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古代文明人の生き残り  作者: 十良之 大示
第2章:森林国アハムテヘト
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038:マリアナ戦その参

「いーや。まだだ」



 だが打った当人がアスタの言葉を否定する。



「まるで鉛でも殴ったみてーな感覚だ。表面は柔らかいってぇのによ。あいつ本当にヒューマンか?」

「……いや、あの女の正体はオートマタだ。ヒューマンじゃない」

「オートマタ? 何だそりゃ? いや、まてよ。あの猿も前にそんな事話してたような……?」

「大昔から存在したとされる種族の一つだ。中身は機械作りでヒューマンやプリミティブとはまるで異なるらしい」

「へえ、通りで……」



 二人が注視するソレがゆっくりと起き上がる。

 唇を切った為か、つう、と血が顎へと垂れていた。マリアナはそれを拭うとフランの方へと視線を返す。



「機会仕掛けって割には血も出るんだな」

「……()()()()

「あん? どういう意味だ?」

「データベースを確認して照合した。第三世代オートマタ、型番PF82、個体名フラン。百年以上も前に森林国の調査に這わされたモノ。

 何故あなたが彼らの味方をしているの?」

「はあ? 何言ってんだ?」



 突然饒舌となったマリアナの言葉にフランは首を傾げた。しかしすぐ後ろにいたアスタは違う。



(そうか……! さっき“守り神様”が仰っていたあの事件、フランは元帝国のオートマタだったというわけか!)



 合点がいった。当人は全く理解していないようだが。



「俺様はこの国のモンだ。俺様が味方するのは当たり前だろうよ」

「違う。あなたは帝国で生まれた。だから彼らの味方をするのはおかしい」

「やれやれ。ネジの飛んだ嬢ちゃんだぜ。全く話が通用しねえ」

「……どういう事? もしかしてプログラムが書き換えられている?」



 マリアナの瞳がアスタを射抜く。



「…………」

「まあいい。目的は結界の解除とこの国の制圧。邪魔をするならば容赦はしない」

「へっ、そりゃこっちの台詞よ。嬢ちゃん、まだ俺様に勝つつもりでいるのかい?」

「当たり前。あなたは所詮第三世代。出力は私と大差無くても性能は私の方が圧倒的に上。負ける道理がない」



 そうハッキリとマリアナは断言する。



「ほう? 面白えじゃねえか。なら見せてくれや! 俺様に勝るってところをよ!」



 カカ、と狂気に身をやつし、フランが突っ込む。そう、馬鹿の一つ覚えの如くただの突進。だがそれ故に凶暴だ。

 当たれば骨は砕かれ、体は吹き飛び、遠く離れた場所へと着地することになるだろう。例え相手が同じオートマタとは言え、飛距離が短くなる以外に大ダメージが免れない事に変わりはない。下手に避け損なっても危険である、


 それを理解しているからこそ、マリアナは冷静に対処準備を整える。


 両袖から取り出したるは黒く小さな何か。それはマリアナの両手にそれぞれ小さく収まり、フランへと向けられた。



「大きな的。あなたが同じオートマタとは信じ難い」



 哀れそうにマリアナが引き金を引く。


 ダン、ダン、ダン、ダンッ!


 ――帝国製試作型5Mリボルバー。

 マリアナ専用の武器の一つだ。銃口から発射された弾丸は目にも留まらぬ速さでフランの両手足を射抜く。



「があ……! な、なんだぁ⁉︎」

「フラン⁉︎」



 四肢を襲った突然の激痛。フランは勢い余ってその場で転倒してしまう。瞬時には何が起こったのか理解出来なかった。しかしマリアナが握るリボルバーの銃口から薄っすらと煙が出ているのを見て、ようやく武器らしきもので攻撃されたのだと理解する。



「それか! 汚ねえぞ! 武器を使うなんざ!」

「……一般的に少女に全力で殴りかかろうとする男の方が卑劣だと判断する」

「るせー! もう女だからって容赦しねえからな!」



 激痛が走るが怒りで押さえつけ、フランは再度特攻する。



「無駄。直線的な動きしか出来ない者にコレは回避出来ない」



 ガチャリと銃口がフランの頭部へと定まる。



「させるか! 〈透し・(いかづち)〉」



 隙を見て回り込んだアスタが先にマリアナの後方へと到達する。フランには悪いが一対一でも分が悪いと判断したからだ。

 だが残念な事にアスタの思考はマリアナの予測を上回るに至っていなかった。その証拠にアスタとマリアナとの間に控えていたオートマタが二体、割り込んでくる。



「何だと⁉︎」

「あなたが取るであろう行動は既に十七手予測済み。もう私に近づくことさえ不可能」



 その言葉通り、アスタの攻撃はオートマタによって阻まれ、更には反撃まで食らってしまう。



「がっ、……くそ!」

「ちっ、ダラァ!」

「無謀」



 すかさずフランも攻撃を仕掛けようとするが、銃撃に阻まれてしまう。咄嗟に両腕で頭部を防いだが、攻撃は銃弾だけではない。

 がら空きとなった胴体にマリアナの蹴りが見舞われる。



「があっ、こなくそ!」

「フラン! いくら大馬鹿者のお前でも真正面からじゃ無理だ! 頭を使え!」

「るせー! 最強たる俺様が搦め手なんざ使うわけねーだろ!」

「お前は――」

「いいか、王様よー。最強ってのは、いついかなる時も挑戦者を真っ向から受け止めて薙ぎ払う。それが出来なきゃただの凡人よ。だが俺様は最強だ。それを今から見せてやる」



 腕から血をダラダラと流しながらもフランは堂々と語る。

 そして間髪入れずに再び飛び出した。



(大馬鹿者め! さっきの二の舞だ!)



