049:王として。
(……危なかった)
静寂を取り戻した森の中でデレピグレオは激しく安堵していた。
(〈第六感〉は強力だが、それが機能しない状況下じゃやっぱりオートマタは脅威過ぎる。これは支給対策が必要だな……。相手が違うとは言え同じ手に三度も引っかかるなんて……あいつらが見てたら失望したに違いないぞ)
未だズキズキと痛む体をさすりながら、デレピグレオは大きなため息を吐き出す。
「……終わったのか?」
「みたいだな。逃げられてしまったみたいだが」
「そうか……」
「それよりもフランは?」
「ダメだな。完全に停止してしまっている。“守り神様”に診てもらわねばならんだろう」
遠くに横たわる男の方へと視線を向ける。
あれだけ騒がしかったお祭り男が今では森の静寂に一役買っていた。
いや、マリアナが放った火の始末もまだ残っているので、静かとは言い難いが――
「デレピグレオ殿ー!」
チリチリと照らされる二人と一体の下へ、騒ぎを嗅ぎつけたバルボロらと、アハムテヘトの兵士らが挙って駆けつけた。
「バルボロ殿……良いタイミングだ」
「この騒ぎは一体……! それにそのお怪我は⁉︎」
「俺は大丈夫だ。それよりも先にあの火の始末だ。森全土を巻き込む前に、すまんが何とか頼めるか?」
「ええ、そりゃ勿論。――おい、お前たち!」
バルボロは連れて来た王国兵を率いて、急ぎ消火活動へと移行する。
「陛下……ご無事で⁉︎」
「……何とかな。民間人に被害は?」
「いえ、特に誰か傷ついたという報告は入っておりません。それより陛下の手当てを――」
「馬鹿者! 我の事よりあやつらと共に消火活動に当たれ。これ以上火の手を広げるな!」
「――はっ!」
アスタの一声で、それぞれの王国兵らが協働して火の手へと走る。幸いなことに水魔法を扱える者が殆どであった為、燃え広がるかと思われた森火事は徐々に鎮静化していく。
その様子を確認し、ようやくアスタも肩の荷が降りる。
「これでどうにか何とかなりそうだな」
「……ああ。そうだな」
「…………」
「…………」
「……あ〜、貴様にも世話になったな」
「……へえ?」
「……何だ、その含み笑いは?」
「いや何、生意気なくそガキにも礼を述べるぐらいの常識はあったんだな〜って」
「喧嘩売ってるのか貴様!」
「冗談だよ。だがそうやってすぐかっかするところは直しておいた方が良いと思うぞ。人を見下すような態度もな」
「……ふん。一体何様のつもりだ?」
そう少しつまらなさそうにぼやく。しかし表情を見る限り、別に反論しようという訳でもなさそうだ。初対面の時よりも少し落ち着きが見られる。
戦いを通して少し成長したとでも言うべきか。
そんな些細な変化に微笑みながら、デレピグレオも落ち着いた口調で返した。
「ま、俺も規模は小さいとはいえ一族のまとめ役だからな。偉そうに聞こえるかもしれんが人生の先輩としての忠告とでも思ってくれ」
「…………ふん」
「生意気なのは変わらず、か」
「何か言ったか?」
「いや、別に何も」
「……そういえば貴様、たしかガリバ族とか言っていたな?」
「ああ。そうだが?」
「そのガリバ族とやらは一体どこで暮らしておるのだ?」
「あー、そうか。同盟の話は届いていないのか。あんだけ大々的にパレードもしたってのに」
「同盟?」
一人納得するデレピグレオを他所に、アスタは首を傾げた。
確かにベルンシュタイン王国内では大々的な宣伝となった為、国内でガリバ族の名を知らぬ者は殆どいない。何せベルンシュタイン王国を救った英雄達なのだから。これは吟遊詩人も挙って詩にするする程の人気ぶり。デレピグレオからすればむしろ気恥ずかしさもある位だ。
ただ外部的に周知されている視点は同盟話ではなく、ベルンシュタイン王国が帝国の侵攻を退け、さらには帝国の防衛都市ハッタンを制圧するという偉業についてだ。
その裏で――実際には表立ってなのだが――ガリバ族が活躍したという話は、森林国をはじめとする他国にはあまり認知されていないのである。
(まあ確かにインパクトがあるのは戦争勝利っていう事実の方だからな。仕方ないと言えば仕方ないんだが)
しかしそれがデレピグレオ達にとって特に不都合があるという訳でもないので、正直どうでも良い。
「 ……いや待て。そういえばバルボロが友好関係を結んだとか話していたな。帝国との戦争においても活躍したとか。てっきり我との謁見に立ち合わせる為に適当に見繕った作り話と思っていたのだが……なるほど。全て事実だったわけだ」
深くため息を吐いて、アスタはようやく全てを悟ったかのように薄っすらと笑みを溢す。
「で、王国に手を貸したと言う事は貴様らの住む場所も王国内という訳だな。帝国に侵攻されては住む場所を失ってしまうから」
「いや。俺たちは別に王国内で暮らしているわけじゃないぞ」
「何?」
「俺たちの住処は金樹海だ」
「な――⁉︎」
アスタが分かりやすく驚愕を露わにする。
「お決まりの反応をどーも。先に言っておくが嘘じゃないぞ?」
「……しかしあそこは踏み入れれば最後、生還不可能な魔の森と聞いているぞ? あの帝国ですら支配不可能とされる不可侵の領域。その中でどうやって生活すると言うのだ?」
「ま、色々と方法があるんだよ」
デレピグレオが言葉を濁す理由を察した為か、アスタは己の関心を抑え込みそれ以上踏み込む事を良しとしなかった。その代わりとしてか別に浮かんだ疑問をぶつけてくる。
「……では何故貴様は王国に手を貸したのだ?」
「まあ偶然が重なった結果――みたいなもんだな。しかし何だ、最初会った頃はまるで俺らに興味無かったくせに、急に質問攻めじゃないか?」
「む」
「そういえば結構失礼な態度を取られたな。出会って早々門前払いを食らいそうになったし」
「うぐ⁉︎」
「ああ、それにまだ謝罪の言葉ももらってなかった気もするな」
「そ、そういう貴様も――」
「ちゃんとしたはずだが?」
「う…………」
だらだらと苦汗を流しながらアスタは言葉を詰まらせる。つまらん意地とプライドが邪魔をしているのだろう。ら
そしてぐるぐると己の中で渦巻く葛藤を泳ぎ切り、ようやくアスタが一人の男として殻を破った。
「……すまなかった!」
アスタの頭上がしっかりとデレピグレオへと向けられる。
「そして今回の件、我が国の事情に巻き込んでしまった事を謝罪する。加えて我が国を救ってくれた事、アハムテヘトの王として本当に感謝する!」
「…………」
「……な、何なのだその顔は?」
「いや、何て言うか見違えたな〜っと思って」
「……馬鹿にしてるのか、貴様?」
「馬鹿言え。ただ――筋を通す男の姿ってのは格好良いもんだ。だからそう、アンタの王としての振る舞いに一瞬見惚れたってだけの話だ」
「……そうか」
「ああ」
「…………ふん。ま、まあ我はちゃんと謝罪はしたからな。もう質問には答えてもらうぞ?」
「それは少し都合が良すぎ――いや、まあいいか。なら俺からも色々と今後について話し合いたい事もあるしな」
未だ転がるフランの事はすっかり忘れて、二人は互いに語らい合う。それは消火活動が終了してからも暫く続いていた。
ジャンル〈異世界転生・転移〉
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