033:老夫婦の不幸
「……何だあ?」
最初に異変に気付いたのは散歩を楽しんでいた老夫婦であった。
ガシャリ、ガシャリと何か擦れ合う様な音が徐々に近づいてくる。長年森林国を歩き回っているが、このような音を耳にしたのは初めてだ。
いや、似たような音であれば聞いたことがある。
森林国を守る兵士が着用する甲冑の音だ。しかし森林国は“守り神様”が守護する地。その為、森林国内での犯罪発生率はステライド領と比べても極小であり、森林国内を兵士が警備に見回るという事は極端に少ない。
そういえば今はベルンシュタイン王国の者らが来ていると聞いているので、それで見回っているのかもと少し考えたが、老夫婦の記憶する兵士らの甲冑の音はもっと軽いものだ。こんな音ではない。もしかすると歳のせいで記憶違いという線も捨てきれないかもしれないが、やはり違和感が残る。
老夫婦は顔を見合わせ、怪訝そうに音のなる方を眺めた。
そしてその違和感は自分達の思い違いでない事を悟る。
「兵士さん……?」
老夫婦の目の前に姿を見せたのは全身鎧の人物。
だがそれは全く見覚えのない鎧であり、少なくとも自国のものでないのはすぐに判断出来た。
一体何者なのか。老夫婦はゴクリと唾を飲み、その反応を窺う。
すると兜の下で闇に泳ぐ球体が老夫婦を捉えた。
「コノ国ノ国王ノ居場所、モシクハ守リ神ト呼バレテイル者ノ居場所ヲ教エテクダサイ」
兜の下から聞こえてきたのは、辛うじて男の声だと判断出来た程度の、抑揚が無く感情の読み取れないものであった。
老夫婦はその人間味のない声に恐怖を抱きながら、恐る恐る返答する。
「お、お前さんは一体誰なんだい?」
「見たところこの国の兵士ではなさそうだけど……」
「繰リ返シマス。コノ国ノ国王ノ居場所、モシクハ守リ神ト呼バレテイル者ノ居場所ヲ教エテクダサイ」
不安を押し殺しての会話であったが、一切成立する事なく終了する。こんな異様な現象は生まれて初めての経験だった。
男性は形容し難い恐怖に煽られ額に汗を滲ませながら再度口を開く。
「……し、知らん」
「…………心拍数、瞳孔、体温、声ノ振動数、他数点ノ情報処理ノ結果、アナタノ言葉二嘘ガアルト判断。再度繰リ返シマス。コノ国ノ国王ノ居場所、モシクハ守リ神ト呼バレテイル者ノ居場所ヲ教エテクダサイ。尚、再ビ嘘ト判断サレタ場合、アナタヲ邪魔者ト判断シ攻撃シマス」
鎧の男がそう淡々と言い放つと、鞘からゆっくりと剣を抜く。刀身が光をキラリと反射して老夫婦の姿を映し出す。
「ひぃ!」
「わ、私達は本当に知らん。た、助けとくれ!」
「検証結果……。嘘デアル可能性ガ高イト断定。コレヨリ攻撃ヲ開始シマス」




