対策はしっかりとしないと。
まずは、というかそもそも今部屋着なので普通に着替えるところからですね。
雨だと動きにくくなってしまうので裾が広がっているワンピースなどは当然却下。ひざ丈くらいでちょうどいい感じのものを2つ前? ぐらいににいた街で買っていたのでそれにしましょうか。あの町にいたときは乾季だったけれど、なんとなく必要になる気がして手に入れておいたんですよね。勘って大事です。
あと靴ですね。皆さん聞いてください、この世界にレインブーツがあったんですよ。何でできているのかはよくわかりませんが、結構おしゃれなものもあるのでびっくりしました。異世界も侮れませんねえ。
それはさておき。
最後に髪を少し整えて薄手のコートを着たら終わりです。傘もちゃんと持ったのでこれで安心して外に出られます。
……テンションが高い? わざと高くしてるんですよ。
2週間。もう2週間以上もジークに会えていないんですよ。それまでは、毎日朝からおしゃべりしていたのに。
寂しいんです。一体どうしちゃったのでしょうか、私は。前世の私は、どちらかと言えば人付き合いが煩わしくて、だからバックパッカーになってときどき世界を旅していたのに。それが私で、自由でいることが私の生きがいだったのに。いつから私は、こんなにも『寂しい』なんて思うようになってしまったのでしょうか……。
(ダメだ、どんどん考えが良くない方に傾いていってる。外に出て、頭を冷やそう……)
* * * * *
そうして外に出てみたはいいものの、あてもなく街を歩いているだけで何も変わりそうにありませんでした。
(はあ……)
ため息を吐き出した雨の街はいつもより暗く、少し静かでした。
そこにはちゃんと人がいて、会話がありました。
でも、私は確かにその場にいるのに、まるで映画を見ているかのように、この世界から切り離されてしまったかのような感覚を覚えていました。
地面に足がつかないような、現実味のないその世界は、音があるのかも分かりませんでした。
不思議で仕方がありません。私には、『アイリス荘』の人がいる。街で知り合った人たちだってたくさんいる。なのにどうして、彼がいなくなっただけでこんなにも寂しくなってしまうのでしょうか。
(これも、彼が好きだから、なのかな……?)
そして私は、ぼうっとしたまま歩いていました。
それが良くなかったのでしょう。気が付くと私は、知らない路地裏にいました。
背中に嫌な汗が伝います。できるだけ治安がいいところにいるようにはしていますが、それでも危険なところはあります。
(こんなところにいたら、誰に会うか分からない。早く人の多いところに行かないと)
急いで広い通りに出ようと思い引き返すと、道の先に複数の人影が見えました。
(……!)
その人影はこちらを向くと、ニタリと笑いました。
ザアァ……と雨の音が強くなった気がしました。
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