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古代文明人の生き残り  作者: 十良之 大示
第3章:リデスカーザの英雄譚
55/58

054:怪しい

次こそ判明……?

「ありがとうございます。リデスカーザさん」

「何で礼をする?」

「気にしないでください。そうしたいと思っただけですので」

「……? 変な奴。しかしやはりこれだけじゃ物足りない」



 未だ腹が満たされないのだろう。リデスカーザが臍の露出している艶やかな腹部を撫でる。


 彼女が気絶していた時は救護精神が働いてか特に何も思わなかったのだが、今の可愛らしい仕草に少しドキッとしてしまう。ヒューは頰を薄く赤らめ、思わず視線を外した。



「すみません。何せ暫くは節約しないといけないですから」



 弱っている女性をお腹いっぱい食べさせてあげたい気持ちは山々だが、こればかりはヒューもどうしようもない。理想とする好意が不十分なのは別に彼の所為ではないのだが、どうしても申し訳なさそうに言葉を濁してしまう。



「この村の外に獲物はいないのか?」

「そうですね……。砂熊、砂(うつぼ)、岩亀など食用の生物もいるにはいるのですが、やはりまだ危険ですので狩猟はまだ……」

「だがその――なんて言った?」

「ええと、“砂漠の主”ですか?」

「ああ、そいつだ。そいつがこの村まで直接襲い掛かってくる可能性はないのか?」

「え? あ、いや、うーん。……言われてみればその可能性もありますね」

「なら別にこの村の外にいてもいなくても、危険度は変わらない。違うか?」



 確かに言われてみると――である。ヒューは返す言葉なく納得してしまう。根拠も無いのに村にいれば安全であるとすっかり思い込んでしまっていた。

 だが待てよ、とヒューは彼女に向き直る。



「ですがこの村の出入り口には派遣されてきた見張りがいます。彼らがこの村を守護してくれているから安全と考えるべきかもしれません」

「見張りというのは何人だ?」

「ええと、たしか六名ですね」

「……変だ」

「変、ですか?」



 不意に紡がれた言葉にヒューは思わず聞き直す。



「こんな小さな村の見張りにしては数が多い。リデスカーザなら置いてもその半分だ」

「それだけ“砂漠の主”を警戒しているのでは?」

「……分からん。お前の言う通り、この国の奴らが臆病ならそうなんだろうが……」



 釈然としない様子でリデスカーザは顎に指を当てる。



「何にせよ、もしそいつがこの村を襲撃したとき、見張りの奴らが勝つ見込みはないんだろ?」



 あいも変わらず無遠慮にリデスカーザは痛い所を突く。だがタロス村に常駐する見張りの十倍以上が動員されても成果は未だ挙げられていないと聞く。ならば彼女の言葉は的を得ていると言えるだろう。

 ヒューは言い辛そうに口を開いた。



「まあ……そうですね」

「なら結局ここに居ても居なくとも危険度は変わらない。リデスカーザは少しだけ外に出てくるぞ」



 それだけ残してリデスカーザは唐突に席を立つ。



「え⁉︎ いや、ちょっと待ってくださいってば! さっきも言った様に、見張りがいるから“砂漠の主”が襲撃を躊躇っている可能性だってあるんですよ⁉︎」

「知らん。それに二日後には砂漠を横断する。少し外に出るぐらい何も変わらない」

「いや、変わりますって! もしかすると明日には“砂漠の主”が退治されている可能性だってあるじゃないですか!」



 ――というか出来ればそうあってほしい。ヒューは切に願う。それまではでき得る限り危険を冒したくない。ところがそんな彼の嘆願も仮面の女性が汲み取ってくれるはずもなく、早速すたすたと歩き出していた。



「あっちが村の入り口だな?」



 煉瓦が不規則に積まれた不恰好な壁を見て、リデスカーザはその方角へと向かう。



「あー、もう! 分かりましたよ。ぼくも付いていきますから待ってください」



 もしここで彼女が還らぬ人となってはヒューも目覚めが悪い。折角命を救ったのだから無闇に命を晒す様な危険を冒してほしくないのが本音だ。しかし食糧難に陥っているのもまた事実。だから壺を家に片付けた後、ヒューはリデスカーザに条件を付け加える。



