表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古代文明人の生き残り  作者: 十良之 大示
第2章:森林国アハムテヘト
22/58

021:有力な情報

 どうやら耳に何か詰まり物があったようだ。

 デレピグレオは指で耳を掃除し、再度問い直す。



「すまん。よく聞こえなかった。何て言ったんだ?」

「だーかーらー、俺様がそのフランだって言ったんだよ」

「……嘘だろ⁉︎」



 腹の底から声を出す。



(だって学者と聞けば白衣に瓶底眼鏡をイメージするじゃん! 何でこんなゴリゴリのガテン系何だよ⁉︎)



 予想していた人物像とかけ離れ過ぎていて、驚愕の波がデレピグレオの心を打ちつける。

 勝手なイメージが先行していたとはいえ、誰が目の前にいる筋肉馬鹿のような男を学者だと信じられるだろうか。百人――いや百万人にアンケートを取っても、ただの一人として彼を学者だと言い当てる様な者はいないはずだ。


 しかしフランを自称する男は、再度念を押すかのように自らを名乗る。



「嘘じゃねえよ。天才学者フランたぁ、間違いなく俺様の事よ」

「………………」



 ――絶句した。



「おーい。どうした、(あん)ちゃん?」

「……いや、驚きに震えて言葉が出なかっただけだ」

「そうだろそうだろ。俺様ってば超有名人だからよー、(あん)ちゃんが感動するのも無理ねえな! カッカッカ!」

「ある意味感動ではあるが――いや、いいや……」



 小火(ぼや)騒ぎのせいか、それともフランと喋っているせいかは分からないがドッと疲れた。

 デレピグレオは大きく肩で息を吐き、改めてフランに向き直る。


 こうして見るとやはり学者とは到底思えない。

 見事に割れた腹筋にさっきまでの馬鹿げた発言と行動。馬鹿と天才は紙一重と言うが、明らかに馬鹿の(たぐい)にしか映らない。



(そういえばあの店主も何か言い淀んでたな。こういう事だったのか……)



 店主の表情を思い出し、思わず納得してしまう。

 だとすればやはり目の前の男がこの国の学者なのだろう。たしか店主の話によれば国からも認められている学者だとか。信じたくはないが彼自身も自称しているのだから認めざるを得ないだろう。

