不思議な朝でした。
次の日、まだ外が薄暗いうちに目が覚めました。
(カイは……どこかで帰ったのね)
一言何か言ってから帰ればいいのに、と思うけれど、カイに限らず精霊は皆自由奔放な性格らしいので、無理な話ですかね。
とりあえず部屋に付いている洗面所で顔を洗い、着替えて1階に降りることにしました。
(服は……面倒だし適当なワンピースでいいかな)
リュックの中から紺色のワンピースを出して着替え、軽く髪を整えて準備を終えたとき、静かなノックの音が聞こえました。
(なんか、ノックされるの多いわね……)
鍵を開けてゆっくりとドアを開けると、ジークが立っていました。
「おはよう、リア。……昨日とは違った感じだね」
「おはよう。昨日はイザベラさんから借りてたから。それより、どうしたの? こんな早くに」
「いや、朝の散歩でもどうかな、って思ったんだけど、リアって起きるの早いんだね。まだ僕とリア以外誰も起きてないみたいだよ」
「私が起きてなかったらどうするつもりだったの?」
「さあ?」
「はあ……いいよ、丁度暇になっちゃってたから」
「よし。じゃあ行こう。遅くなると人が多くなるし」
「うん」
日が昇りかけている朝は、まだ街が眠っているようでした。人の姿はほとんどなく、私とジークの足音がやけに大きく聞こえました。
しばらく2人で歩いていると、不意にジークが口を開きました。
「そういえばさ、リアはどうしてこの街に来たの?」
「……別に、特別な理由はないよ。いろんな国を回ってみてる、それだけ」
「そっか……僕はね、人を、探してるんだ」
「人?」
「うん。とは言っても、会ったことがあるのはほんの数回なんだけどね」
「大切な人?」
「分からない。だけど、探さなくちゃいけないんだ」
「そうなんだ……」
ジークは少し、寂しげな目をしていました。
「そういえば、ちょっとリアに似てる気がする」
「どうして?」
「雰囲気が、かな。でもやっぱり違う。髪の色とか、結構違うんだよね」
「その人は、ジークが見つけたいの?」
「どういう事?」
「誰かから言われて探してるの?」
数秒の沈黙の後、ジークは笑いました。
「リアって鋭いんだね。そうじゃないって言えば嘘になるかな。でもそうって言っても嘘になる」
「……よく分からない」
「ははっ。僕自身も、よく分からないんだ。だから今は、探し出さないと」
ジークって、何だか不思議な一面を持っているんですね……。
「そうだ。そろそろお腹空いてない?」
「あー、確かに」
「じゃあ1回帰ろうか。その後、今度は違うところに行こう?」
「うん、分かった」
* * * * *
『アイリス荘』で朝食を取った後、またジークと街に繰り出しました。たまたま居合わせたイザベラさんが私を見て何か言いたそうにしていましたが、リリーちゃんとおしゃべりして気付いてない振りをしました。また剥ぎ取られるのはゴメンですよ。
さっきジークが私に見せたいものがあるって言っていました。一体何でしょうか。
一度部屋で休んでから1階に降りると、ジークが誰かと話していました。
(ジーク……?)
声をかけずにそのまま様子を窺っていると、ジークと話している人の声が聞こえてきました。
「ねえねえいいじゃない。ちょっとワタシと遊びに行こうよ?」
「だから、連れがいるんです」
「つれないわねえ。ちょっとくらい大丈夫よ」
「……」
えっと、これってジーク、ナンパ……逆ナンってやつですか。
確かにジークに絡んでるお姉さんは綺麗ですけどねえ。でも金髪巻き髪で、化粧濃くて、露出度高めな服着て、10cmはありそうなヒールを履いてる女の人が逆ナンして、果たして成功するんでしょうか。
というか、何だか少しモヤモヤした気持ちが出てきます。ジークがそんな風にされてるところを、なぜか見たくないと思いました。
気が付くと私は、ジークとお姉さんがいるところにゆっくりと近づいていました。
「ジーク、遅くなってごめんね」
ジークは驚いたのか目を見開き、破顔しました。
「リア!」
ジークはお姉さんの伸ばした手を振り払い、私の手を取ってお姉さんに淡々と言いました。
「連れが来ましたので失礼します。あと、この先また僕に絡んでくるようでしたら、今度は然るべきところに訴えますので」
「え、あ、待って……!」
慌てるお姉さんを無視して、ジークは私の手を掴んだまま『アイリス荘』の外に出ました。
「……リア、ごめんね。怖かった、かな?」
「ううん。むしろかっこよかったよ」
「! そっか、ありがとう。じゃあそろそろ行こうか」
「うん!」
トラブルはあったけれど、今日のお出かけが楽しみです!
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