「ですがあくまでも少しだけ、です。砂亀なら近くの狩場に生息していますから、それ以上先には行きませんからね」

「分かっている。リデスカーザが行きたい場所の案内は元々二日後の約束だ。リデスカーザも今日無理するつもりはない」

「それを聞いて安心しましたよ。全く……」



 無茶をしないという発言を得てヒューは少しだけ安心した。気は進まないものの、幸いな事に砂亀を狩る事の出来る場所は見張りからもそう遠くない視認出来る位置にある。何かあった時には頼る事も出来るはずだ。その安心感を拠り所に、ヒューは村の出入り口へと向かう。



「おい、そこの二人待て。どこへ行くつもりだ?」



 出入り口で待機する見張りの一人が二人を呼び止める。



「はい。少し離れた狩場に行こうと思いまし――」

「ならん! 問題が解決するまで誰も通すなという王の厳命だ。大人しくしていろ!」



 ヒューが訳を言い切るより早く、見張りの男が高圧的に言い放つ。



「……ですが、この村の食糧も底を尽きかけています。そろそろ補充しなければ村人の命も危うくなるかもしれません」

「前の報告ではあと三日は保つと聞いているが?」

「ええ、はい、まあ……。ですが――」

「くどい! 何度も言わせるな」



 聞く耳をまるで持たない典型例だ。他の見張り達も、威圧するかのようにジリジリと二人に詰め寄り始める。

 まさかここまで反発されるとはヒューも思いもよらなかったのだろう。見張りの男達の圧に押され後退る。



「やはり大人しく引き返しませんか?」



 そうリデスカーザに小声で囁くが、彼女は近付く男達に臆するどころか、むしろ自らその距離を縮めていく。



「ちょ、リデスカーザさん?」

「どけ。リデスカーザは食い物を探しに行く」

「なんだぁ、お前?」

「妙な仮面被りやがって。俺らの話を聞いていなかったよか?」

「お前らこそ聞こえなかったのか? リデスカーザはどけと言った」

「……いいか、女。俺らも意地悪で言ってるんじゃねえよ。村人の安全を守る為にここにいるんだ。もしお前が外に出て“砂漠の主”を刺激した結果、この村が襲われてしまったらどう責任を取るつもりなんだ?」

「知らん。リデスカーザはここに流れ着いただけだ。この村とは関係ない」

「あん? そりゃどういう――いや、どうでもいいな。誰だろうとここから出すなという王の厳命だ」



 そこで一度会話が振り出しへと戻る。両陣営が互いに険悪な雰囲気を醸し出す中、ヒューだけが行く末を案じてそわそわどきどきとしていた。そしてほんの一瞬の沈黙を経て、リデスカーザの言葉が別の視点へと向けられる。



「ならお前たちからもらう」

「どういう――」



 そして唐突に方向転換して歩き出したリデスカーザを見て、見張りの男達の表情が一変する。



「な、待て!」



 すかさず男達も小走りに、リデスカーザの行く先を遮るように回り込む。彼らの後方にあったのは煉瓦の壁に併設された見張り小屋だ。おそらくは彼らが交代で寝泊まりする為のものなのだろう。



「どけ」

「ふざけるな! 一体なんのつもりだ?」

「お前らこそどういうつもりだ? ここの村人達は飢えに苦しみ始めている。お前らが見張りをしていても、護るべき者がいなくなったら無意味だ。ならばお前らが持つ食糧を分け与えるのが道理だ」



 リデスカーザが放った言葉は正に正論でしかない。男も一瞬押し黙ってしまう。



「うぬぅ……。そ、それはそうだが……そ、そうだ! 我らの食糧は任務遂行の為に国から支給されたもの。我らの勝手な判断でそれを配給する事はできん! そうだな……あと二、三週間もすれば問題は解決するだろう。それまで自分たちで何とかするのだ」

