032:結界侵入
ザナドゥ帝国は女帝マダム・ベラトリクスを頂点とし、その下に帝国四神である青龍・朱雀・白虎・玄武がそれぞれ四方向の守護と統治を任される形で置かれている。
その為、帝国四神は四人とも同階級として扱われているが、実を言うと内側では明確な序列というものが存在する。
“玄武”マリアナ・ヴェンデッタ
“朱雀”スカル・タスクヴィナ
“白虎”エルダー・ストラップ
“青龍”ガダラオ・ボーン
これが彼らを順に並べた順位だ。
とは言っても、玄武を除いた三者はほぼ同列と言っても良い。
特筆すべきは“玄武”マリアナ・ヴェンデッタただ一人。
彼女は帝国四神の中でも別格中の別格。特別の中の特別。他三者が比較するのも烏滸がましいと言える。それ程までに隔絶した存在なのだ。
周囲にも知られていないそれはエルダー達からすれば「自分達よりも強い」という認識でしかないのだが、彼女と彼女の上に立つマダム・ベラトリクスだけはその理由を知っていた。
何故ならば、彼女は第三世代オートマタ――つまり、ヒューマンという種に当てはまらない存在なのである。
「……準備は良い?」
そうマリアナが平坦な声で静かに後ろを振り返る。
両眼の辺りで切り揃えられた雪色の前髪が僅かに揺れて、色彩の小さな三白眼が後方にいた帝国軍へと向けられた。外見は成人にも満たない少女にしか見えない。歳にして十と片手で数えられる程度だろう。
だがその少女の一言で、帝国兵士ら全員に緊張感が走る。明らかに自分達より年下の少女に従わねばならぬというのに規律が乱れる様子はない。むしろ次のお言葉を逃さぬようにと耳を静かに傾けている。
しかしマリアナが言葉を放ったのは整列する全ての兵士にではなかった。特にその最前列に出ていた二十名程の兵士に対してだ。よく見ると兜の一部に数字が小さく記されている。それ以外は一般の帝国兵らと外的特徴の差異は見られない。
しかし彼らもまた特別な存在だ。
――通称番台。
マリアナ同様にオートマタであり、第二世代と呼ばれる量産試作型が彼らの正体だ。
番台はマリアナ直属の部隊であり、実のところ個々でマリアナ以外の三者に匹敵する強さを誇っている。勿論帝国のパワーバランスを崩しかねない事実につき、これも知るのはマリアナと女帝の二人だけではあるのだが、基本的に彼らを使う事は滅多にない。
しかし今回に限っては別だ。
番台らがマリアナの言葉に揃って頷く。
「忌々しい結界。でも私たちには通用しない」
あまり起伏のない口調の為、心内で真にどう思っているかは判断出来ないが、マリアナは結界に向かって迷い無く歩を進める。
占領したステライド領の民達の話では、森林国を脅かす存在を侵入させない結界が守り神によって張られているらしい。実際に兵達を侵攻させようとしたのだか、見えない空気の壁に阻まれて一兵たりとも森の中へ侵入する事は適わなかった。
どこか別に侵入出来る場所はないかと時間を割くも、森林国を覆う形で結界は端まで行き届いており、手駒達は今回の戦いにおいて使えないと判断。
だがマリアナ達――オートマタだけは別であった。
故に今回の戦いではマリアナ及び番台を動員しての少数精鋭部隊での戦いとなったのだ。
戦力としては十二分に数えられるが、やはり戦線に参加できる母数が少ないのは国内全土を占領するのにどうしても時間を要してしまう。
特にアハムテヘトのような自然入り組んだ天然の地となれば尚更だ。
だからマリアナは「面倒」と表情が不機嫌を示していた。
空間に歪みが波紋となって生じ、拒む事なくマリアナを受け入れる。それは後続する番台らも同様に。
「私達の目的は結界を張る守り神を殺すこと。散開して隈無く探索。邪魔者は随時排除。ただし情報を持ってそうな者がいれば生け捕りして口を割らせるように。何かあれば信号を発信して全員に知らせること」
番台全員がコクリと頷く。
そしてマリアナは結界の外で整列する帝国兵達へと視線を向ける。
「結界が消えたら全員突入。合図を送った場所へ集合するように」
「「「了解しました!」」」
揃い奮った兵らの返事に頷き、マリアナは向き直る。
「では行く。散開」




