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古代文明人の生き残り  作者: 十良之 大示
第2章:森林国アハムテヘト
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019:入国と探索

 森林国とはその名の通り、生い茂った木々や草花といった自然の中に存在する国だ。


 ベルンシュタイン王国のように整備された道はなく、住居に至っても天然の大木を削って作られており、煉瓦や石材といった通常建築に必要な素材を使用していない。


 中には洞窟に住まいがある者や、大樹の空洞部分が住処となっている者もいる。


 正直言えば、ガリバ族であるデレピグレオ達よりもプリミティブらしい場所で生活しているような気がする。

 森林の中にある国門を潜ったデレピグレオの最初の感想がそれであった。


 しかし森林国の住民が着用している衣服はやはりヒューマンのそれであり、誰しも文明人らしい格好をしていた。


 一瞬、自分たち以外にもプリミティブの生き残りがいるのでは――とも思ったが、この分だと期待する事は出来ないだろう。



「さて、それでは私達は物資を届ける役目があるのでこれにて」



 バルボロがそう頭を下げると、森林国の兵士らと共に物資の運搬作業へと移る。

 道という道がない為、これ以上馬車を進める事が出来ないのだろう。不安定な足場を両の足で掴みながら、大量の物資をどこかへ運んでいく。


 森林国のヒューマンを数えるとそれなりにいるので、おそらく数時間と経たない内に作業は終了するだろう。

 この分だと自分の手伝いは不要だな、とデレピグレオは判断する。



「んじゃ、あっしらもこれにてドロンや。

 デレピグレオはん、良い休暇を」

「別に休暇ってわけでもないんだが……まあいい」



 スタコラとその場を去るマルに続いて、ミシルもチョコチョコとその背を追うように去っていく。

 一瞥もされないのは嫌われているからだろうか。

 そういえばこの道中、全く視線も言葉も交わそうとしていなかった気がする。

 別に好かれたいと思っているわけではないが、こうあからさまに避けられているのは少し心に来るものがあった。



「ま、別にいいか」



 気を取り直して、デレピグレオは双眸に森林国の姿を映す。



(これは……凄いな)



 ゲームだった頃にも、デレピグレオは当然この国へ来たことがある。

 だがこうして仮初めの姿(アバター)に身を移し、現実としてこの国の姿を見るのは初めての経験だ。


 巨大な(つる)が織り成す天然の道。

 その蔓をも越える大樹の葉の隙間から覗く蒼白い世界。

 風に運ばれて聞こえてくる鳥や虫達の声。

 決して他所では味わえない緑の香り。


 大自然が形成するエネルギーとも表現すべき空気に、デレピグレオは心を震わせた。


 暖かな日差しと適度な木陰が旅の疲れを癒してくれる。

 立っているだけでも素晴らしいと感じる場所はそうそう無い。


 ほっと心に安らぎを覚えながら、デレピグレオはようやく動き出す。


 森林国の面積は金樹海ほどではないにせよ広大だ。だが総人口自体はそれに比例する訳ではない。

 というのも森林国アハムテヘトはこの森林が覆う大地の上全てが国であり、唯一森林の外にあるステライドと呼ばれる町が森林国アハムテヘトの全てなのだ。


 より詳しく説明するのであれば、当然の事ながら超天然物に囲まれたこの森林国に住民が住む場所は限られている。

 その為、大半の国民は森林の外にあるステライドに住居を構えているのだ。


 ステライドには当然ながら人工物は多くあり、この中のように天然素材から成る建築物は少ない。

 と言うよりも防衛の要となる町でもあるので、火攻めに弱い構造に敢えてしなかったという方が正しい。

 そして森林の中にある国門を守護するという役割の下、森林国の兵士の多くもステライド領に駐屯していた。


 しかしそれも数十日前の話。

 ステライド領は帝国に侵され、今では帝国軍の所有物。

 そこにいた軍隊はほぼ全滅し、住民は帝国によって監視下に置かれている。


 つまりは森林の中に残る兵士と民達が、森林国アハムテヘトの全てなのだ。


 本来であれば帝国の牙が喉元に押し当てられているような状態、住民や兵士も不安でいっぱいの様子なのではとも思ったが、存外そのようには見えなかった。


 デレピグレオはそんな住民の様子を不思議に思いながら、適当に看板の立てられたログハウスの扉に手を掛ける。



「らっしゃい!」



 入店早々、店主の朗らかな声が飛んでくる。



「ここは――酒場か?」



 店内を見渡しながらデレピグレオはカウンターへと腰かける。



「なんでい。看板見てなかったのか?」

「看板は見てたんだが字は読んでいなくてな」

「んだよ、冷やかしなら帰ってくんな」



 露骨に店主が不機嫌そうに顔を背ける。



「すまんすまん。この国には初めて来てな。

 観光がてら色々見て回りたかったんだ。勿論何か注文させてもらうよ」

「観光? こんな物騒な時期にか?」

「物騒ってのは帝国の事か?

