040:マリアナ戦その伍
颯爽とアスタのピンチを救ったまでは良い。
斑狒々の下を後にしてアスタを追って森中を駆け巡り、民達が騒ぎ立てながら避難する中、どうにか騒ぎの中心を発見したわけだが――。
(……どういう状況だ、これ?)
取り敢えず不敵に笑ってみせるが、デレピグレオの内心では絶賛疑問符大量生産中であった。
何せ、ようやっと視界にアスタを発見したかと思えば、アスタは頭に銃を向けられ、更には周囲に二十人程の兵士が取り囲んでいた。
何より飲み込めないのは銃を握る少女についてだ。
無論、ゲーム時にも銃は存在していた。
弾頭を目視で確認する事が出来ない為、回避が極めて困難なオートマタ専用武器。構えられたら最後、ダメージは必ず通ってしまう。防御系スキルを使用すればダメージの軽減は出来るが、それ以上は残念ながら見込めない。オートマタが公式チートと批判される一つの要因である。
だがデレピグレオの予想通り、自身が射線上に割り込む事で〈第六感〉が発動し、回避も防御も容易になった。
今回は使い捨ての棍棒程度しか持ち合わせていなかったのでそれで叩き落としたわけだが――デレピグレオはチラリと棍棒の状態を確認する。
特別な付加効果もない木の棒。当然の事ながらすっかり棍棒の表面は削られてしまっていた。
元が太かったのでまだ武器としては使えるだろうが、高速回転する弾丸をはたき落とすには向いてない様だ。とは言っても別に高価なものというわけでもないので、デレピグレオにとってはどうでも言いのだが――。
(それよりも問題なのは……)
デレピグレオは特に自分の心を揺さぶった目の前の少女の姿に釘付けとなる。
(何で空飛んでるんだ⁉︎)
ゲーム時には存在していなかったはずの泉 宗吾の知らない機能に両目を広げて驚愕していた。元ゲーマーとしての性だろう。訳が分からなさすぎて自然と笑みが溢れ出てしまう。
「もう一度聞く。あなたは誰?」
カチャリと銃口がデレピグレオに向けられる。
「いわゆるお邪魔虫ってやつだ。肝心なところで現れる例のやつ。そういうキミは?」
「……帝国軍帝国四神“玄武”マリアナ・ヴェンデッタ」
「あー、なるほど。キミが指揮官ってわけだ。まさか女帝以外にもオートマタがいたとはな。それもこんなに沢山」
鷹揚に手を広げて連中を眺める。
斑狒々の言葉を鵜呑みにするのであれば、結界をすり抜ける事が出来るのはオートマタのみ。つまりは彼らがそうだという事だ。
空を飛んでいる目の前の少女に至っては予測するまでもない。確実にそうだろう。
図星を突かれた為か、マリアナの目が細まる。
「……何故その事実を知っている?」
「キミらがオートマタだという事実か? それともキミらのボスの正体の話か?」
「両方」
「まあ簡単な話さ。どっちもこの森の“守り神様”とやらの情報ってだけ」
「……そう。尚更そいつを抹殺しなければいけない理由が出来た。情報提供には感謝する」
「お役に立てたようで何より」
「…………おい、貴様……」
明らかに弱った様子のアスタがデレピグレオの背中を睨む。
「まあそういうなって。助けてやっただろ」
「それとこれとは別だ! 何故無意味に情報を洩らすのだ⁉︎」
「察するに、元からこいつらの目的はアイツだろ? 居場所を吐く訳でもないんだから問題ないだろ」
「っ、それは――」
それでも何か言いたげにアスタが言葉を探ろうとするが、デレピグレオは無視してマリアナへと向き直る。
「ところで、今度はこちらからの質問なんだが……何でキミらオートマタは正体を隠しながら生活しているんだ? それと、一昔前にプリミティブを滅ぼしたのはキミら同様オートマタなんだろ? その理由は何なんだ?」
「…………」
「……やれやれ。今度はだんまりか」
ジッと品定めされているかのような視線がデレピグレオに纏わりつく。まるで表情が読めない。いや、機械だからと認識するならば無機質な表情で当然ではあるのだが、デレピグレオにとってオートマタとは現在でこそ第一世代と呼ばれるモノだ。
フランの件で初めて知ったとは言え、ここまでヒューマンやプリミティブと差異のない外見には未だ慣れない。空を飛んでさえいなければ彼女がオートマタである事もきっと忘れてしまうだろう。
(まだ攻撃する様子は見られないが注意は怠るべきではないな)
デレピグレオも黙って彼女が動くのを待つ。
とその時、デレピグレオは近づいて来る別の気配に注意を削がれてしまう。フランだ。
フランは近づいて開口一番、相変わらずの豪快な口調でデレピグレオの肩をバシバシと叩いた。
「よお、兄ちゃん。さっきはマジでナイスタイミングだったぜ!」
「そりゃどうも。……大丈夫か?」
ようやく駆けつけてきたフランの姿は、その元気そうな口調とは裏腹にボロボロであった。
服は破れ、血で汚れ固まり、肌には打ち身の痕に飛び散った自身の血が付着している。素人目でも分かる。かなりの重傷だ。
(てか機械なのに血って出るんだな。いや、血液に見せかけた何かなのか?)