 出来ればもっと他の学者を紹介してほしかったところだが。



「んで、(あん)ちゃん。俺様に何の用だ?」

「ああ……そうだな。実は――」

「ブァーックション!」



 フランの鼻水やら唾やらがデレピグレオの顔面に爆散する。



「………………」



 残念ながらデレピグレオの持つ古代(エンシェント)スキル――〈第六感(シックスセンス)〉はフランのくしゃみを危険とは見なさなかったようだ。


 精神的疲労がピークに達したからだろうか、怒りも悲しみも驚きも停止して無心に顔を拭う。



「すまんすまん。急に水浸しになったから寒くなっちまった。とりあえず上で話そうや」



 デレピグレオの返事を待つ事なく、フランは階段をドタビシャと忙しなく上っていく。


 ぽつんと一人取り残されたデレピグレオは再度大きなため息を漏らし、階段へと振り返るのであった。




 ◇




 プレハブ小屋に戻ると、既にフランは白いシャツに着替えていた。衣服が散乱した汗臭い部屋の中に置かれた一人用のソファに深々と腰掛けている。


 最初焦げ臭いと思わなかったのは、このツンと鼻にくる強烈な臭いが混入していたからなのだろう。まだ煙の臭いは残っているが、それよりもこの汗の臭いが(たま)らない。


 デレピグレオは家主の許可を得るより早く、窓という窓を開放する。



「……ふぅ」



 止めていた呼吸を再開させる。



「洗濯ぐらいしろよ。かなり臭うぞ、この部屋」

「ん、そうか?」



 くんかくんかとフランは鼻をヒクヒクさせるが、どうやら嗅覚が麻痺しているらしい。

 首を傾げて臭いが見当たらないと態度で主張する。



「ま、俺様が放つフェロモンは男にゃ分からねえのさ」

「いや、この臭いは女も裸足で逃げ出すぞ」

「んで、何の話だっけか?」



 ポツリと溢すデレピグレオの突っ込みが届いていなかったのか、フランは鼻をほじりながら問い返す。


 どこまでも自然体な男だ。ある意味感心してしまう。

 デレピグレオは本日何度目となるか分からないため息を心の中で存分に吐き出すと、改めてフランへと向き直る。



「……学者のあんたに色々と聞きたい話があってな」

「ほほう。ついに他国からも俺様の智能に(すが)ろうと遥々(はるばる)やってきたわけか。

 ククク、本来なら有料だが(あん)ちゃんには世話になったからな。特別に何でも教えてやろう」



 学者という人種は皆こうなのだろうか。何故か凄く偉そうだ。

 小汚い部屋で踏ん反り返る事の出来る男の姿には改めて瞠目させられる。



「な、なら遠慮なく質問させてもらおう」

「おうよ。ドンと来な」

「アンタはこの国の歴史学者だそうだが、この国に(まつ)わる事はどれぐらい知ってるんだ?」

「愚問だな、(あん)ちゃん。当然全部さ。この国に関しちゃ俺様より博識な奴はいねーよ」



 ――世も末だな。と思わずこの国に同情してしまう。

 勿論言葉には出さないが。



「なら質問なんだが、昔この国にヒューマン以外の人種が暮らしていたっていう歴史はあるか?」

「ヒューマン以外? それなら五百年ぐれえ前にプリミティブっつー種族が居たな。外の世界に居た奴らは絶滅しちまったみてーだが」

「……『外に居た奴は』? ……という事はこの国にはまだプリミティブが生活しているのか⁉︎」

「あ、すまん(あん)ちゃん。言い方が悪かったな。純粋なプリミティブはこの国にもいねーよ」

「『純粋な』……?」

「ああ。いわゆる混血ってやつだ。つっても数百年前ならいざ知らず、今じゃ純粋なプリミティブだけの血が残ってるような奴はいねーけどな。

 元々母数も違いすぎてるし、圧倒的にヒューマンの血が濃い奴らばっかだな。そういう意味じゃ、この国のプリミティブも絶滅してるって表現していーかもしれねえな」



 サラサラと歴史を(つづ)るフランの言葉を耳に、デレピグレオは「成る程」と声を漏らす。


 ゲーム世界を辿れば当然プリミティブはデレピグレオ以外にも存在していた。ならばデレピグレオの知らない空白の五百年の間にそういった歴史が存在していても何ら可笑しくない。



(もしかしてあの時ゲームにログインしていた全員がこの世界に飛ばされたなんて事も有り得るのか? ……だとすると俺だけ五百年後の世界に降り立ったのは金樹海が関係している?

 いや、しかしそうなると――)

「おーい(あん)ちゃん。聞いてんのか?」

「――っと、すまない。ちなみにプリミティブ以外の種族が暮らしてたという歴史はあるのか?」

「プリミティブ以外? んー。俺様の知る限り存在――いや、待てよ……?」



 フランは(おもむ)ろに顎を指に置いて考え込む。



「そういや()()()が何か言ってた気がするな。確か昔、ヒューマンと()()……何たらが協力してプリミティブの住処を荒らして回ったとか何とか」



 不意にフランが並べた記憶に、デレピグレオの耳が鋭く反応する。もしかすると欲していたキーワードの欠片の一つかもしれない。

 デレピグレオは部屋の臭いも忘れて身を乗り出した。



「――っ! それ、詳しく教えてくれ!」

「うおっ⁉︎ 何だ急に。詳しくつっても、俺様は今言った事以外覚えてねーぞ」

「ならその話をしてた奴の事を教えてくれ!」

「わ、わーった、わーった。何をそんな興奮してるのか知れねえが落ち着けって」

「あ、すまん」

「まあ(あん)ちゃんにも色々あるんだな。別に詮索するつもりはねーけどよ。

 それで……あの猿の話だな?」

「ああ」

(あん)ちゃんはこの国に特別な存在がいるって知ってっか?」

「ああ。酒場の店主から聞いたが“守り神様”って奴が居るんだろ? 確かこの国を護る結界を張ってるとか」

「その通り。俺様の言う猿がそいつの事だ」



 仮にも国の“守り神様”とやらを蔑称で呼ぶのはどうかと思ったが、デレピグレオは特に突っ込む事もなく更に問い掛ける。



「アンタの話だとその“守り神様”とやらは人語を喋るんだよな?」

「だな」

「ならその“守り神様”って奴のところに連れてってくれないか?

 どうしても聞きたい事があるんだ」



 もしもフランの言葉が正しければ、あの覚えていなかった言葉の続きはデレピグレオの探し求めていた種族の名称のはずだ。

 それにプリミティブの住処を強襲して回ったあのプレイヤー達の勝手なイベント。デレピグレオも枕を濡らした忌々しいイベント。あれにオートマタが参加していたという情報は聞かないが、もしもフランの言う猿の言葉がそれを指していたとすれば、デレピグレオが求めていた情報が一気に集う事となる。


 この国に着いて初日で大きな進展を得られるとは幸先が良い。先程までの心労も吹き飛んで、デレピグレオは笑顔でフランに迫った。


 だが――そうトントン拍子とはいかない。



「……悪ぃが(あん)ちゃんの頼みでもそれは聞けねえな」



 フランは真面目な口調でデレピグレオの依頼を拒んだ。



「……理由は?」

(あん)ちゃんの素性が知れないからだ。あの猿も一応はこの国を守護する大事な“守り神様”だからな。帝国の奴らがステライド領まで侵攻して来た今、あの猿の命はこの国の心臓と同義だ。みすみす危険な真似は出来ねえって事」

「なら他に“守り神様”の居場所を知ってる奴はいないのか?」

「残念だが俺様と王様の二人しかいねーよ。当たり前だが王様に懇願しても同じ理由で断られるぞ。悪ぃな、(あん)ちゃん」

「いや……無理を言った自覚はある。我儘を言ってすまない」

「構やしねーよ」



 とは言ったものの、有力な情報を得たというのにここまで来て引き下がる訳にもいかない。



(何とかして“守り神様”とやらに会いに行きたいところだがどうすれば――? ……いや、待てよ? そういえばバルボロは物資を運びに来たって話してたな。ならバルボロの紹介で王様に会わせてもらえるよう頼み込んでみるか?)



 ベルンシュタイン王国の者の紹介となれば、もしかすると警戒を解いて“守り神様”の棲まう場所へ案内してくれるかもしれない。

 何せベルンシュタイン王国はつい先日に帝国軍を撃破した完全なる反帝国勢力だ。物資も支援しているのだから信用という点においては間違いない。

 浮かんでくる可能性に拳を握り、デレピグレオは次の目的地を決定した。



(――よし。ならまずはバルボロと合流しないとな)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