 しかし彼を抑制するアスタの心の声は届かない。



「……愚か」



 そう深く溜め息を吐いてマリアナはフランに銃口を向ける。

 マリアナが使用するリボルバーは試作型とは言え特注品だ。貫通力にも優れてはいるが、直撃の衝撃も相当なもの。本来であれば大きく後ろに仰け反ってもおかしくない威力を誇る――はずだったのだが――。


 続け様に放たれる発砲音。

 引き金が引かれる度に木々が騒めき、風が(うね)る。


 アスタがフランよ死を予感した。


 だが――フランの覇気がそれを超越する。



「アアアアアアッ!」

「う、嘘……⁉︎」



 マリアナはその光景に戦慄した。

 腕を穿ち、腹に風穴を開け、関節をも弾丸で砕いたはずなのに、目の前の男は決して止まろうとしない。


 フランの正体が自分と同じオートマタと理解していても、痛覚は等しく存在する。あれだけの弾丸の直撃を食らいながら立っているだけでも不思議だというのに、ましてや前に進むなど――それも速度を増してくるなど考えられるはずがない。


 しかし現実は両目に映る光景が雄弁に語っていた。



「なら頭を!」



 照準を合わせ、引き金を引く。


 しかしフランは片腕を盾にして、それすらも頭部から回避してみせた。



「遅え!」

「くっ⁉︎」

「直進しか軌道のねえ武器なんざ怖かねえ! さっきと今の分、まとめて返してやるぜ!」

「けど……まだ――っ!」



 しかしマリアナは構えた銃を下ろさない。避けないならば壊れるまで撃ち続ければいいだけの話。

 まだ銃に弾は残っている。撃ち尽くしてフランが倒れるのが先か、フランの拳が見舞われるのが先か。どちらにせよ、フランを戦闘不能に追い込むだけのダメージは与えられるだろう。


 マリアナは構わず引き金を引き続ける。


 放たれる何発もの弾丸。

 幾度となく穿たれるフラン。


 だが――止まらない。



「くらえや!」



 そしてとうとうフランの拳はマリアナへと到達する。



「カ…………ハ……!」



 ――失敗した。


 意識が刈り取られるのではと思う程に襲ってくる猛烈な痛み。体はくの字に折れ曲り、体の中でミシミシと嫌な音が静かに響く。

 薄れていく意識の中でマリアナは全力で意識を保とうと奮起する。


 受け身もままならないままに地面を転がり回り、後ろに控えていたオートマタが受け止めなければ遥か彼方まで吹き飛んでいたのではないかと錯覚させた。



「ぐ……っ」



 部下に支えてもらいながら、マリアナは何とか立ち上がる。



「へえ、俺様の本気の一撃を食らってまだ立ち上がるとはな」

「……あなたの情報をどうやらまた上方修正しなければいけないみたい。想定を超えた頑丈さ。データを遥かに超えたパワー。単純でありながら私の知っている第三世代とかけ離れた行動」

「意味の分からねーことをブツブツと。その様でまだやる気か?」

「……あなたの言葉の意味する事が満身創痍という事ならば、あなたこそそれに当てはまるべき」

「ふん。この程度、擦り傷とも言わねえよ」

「ヒューマンであれば重症。間違い無く立つ事など不可能。けれど立っていられるのはあなたがオートマタだから。……それでも酷い痛覚に邪魔されて本来であれば動くのもままならないはず」

「またそれか。さっきから人をオートマタだの何だと、いいか、はっきり言っておくぞ。俺様はヒューマンだ!」

「…………あなた、馬鹿なの?」

(敵の言葉に頷きそうになったのは初めてだな……)

「ったく、どいつもこいつも人を馬鹿にしやがって。俺様はこの国の天才学者だぞ」

「……自称な」

「こら、テメー! 助けてもらっといて何だその言い草は!」

「我に矛先を向けるな。敵はそいつだろう」



 呆れながらアスタは続ける。



「さて、形勢が逆転したな。どうする? まだ続けるのか?」

「愚か。確かに想定以上のダメージは受けた。けど戦闘続行するのに問題はないし、あなた達は相変わらず部下に取り囲まれたまま」



 マリアナの言葉通り、まだ周囲にオートマタは二十体近く待機している。

 指揮官がこれ以上の戦闘行為を危険と判断して撤退する事を願ったのだが、残念な事に思い描いた通りにはならないらしい。


 アスタは小さく舌打ちし、再び構える。



「ま、そうなるな」

「ふん。この程度の人員で俺様を抑えきれると思うなよ」


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