やっと気付きました。
「え……?」
私の思考はしばらく停止していました。どういうこと、でしょうか……。
そもそも差出人の名前も何もない手紙ですし、誰が置いて行ったものなのかまったく分からないのですが……。
でも、私がゼラニウムを好きだってことは、彼しか知らない、はず。それに……。
赤いゼラニウムは『君がいて幸せ』
忘れな草は『私を忘れないで』
手紙には『もっと傍にいたかった』
頭の中でぐるぐるとまとまらない思考が渦巻き、訳が分からなくなってしまいます。
その場に立ちすくんだまま動けないでいると、封筒の中にまだ何かが入っていることに気付きました。
「……!」
それは、スイレンの花が描かれた栞でした。
スイレンは、前世の私が好きだった花で、誕生花でした。ユリなどはありますがスイレンは確かこの世界にはなかったはず、なのに……。
(ジーク、貴方は一体……)
* * * * *
私は無駄だとわかっていながらジークを探していました。
最初に『アイリス荘』の女将であるイザベラさんにジークについて聞いたら、黙って1枚の折りたたまれた紙を私にくれました。
『突然のことで本当にごめん。でも、僕のことは探さないでほしい』
そして紙の端に小さく言葉が記されていました。
『リア、好きだよ』
「……!」
待って、え? ジークは、私のことが、好き?
「ジークさん、今朝早く出て行っちゃって。私は何も聞いてないんだけど、リアちゃんにそれを渡してって頼まれてね。その後ほんとにすぐに行っちゃったのよ」
「そうですか、ありがとうございます……」
「力になれなくてごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です」
その後もリリーちゃんやアンナちゃん、ナナさんなど私が知っている人皆に聞いてみましたが、やはり誰もジークの行方について知ってはいませんでした。
大通りから路地の小さな店まで手当たり次第に探してみても収穫はなし。どうしようもありませんでした。
ちなみにあのチャラそうな人……フレッドさんも見ることはありませんでした。まあ、あの人は町中で遭遇すること自体ほぼなかったですけれど。
することがなくなった私は『アイリス荘』に戻り、自分の部屋でしばらくぼうっとしていました。
(ジーク、どこに行ったの……?)
もう私の知るジークの行きそうなところはすべて行ったし、もう他にジークを探す手がかりなんて見つかりそうもありません。
え? ジークは探さないでって書いてた?知りませんよそんなこと。
大体あの人が勝手にどっかに行っちゃったんですから、私も勝手にしてもいいでしょう。文句を言われる筋合いはありません。
どうしてそこまでして探すのかって? そんなの決まってるじゃないですか。私は__
(ジークのことが、『好き』だから)
私はずっと、ジークといて、ジークのことを考えていると胸のあたりがもやもやしていて、これの正体が分からないまま過ごしていました。そして、いなくなってから、好きという気持ちだったんだって気付いたのです。
ようやくこの気持ちに気付くことができたのに、そのときにはもう彼はいないなんて、そんなのあり得ないでしょう。そんなの、あまりにも酷い仕打ちじゃありませんか。
そして、私はどうしても確かめたくて仕方がないことがありました。
(ジークが、私のことを、好き?本当に?)
確かにジークはずっと、出会ったときから私に優しくしてくれていました。だから、間違いなく仲のいい友達ではあると思っていました。
だけどジークは手紙に『好きだよ』と残していて、それは変わらない事実で、でも本人に聞くことはできなくて、もどかしくなります。
どうしてジークは、私のことを……。
(分からない、分からないよ、ジーク……)
1番傍にいて欲しい人は傍にいないのに、ただただ時間は過ぎていくばかりでした。
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