あたたかい時間でした。
私とジークは、商店街を出てから15分ほど歩いていました。
「ジーク、どんなところに行くの?」
「ふふ、それは着いてからのお楽しみ」
「むう……」
何回か聞いてみましたが結局答えてくれませんでした。教えてくれたらいいのに。
そうしておしゃべりをしていると、突然ジークが立ち止まりました。
「着いたよ、リア」
「え?」
「すみません、予約をしていたのですが」
「予約して頂いた方ですね。少々お待ちください……ジーク様とリア様ですね。それでは、こちらにご署名をお願いします」
「はい」
まったく展開についていけていないのですが、名前を書いてほしいらしいので書きました。
「はい、確かに受け取りました。それでは中へお進みください」
「ありがとう」
何が何だか分からずぼうっとしていると、ジークが私の額に手を当ててきました。
「リア、しんどい? 休憩する?」
「え?ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしてて」
「そっか。まあのんびり行こう、時間はたくさんあるし」
ジークはふわりと微笑んで、私の手を取り目の前にある建物に入っていきました。
「リアは花は好き?」
「ん? 好きだよ。見るのも育てるのも」
「そっか。ここを選んでよかった」
さっきから何のことを話しているのでしょうか?
そんな私の気持ちなど気にしないかのように、ジークはどこかに向かい歩いています。
しばらくして一つの扉に辿り着くとジークは立ち止まり、私の方に向き直りました。
「リア、ちょっとの間だけ、目を瞑っててくれない?」
「? 分かった……」
言われるがままに目を瞑ると、ジークはその扉を開いたようでした。
瞼の裏に飛び込んできた眩しい光に耐えていると、ジークはまた私の手を引き歩き出しました。
「ねえジーク、そろそろ開けていい?」
「まだダメ。もうちょっと待ってて」
焦れったくなってうずうずしていると、隣から困ったような笑い声が聞こえてきました。
「そんなに急かさないでよ。走ったりしたら危ないし、ゆっくり行こう?」
「うう……」
私結構せっかちというか、待っているのが苦手なんですよね。何でもどんどん自分で進めていくからよく周りに怒られていました。こっちでは気をつけるように頑張っているのですけど、やっぱり嫌いです……。
1分ほど歩いたところで、ようやくジークが立ち止まりました。
「お待たせ、リア。もう開けていいよ」
光に目を慣らしながらゆっくりと目を開けると、そこには一面の花畑が広がっていました。
「きれい……!」
居てもたってもいられなくなり、私はジークを置いて駆け出してしまいました。
前世で見たことのある花もあれば普通ならあり得ないような花もあり、気の赴くままに花畑の中を探索していると、近くに寄ってきたジークがクスクスと笑っていました。
……今までの、全部見られてました。ちょっと恥ずかしいです。
「ふふ、楽しんでくれてるみたいでよかったよ」
「ジーク、ありがとう。こんなところがあったなんて知らなかった」
「意外と知られてないんだよね。すごくいいところだと思うんだけど」
「ほんとに。でも来れてよかった」
心地よい日差しが降り注ぎ、さわやかな風が吹き抜けていきました。
「ねえリア、他のエリアもあるんだけど、行ってみない?」
「え、まだあるの? もちろん!」
この花畑かなりの広さがあるんですが、さらに他のところもあるなんて。もう行ってみたくて仕方がありません。私今すごくテンション上がってますよ!
「よし、じゃあ行こうか。広いし迷うといけないから、手を貸して?」
……待ってジーク、何で恋人つなぎをしているの? ていうかさっきより距離が近いような……。
「リア?」
呼ばれてはっとすると、ジークが心配そうな目で私を見つめていました。
「やっぱりしんどくなってきた?」
「大丈夫だって。ありがとう」
私がそう言って笑うと、ジークは何も言わずに笑って、歩き出しました。
ただ歩いているだけの時間でしたが、そこにはとても優しい時間が流れていました。
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