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古代文明人の生き残り  作者: 十良之 大示
第2章:森林国アハムテヘト
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020:天才を自称する男

 森林国アハムテヘトの構造は複雑だ。

 天然の木々や巨大蔓が入り乱れ、整備された道路はほぼ存在しない。

 平面ではなく立体的に構成された広大な自然は、まさに天然の迷路と言って差し支えないだろう。


 ゲームだった頃に何度か足を運んでいなければ、デレピグレオも解けない迷路に悩まされていたに違いない。



(けど五百年という年月が経っている割にはあまり記憶との差異が少ないな。

 流石に建っている家の数や、新しい蔓の道なんかも増えちゃいるが)



 ゲーム時の記憶を頼りにデレピグレオは南を目指す。

 蔓の道は沢山の木々の間を縫うように伸びているものもあるので、それが本当に進みたい方向へと続いているとは限らない。

 中には大きく(とぐろ)を巻くように成長している蔓もあるので、進んでいるつもりが登っているなんて事もある。


 しかしデレピグレオはそれに惑わされる事なく真っ直ぐ――というと少し語弊があるが――最短距離で着実に南へと進行していた。


 だが暫く進んだところで、不意にデレピグレオの足が止まる。



「……アレだよな?」



 デレピグレオの視線の先、そこには周りの木々から少し距離を置くようにして生える独立した一本の大樹。

 いや、正確には葉を生やす頭が存在しておらず、幹のみ――つまりは切り株状になっている木。その上に置かれた趣味の悪い形をした家を見て、デレピグレオは目を疑った。


 確かに店主は特徴的だとは表現していたが、まさかここまでとは想像出来るはずもない。


 まず家の形。

 森林国アハムテヘトにある家の殆どは大自然と一体化したかのようなログハウスや、大木の空洞を利用した部屋など、自然をなるべく(そこな)わないようにした造りが殆どだ。

 しかしデレピグレオの目に映っているのは、かなり粗雑に作られたプレハブ小屋であった。

 どこからか拾ってきた素材を組み合わせたのだろう、継ぎ目が遠目からでもはっきりと分かる。凸凹した立体感は味わいがあると表現するには難しく、有り体に言って不細工だ。それも煙突から自然に悪影響を及ぼしそうな煙を空に散らかしている。


 次にその色だ。

 これが灰色であれば少し驚く程度で済んだだろう。しかしプレハブの外壁には何色も重ねて塗られており、赤、紫、緑、青、黒、白、黄色、茶色――とまるで統一感がない。

 自己主張の激しい色が調和するどころか喧嘩している有様だ。

 驚愕を通り越して唖然となるのも無理はないだろう。



「特徴的すぎるだろ……」



 デレピグレオは当たり障りない程度に感想を零しながら、止まっていた足を再び動かし始める。


 遠目でもそうだったが、いざ至近距離となるとかなり目が痛い。というよりもウザい。



(一体どんな奴が住んでるんだか……)



 何故かここに来て会うのが億劫になってきた。

 しかし訪ねる以外に選択肢はない。デレピグレオは観念したかのように深くため息を吐いた後、遣る瀬無さそうに扉を叩く。


 すると直後に小屋の中が慌ただしく音を鳴らす。



「だ、誰だ⁉︎」



 そして勢い良く扉が開けられたかと思えば、大声と一緒にに上半身裸で汗だくの男が現れた。

 オールバックにした黒髪からモクモクと湯気が浮かび、瞳には明らかな焦りの色が窺える。



「あー、突然すまな――」

「いや、誰でも良い! 丁度良かったぜ!

 ちょっと来てくれや!」

「うおッ⁉︎」



 挨拶を交わすよりも早く、デレピグレオは男に引っ張られ中へと連れ込まれる。

 払う事も出来たが、予想以上に引っ張る力が強かった。よく見ればデレピグレオに負けないぐらい体格も良い。もしかすると今まで出会ったヒューマンの中で最も腕力値が強いのではないだろうか。


 そんな事を一瞬考えるが、すぐに思考は別の方へと切り替わる。



「……って(くさ)っ!」



 ツンと鼻に迫る異臭に、デレピグレオは思わず鼻を摘む。

 見れば部屋の中は脱ぎ散らかした衣服が山のように置かれ、そこからむんむんと生暖かな空気が発生していた。

 しかし臭いの原因はそれだけではない。

 地下へと続く階段の奥から灰白い煙が空気の通り道を探して部屋の中へ蔓延する。



「ゴホッ、ゴホッ……もしかして火事か⁉︎」

「察しがいーじゃねーか、(あん)ちゃん!」

「『察しがいーじゃねーか』――じゃねえよ!

