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古代文明人の生き残り  作者: 十良之 大示
第2章:森林国アハムテヘト
28/58

027:戦い方

「……不本意だが認めてやる。貴様は我より強いとな。だが強さが必ずしも勝敗の決め手とはならん。それをこの場で証明してやるわ!」

「面白い。なら見せてもらおうか」

「言われずともっ!」



 アスタは再び大地を蹴って接近を試みる。

 小柄でありながらそのスピードは驚嘆に値すると言っても良い。バルボロが見た中でも限りなく上位に位置するのは間違いないだろう。


 とは言っても、先程デレピグレオと数度打ち合った時と比べて速度に変化は見られなかった。

 スピードが戦闘における全てとは口に出来ないが、大事な要素の一つである事には違いはない。現に先程からアスタのスピードは悉くデレピグレオに打ち払われている。つまりアスタの速さではデレピグレオの眼を掻い潜る事が出来ないのだ。


 何度やっても同じ結果であると未来予想を描くバルボロ。しかしアスタから言わせれば、それは早計というもの。何故ならアスタの狙いは既に正面突破になかったのだから。



 〈聖魔法II(セカンドホーリーマジック)閃光(フラッシュ)



 突如発生した(まば)ゆい白光りが部屋の中を満たし、デレピグレオとバルボロの視力を奪う。



「目が……ッ!」

「うっ……」



 開かぬ双眸の外で、二人の呻きだけが小さく響く。

 この隙をアスタは見逃さない。

 無防備なデレピグレオ目掛けて、次々と拳と蹴りを撃ち放つ。



「くらえ!」



 小さな拳の連打。だがその一発一発は大の大人でさえも沈めてしまう程に強く重たいものだ。

 当然、目の見えないデレピグレオにこれを防ぐ術はない。無抵抗の腹筋に次々と拳が叩き込まれる。



「ウラララララララァ!」

「ぬっ」



 初めてデレピグレオが小さく呻く。

 効いた――とは思いたい。しかし拳から伝わってくる感触がそう思わせてくれない。



(チッ! なんて硬さだ!)



 まるで鉛だ。殴っている拳の方が痛くなる。

 ここまで打ち込んで手応えを感じられないのはアスタにとっては二人目であった。

 勿論だからといって攻撃の手を緩めるつもりはない。むしろ相手の視力を奪った今こそ猛撃の機会なのだ。この機会を有効に生かす為にも、アスタは次の手をうつ。



 〈氷魔法I(ファーストアイスマジック)氷錠(アイスロック)



 デレピグレオの足首に透明に輝く足枷が嵌められる。



「冷た!」

「まだだ!」



 〈闇魔法II(セカンドダークネスマジック)闇霧(ダークミスト)



 アスタの詠唱と同時に、部屋に黒い霧が蔓延する。

 もうそろそろ視力が回復する頃合いだ。だがその前に行動を阻害し、更に再び別の方法で視界を奪えば、デレピグレオに攻撃を防ぐ手段はない。


 たとえ実力で劣っていようとも要は戦い方次第なのだ。反撃さえされなければ一方的に攻勢を続ける事が出来る。



(あまり王として誇るべき戦い方ではないが、敗北するより遥かにマシだ!)



 ――勝てる。そう思ってアスタが再び拳を振り上げようとした瞬間だった。

 見えるはずのないアスタの手首目掛けて、デレピグレオの腕がスッと伸びる。そして的確にアスタの攻撃を阻害すると、その片手でアスタの体を軽々と浮かばせたのだ。



「何だと⁉︎」



 我が目を疑う気持ちでアスタは声を上げる。

 予測出来るはずがない。アスタが唱えた魔法は光の進入を許さぬ黒の世界。多少暗闇の中でも目が見える現象とは訳が違うのだ。

 無論空気の抵抗は受けるので中で動いて風が生じれば――つまりは超接近してしまえば見えない事もないのだが、そんなもの反射神経でどうこうなる世界ではない。もし出来たとしても、そんなものもはや神がかった勘の領域でしかない。


 そんなアスタの驚きを他所(よそ)に、デレピグレオは片目を擦りながら悠然と喋り始める。



「まいった。まさかこういう戦い方もあったとは。完全に油断した。ゲームの時のように能力値頼みというのは古いという事か。しっかり反省しないとな」

「な、何を言って……チッ! とっとと我を離せ!」



 掴まれた片手を解放させる為に、アスタは反動をつけてデレピグレオの腕を思い切り蹴り上げる。関節を破壊する勢いで、だ。しかし――



「こらこら。暴れるなって」

「効いていないのか……? この化け物め!」

「本当にそうだとしたら嬉しいんだが……さてどうなる事やら」

「……何を言っている?」

「いや、何でもない。それよりも降参してくれるとありがたいんだが?」

「誰がするか!」

「やれやれ。強情だな。けどお前にこれ以上勝機はないぞ?」



 パキンと下で小さな音が響く。

 おそらくアスタの〈氷錠(アイスロック)〉が破られてしまったのだろう。ぶらぶらと揺れるアスタの体がデレピグレオが移動している何よりの証拠だ。

 そこまで強力な魔法でないのは確かだが、こうして容易く魔法の効果を解かれると自信が失ってくる。



「くそっ!」

「お、この邪魔な黒い靄も晴れてきたな」



 これもそう効果が持続する魔法ではない。時間が経てば自然に効力を消失させるが、それ以外にも空気の循環により霧が窓の外に逃げていったのだ。


 室内が取り戻した明かりに、状況を唯一把握出来ていなかったバルボロがようやく現状を理解する。



「こ、これは……」



 デレピグレオに手首を掴まれて、ぷらんと垂れ下がるアスタの姿。

 デレピグレオの声が漏れた時にはもしや――とも思ったが、やはりバルボロの予想した通りの光景であった。



「もはや決まりですな」



 バルボロは二人に聞こえるように声を落とす。



「まだだ! まだ我は負けを認めておらん!」

「いーや。おしまいだ。俺がその気になればこのままあんたの腕を砕く事も、眼球をくり抜く事も、心の臓腑を抉り取る事だって出来る」



 暇を持て余すもう片方の腕を、現実にそれを起こすかのような仕草をもってアスタを黙らせる。



「……余計な忠告かもしれんが、引き際を弁えない馬鹿は人を統べる者として三流もいいところだぞ」

「…………っ」



 悔しそうにアスタは目を伏せる。

 感情を無視すればデレピグレオの忠告を理解出来てしまう故だ。


 確かにこれ以上は善戦出来そうもない。

 デレピグレオに通用するような攻撃も、この場を切り抜ける方法もありはしないのだから。


 非常に遺憾である。

 ぷらんと垂れる己の内で葛藤を繰り広げた後、アスタは観念したかのように大きくため息を吐いた。



「……分かった。我の敗けだ」

「それではこの試合、デレピグレオ殿の勝利です」



次は16日也。

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