「二、三週間⁉︎」



 男の言葉にヒューは思わず声を上げて驚いてしまう。



「む、無茶です! そんなに長いとタロス村の住民は全員飢えで倒れてしまいます!」



 ただでさえ討伐隊に食糧の大半を持っていかれ、頼みの漁もめっきり魚が掛からなくなった。タロス村は完全に自給自足で賄えない窮地に立っているのだ。ヒューは訴えかける様な目で男たちを見る。



「それに以前討伐隊の方々に食糧をお渡しした時の話では、あと四日もすれば解決すると聞いておりました。しかし既に一週間。それを更に二、三週間待てと言われましても……!」

「仕方ないであろう。今までにない化け物相手に討伐も苦戦を強いられているのだ。それにお前は確か、王より直々に舟を一隻下賜されたはずだろう? ここで我々に嘆願する時間があるならば、漁に精を出せば良かろう」

「そんな……」



 完全にタロス村を突き放している発言に、ヒューは絶望する。農作物はまだ収穫までひと月は必要だろう。また舟を所有するヒューにしか出来ない漁も、ここ最近は不思議と収穫量がほぼゼロに近い。村人全員を賄えるだけの収穫が見込めるかと問われると、正直期待出来ない。

 最悪、砂漠へ狩猟に行けばと考えていたのだが、まさかそれすらも出来ないとなると、もはや心が哀しみに暮れるのも致し方あるまい。

 ヒューの両腕が力なく垂れ下がる。



「……おい。お前がさっきリデスカーザに出した料理、あれはこの国ならどこでも食べられるのか?」

「へ……?」



 不意にリデスカーザの言葉がヒューへと放られる。だがあまりに咄嗟だった為、停止しかけていた思考が上手く切り替わらない。



「どうなんだ?」



 そして再び督促する声に、ようやくヒューの思考が切り替わる。



「あ、いえ。あれはぼくのオリジナル料理ですので、市場に出回っている事はないと思うのですが……。ゴルゴンで海に面しているのも、ここタロス村だけですし……」

「ならこいつらにその料理を渡した事は?」



 なんでそんな事を聞いてくるのだろうと不思議に思うが、まだ完全にショックが拭えていないのだろう、ヒューは素直にリデスカーザへ返答する。



「いえ、ありません。討伐隊の方々に渡した――と言うより、持っていかれた事はありますが……」

「そうか」



 リデスカーザが短くそう口にすると、今度は見張りの男達へと視線を戻した。



「なら何でお前たちがこいつの料理を持っているんだ?」

「へ?」

「あん? どういう意味だ?」



 ヒューと男たちの一人が同時に疑問符を浮かべる。



「その建物の中から、こいつが作った料理の匂いがする。何故だ?」

「に、匂いって……おいおい、別に何も匂わねえよ」

「全くだ。腹が減り過ぎて幻臭でも嗅いでいるんじゃないのか?」



 からからと嘲笑する男たちの言葉にヒューも同意見だった。彼女がどういう意図でそんな発言をしたかは定かではないが、匂いなどどこからも漂って来ない。あるとすれば海の匂いだが、住み慣れたヒューの鼻にはそれすらも区別がつかない。

 だがリデスカーザは構う事なく言葉を続けた。



「ならその中を見せろ」

「おい女、いい加減にしないと――」



 また一歩前進しようとするリデスカーザの前に、男の一人が立ちはだかる。



(これ以上彼らの機嫌を損ねるのは危険だ!)



 男の動きに反応してヒューもリデスカーザを庇うように飛び出そうとした。しかしヒューの勇気ある行動は一歩目にて動きを硬直させる。



(…………え?)



 なんだこれは。

 ゆっくりと上向きとなった顎が、魚の様にパクパクと開閉する口によって上下する。見れば他の連中も似たような反応を示していた。

 ――ただ二人を除いては。


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