 何巻き込んでくれてやがる⁉︎」

「そうカリカリすんなって。人類皆兄弟って言うじゃねーか」

「初対面だし他人じゃねーか!」



 ドタバタと階段を駆け下りながらデレピグレオは叫ぶ。

 次第に室温が上昇していくのを肌が感じ取り、心の中でも「冗談じゃない!」と悪態を吐いた。

 しかし無理やりとはいえ、ここまで来て家事を見て見ぬ振りは出来ない。チッ、と舌打ちして現実と向き合う。


 出火場所は地下。

 つまりは大樹の中だ。ここで小火(ぼや)騒ぎが起きては火の手が森林国全土へと広がりかねない。

 そうなってはデレピグレオの目的も文字通り焼失してしまう。煙を吸わないよう引っ張られていない片手を口元へ持っていく。



「ここだ!」



 男の手がようやく離れる。

 階段の先に開放された空間に、ようやく煙の発生源を目の当たりにする。

 予想していた最悪よりも火の手は広がっていない。



(これなら手持ちのアイテムで何とか出来るか……?)

「よし、なら一発魔法でどうにかしてくれや!」



 バシンと背中を叩かれて、男が笑顔で親指を立てる。



「……悪いが俺は魔法が使えないんだが」

「おいおい、何の為にここに来たんだよ(あん)ちゃん⁉︎」

「テメーが勝手に連れてきたんだろうが!」

「チッ! こうなったら最終手段だ!」



 男は何を思ったのか、火の手に向かって走り出す。

 そして(おもむろ)に拳を突き出した。



「叩く!」



 火が燃え移った壁や床へ、一心不乱に殴り始めた。



「叩く、叩く、叩く!」



 ガンガンガンガン!



「いや、消えるわけねーだろ⁉︎」



 一瞬男の馬鹿げた行動に言葉を失ったが、ようやく思考が現実に追いついた。


 確かに火を消す方法として叩くという手段が有名だが、正しくは違う。本来は燃えている部分を布等で覆い、酸素を遮断し燃焼を防ぐというのが正しい。

 服に燃え移った小火程度ならば叩いたり転がったりすれば消える事もあるが、ここまで火が燃え移ってしまうとどうしようもない。


 男の無意味な奮戦に呆れながら、デレピグレオは腰にぶら下げた革袋から一枚の葉っぱを取り出す。



(こんな所で使うのは勿体ない気がするが仕方ない)



 そしてその効果を発動させた。


 直後、黒い煙を覆い潰す程の白い霧が部屋を埋め尽くす。



「うおッ! 何だコレ⁉︎」



 白い霧の向こうで男の影が辺りを見回す。



「俺が持ってたアイテムの効果だ。これでもう大丈夫だろ」



 部屋の中はかなり濡れてしまっただろうが、焼失を免れたと思えば安いものだろう。


 霧が晴れ、デレピグレオは部屋に降り立つ。

 びしゃりと床に張った水溜りが音を鳴らす。

 本来であれば外で使う逃走用の目眩し魔道具(アイテム)だ。狭い部屋の中で使えばこうなるのも必然である。



「おお! 何だ、やりゃー出来るじゃねーか、(あん)ちゃん!」



 バシャバシャと足を鳴らし男はデレピグレオに近づく。そしてバシバシと肩を叩きながらデレピグレオの功績を讃えた。



「いやー、助かったぜ!」

「ああ。大きな騒ぎにならなくて良かったよ。そういえば家事の原因は何だったんだ?」

「ん……? ぬぁ! すっかり忘れてたぜ」



 すると男は最も火の勢いが強かった部屋の中央へと引き返し、水溜りの中へと手を突っ込んだ。辺りには細い丸太が数本転がっており、小枝はぷかぷかと浮かんでいる。

 その中心から出てきたのは真っ黒に焦げた楕円形の物体であった。



「ぐあー畜生! 燃え尽きちまってる!」

「それは?」

「ん? ああ、芋だよ」

「……は?」

「いやー、急に焼き芋が食いたくなってよ。急いでそこら辺から小枝掻き集めて焼き芋始めたんだが、急に膀胱が騒ぎ始めちまって。

 戻ったらさっきの有り様よ。ナッハッハ!」

「ナッハッハ――じゃねえよ⁉︎ 馬鹿だろ⁉︎」



 百歩譲って焼き芋を始めたのが上のプレハブ小屋であればスルー出来たかもしれんが、ここは木の幹の中だ。

 ちゃんとした設備でもあれば話は違うが、見たところ木の床に直置きした薪の上で焼き芋を始めている。そこから導き出される結論はデレピグレオが口にした通りだ。



「アン? この歩く天才を差し置いて馬鹿たぁ失礼な。

 いつもなら殴り飛ばしてやるところだが(あん)ちゃんには借りがあるし……あ! 腹減ってカリカリしてんのか?

 そんならまだ上に芋残ってたはずだし、もっかい焼き芋でもすっか!」

「やっぱり馬鹿じゃねーか⁉︎ 学べよ! 歩く天災!」

「フ。そう褒めんなって。照れるじゃねえか」

「あれー⁉︎ (けな)したよね俺⁉︎」

「まあまあ。そうカリカリしてっと禿げるぜ、(あん)ちゃん」

「……はぁ。もう怒る気にもなれねえよ……」

「てか(あん)ちゃん、見ねえ顔だな」

「ああ。この国にはさっき来たばかりだからな。俺の名はデレピグレオ。ここにフランって学者がいると聞いたんだが――」



 どうやら居ないようだし――と言葉を続けようとした矢先、目の前の男から信じ難い言葉が飛び出した。



「ん? なんだ、俺様に用があったのか?」

「…………ん?」



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