 ――あ、適当に酒とつまみを頼む」

「知ってて来たのか。随分と酔狂な客もいたもんだ。

 そういやあまり見ない格好だがどこから来たんだ?」

「ああ、王都からだ」

「へへぇ〜。随分と王国の流行も変化したもんだ」

「いや、正確には俺は旅人でな。

 王都から今度はこっちに立ち寄ったってだけの話だ」

「何でぇ、紛らわしい」

「そんな事より気になったんだが……随分と皆落ち着いているな。

 たしかステライド領が帝国に占領されたんじゃなかったのか?」

「ああ、そうか。旅人つってたし、アンタは知らねえのか」

「何がだ?」



 コツンと、カウンターに料理と酒瓶が突き出される。



「ほれ。豚バラ肉と胡桃炒めのハーブ仕立て、それにアハムテヘト名物の四ツ葉酒だ」

「お、良い匂い」



 デレピグレオは早速、酒瓶片手に一気に口へと運ぶ。


 日本に居た頃はそれほど酒が好きというわけでも無かったのだが、この姿になって以来はすっかり肉体的仕様が変化していた。

 身体能力はゲーム時の能力値を引き継ぐという意味である意味想像通りだったのだが、ある時、プティッチに酒を付き合わされた時には衝撃を受けた。


 舌の上で芳醇に蕩ける味わい。

 味覚がまるで違っていたのだ。


 いや、現実世界に存在しなかった酒というのもあるかもしれないが、あれ程酒を美味いと感じた事は人生の中で一度も無い。


 つまりデレピグレオはお酒を嗜む大人の舌を持ち合わせているという事だ。


 これを知ってから、デレピグレオは好んで酒を飲むようになった。

 それこそ何かに理由をつけてお酒を喰らう。

 酒という存在もある意味でデレピグレオにとっては生きる意味の一つに昇華し始めていた。


 そしてこの四ツ葉酒という未知の酒を口に含んだ瞬間、デレピグレオはまた一歩、酒の魅力に溺れていく。



(渋い。癖になる苦味だ。それに後味に(しこ)りは残らないしかなり飲みやすい。プティッチの土産にでも持って帰ってやろうかな)

「く〜。いいな、コレ」

「だろ? アハムテヘトの特産品だからな。

 使用されている植物は一定期間しか採れない稀少なもの。しかもそのエキスを抽出する工程もかなり手間暇かかるし、一枚から抽出できるエキスも限りがあるんだぜ」

「それにこっちの料理も旨い! まるでこの酒の渋味を調和してくれているかのようだ」

「中々分かってるじゃねえか。大体、四ツ葉酒のお供といやこの料理よ」



 フフンと自慢げに店主は笑う。



「おっと、そういや話の続きだったな」



 店主は思い出したかのように、先の話を繋ぎ直す。



「この国には結界が張ってあるんだよ」

「結界?」

「おうよ。この国にゃ“守り神様”がいらっしゃるんだ」

「“守り神”?」



 聞いたことのない通称だ。

 少なくともゲーム時には無かった単語である。

 デレピグレオは首を傾げて先を促す。



「俺が生まれるよりも前にこの国に存在しているらしくてな。この国に害意を持つヒューマンに反応して、そいつを拒む結界が常時展開されてるんだ。

 だから俺たちは安心して暮らしてるってだけだ」

(……なんじゃそりゃ?)



 かなり曖昧な結界の効果にデレピグレオは呆れてしまう。


 そんな効果もゲーム時には存在していない。

 むしろ、害意などという曖昧な感情を察知するのはゲームシステム的にも不可能だ。

 だとすると、スキルの効果が一部変更されたと考えるのが妥当だろう。

 しかしこれに近い効果を持つスキルや魔法となると、正直何も思いつかない。それが常時発動型(パッシブ)使用となると尚更だ。



「……その“守り神様”とやらは一体何者なんだ?」

「ん? なんだ、人と勘違いしてんのか?」

「え、人じゃないのか?」

「違う違う。たしかなんて言ったっけか……。

 …………すまん。“守り神様”には別称があったはずなんだが全然思い出せねえわ」

「そりゃ残念。

 ま、その“守り神様”とやらはこの国の住人なら誰でも知ってるんだろ?」

「そりゃな」

「なら適当に他の奴にでも聞いてみるさ。

 ところで他にも聞きたいことがあるんだが、この国で調べ物をするのに最適な場所とかあったりしないか?

 書物が沢山置いてあるとか、人が沢山いるとか、この国の歴史について詳しい奴とかでも構わない」

「そうだなぁ……。ウチももっと遅い時間になりゃ人で賑わうんだが――」



 昼の酒場。

 当然ながらこの時間から入り浸っているような客はいない。

 店主は空っぽの酒場を一瞥して、複雑そうに息を吐く。



「あ。そういやフランって奴がいたな。

 最近全く姿を見てないが……」

「フラン?」

「ああ。この国の歴史について調べている学者だ」

「それは耳寄りな情報だな。感謝する。

 ところで、その学者は一体どこに住んでるんだ?」

「奴の家ならここを出て少し南に進んだところにある大木の上だな。かなり特徴的だからすぐ分かると思うぜ」

「そうか。助かったよ」

「ただ……」



 店主は少し複雑そうな表情で口黙(くちども)る。



「ただ?」

「奴はその、学者というには少々……いや、かなり…………いや、何でもない。

 国からも学者として認められているしな。気にしないでくれ」

「……? ああ、なんかよくわからんが分かった」



 もし店主の言葉通り、その学者が森林国アハムテヘトに精通しているのであれば、デレピグレオの知りたい情報も一気に集まるかもしれない。


 店主の態度は少し気になったが、デレピグレオは特に追求する事もなく酒場を後にした。





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