「おうよ! 不意を突かれちまったが全然問題ねえ。何せ俺様は最強だからな! ダーッハッハッハ!」
「そ、そうか。何て言うか……相変わらず凄いな」
「まあな! さ〜て、そろそろこの嬢ちゃんに俺様の凄さを見せつけてやるとしようか」
「……愚か。もうあなたでは私に勝てない。それに私の一撃によるダメージは無視できないはず。今はまだ立っていられるようだけど、いつ限界が来てもおかしくない」
「ばーか。俺様は血を流してからの方が強くなるんだよ」
「全く理解出来ない。型落ちとはいえ、同じオートマタとしてそろそろ不愉快。望み通り終わらせる」
「上等! かかって――」
「はいはい、お二人さん。待ってもらえるか?」
ヒートアップしていく両者の間にデレピグレオが割って入る。
「あんたには悪いんだが……彼女、俺に譲ってくれないか?」
「おいおい。いくら兄ちゃんの頼みとはいえ、そりゃ少し横暴じゃねーのか?」
「いや、お前にだけは言われたくねーよ」
ボソッ。
「うん?」
「いや、何でもない。――ほら、周りを見てみろ」
そう言ってフランに周囲へ注意を向けさせる。
取り囲む鎧姿のオートマタ。フランは不思議そうに首を傾げる。
「あの数、もしも一斉に襲われたら俺じゃ対処出来ん。そうなったらそこの王様も危険だろ? だが……アンタが、最強であるアンタが連中を見張っててくれるなら、俺は目の前の一人に集中する事が出来る。
だからどうだ? すまんが彼女は俺に譲ってくれないか?」
真剣な眼差しでフランに訴えかける。
勿論半分以上は口から出まかせだが、少なからず本音も織り交ぜてある。
正直公式チートと揶揄されるオートマタと戦闘するのは気は乗らないし進みもしないが、斑狒々の話を聞いた以上、今後彼らと衝突する可能性が高いのも事実。そうなった時の為に、戦闘記録を身体で感じ取っておきたいのだ。
だからなるべく邪魔の入らぬ一対一での戦闘を行いたい。
しかしフランにそれを伝えたところで半分も理解しないだろう。だがここにくるまでフランという男の性格はある程度掴んできたつもりだ。
(ならば適当に増長させて上手くコントロールすれば……)
「なるほど……。兄ちゃんの言いてー事はよく分かった」
そう大きく頷き、フランはデレピグレオの肩をトントンと叩く。
「ホ。分かってく――」
「要はこの俺様を差し置いて、敵大将の首っていう大金星をあげてーんだろ! そうはさせるかー!」
そして形相を一変させ、またもやマリアナ目掛けて突進していった。
「コイツやっぱ全然分かってねー⁉︎」
脇目も振らず猛進するフランの耳に、デレピグレオの叫びは届かない。
それどころか、早速拳を振り上げてマリアナの下へ跳躍していた。
「……愚か」




