018:忘れ物の予感
早速ですが――最低5000字という目標は諦めました(笑)
iPhoneで1000文字打つのに約一時間。
5000字だと五時間?
はっはっは。何の冗談かと思いましたね。
早々に目標挫折した不甲斐ない作者を罵ってください。
でもやっぱ無理なものは無理。
仕事と睡眠の両立……大事ですからね。
体が資本。うん。
でも最低3000字は頑張りますのでご勘弁くださいませ。
許してくださる心優しい読者の皆様。
どうぞ優しく温かい目で見守りください。
それでは『古代文明人の生き残り(仮)』
第2章、お楽しみください。
王都ベルンシュタインより西へと続く街道を進んだ先に、王国領の中心地となるマサイヤと呼ばれる街がある。
街といってもその機能は王国全域へと張り巡らした物資倉庫と軍事設備の拠点であり、ベルンシュタイン王国にとっての心臓部と言うべき場所だ。
国王を中心として考えるならば、ベルンシュタイン王国の頂点に君臨するアルクライム・フォン=ウィンゲーツ・ベルンシュタインが存在しない時点でそう呼称するのは相応しくないかもしれないが、万が一にでもマサイヤが他国の支配下に置かれたときには王国はその生存機能を著しく奪われるのは同義であることから、敢えてそう呼称しても問題はないだろう。
その為、マサイヤは王都以上に警備が頑強であった。
外周部には四方を囲むようにして外壁が設置され、特別頑丈に閉ざされた巨大な扉は物資の運搬等以外で開く事は滅多にない。
入場にあたっても幾数の審査を経なければ決して門が開かれる事はなく、仮に国王が兵を率いて乗り込んだとしてもノーチェックでマサイヤの敷居を跨ぐ事は出来ないのである。
それも万を率いて来訪しようものならば、その末端の兵士一人ひとりに至るまで厳重な審査が課される事となる。
そして集団の中に一人でも審査結果に問題があれば、それら全員の入国が認める事は出来ず、膨大な時間の消費となってしまう。
こういった面から大人数でマサイヤに来る者は皆無だと断言しても良いかもしれない。
だがそれは来訪者が全く来ないという意味ではない。
むしろ少数でマサイヤに訪れる人々は決して少なくない。
なにせマサイヤは王国領の中心地。王都やその他の場所へ目指す商人や旅人が旅の疲れを癒すために腰掛ける場所でもあるのだ。
そういった者らがマサイヤへ入る場合は、物資専用の大型扉からではなく、各門に併設された地下通路からの入場となる。
無論、荷馬車が通れるような広さもないので、比較的荷物量の少ない者や少人数の者達のみに限られてしまうのだが、こういった入場口が別に用意されているというのは利用者にとっても非常にありがたい。
いや、一番助かっているのは門を管理する警備の者達だろう。
何せ巨大な門をその都度開けるというのは非常に労力と時間を費やす事になる。
それが小さくなれば手間も省けるというものだ。
だがそれでも巨大な門が永遠と閉鎖しているという事はない。
必ず数日に一度は開かれる事となる。
今日がその日だ。
南門の扉がゆっくりと外側へ開かれる。
膨大な時間を消費して入場審査を経た訳ではない。今回の場合は入場とは逆で外へ出るからだ。
ガラガラと車輪を転がし、何頭もの馬と荷馬車が次々と門の中から現れる。
荷馬車に付けられているのは王家の紋章。
つまりはベルンシュタイン王国の財産が搭載されているという事だ。
先日降った雨のせいか、ぬかるんだ地面には点々と水溜りが出来ており、泥と混じって濁ってはいるが照りつける太陽の光がその表面で反射しているのがわかる。
徒歩であれば汚れを気にして避けるだろうが、荷馬車は気にも留めずにその上を蹄と車輪が転げ歩く。
何重もの蹄の跡と轍が入り乱り、数分で原型なく泥水は地面に蔓延した。
おそらく乾いた後にはより凸凹した不安定な道が築かれる事になるだろう。
馬車は二列に並行して並び、その後ろを九台ずつ――合計十八台が先頭の二台に追従する形だ。
ぬかるんだ道のせいで馬車は激しく揺れるが、雨風降ってないだけ十分マシと言えるだろう。
これらの大半にはマサイヤに蓄えられていた物資が積み込まれているが、先頭の一台と最後尾の一台だけは人を乗せている。
道中の護衛を担う者や、物資の運び先で相手と取引を行う者を乗せる為だ。
しかし最後尾の荷馬車だけは少し特殊と言っても良いかもしれない。
というのも、その最後尾に乗った者の中には王国民でない者が含まれているからだ。
馬車の中を覗けば誰が王国民でないかは一目瞭然である。
ガタガタと揺れ動く馬車の中で、逞しい二の腕を組み交わしながら荘重として居座る一人の男。
民族衣装のような上半身の露出面積の多い軽装な格好ながらも、夥しいまでに肉体が語る傷痕は男の存在感を誰よりも強く語っており、両肩にある純白の毛皮がより男の存在を主張する。
もしこれが痩せほせた男であったならば、ただ派手な男と一笑出来たかもしれないが、男の筋繊維は全身にくまなく張り巡らせており、隆々とした力瘤は素の状態であれども力仕事を担う下男と比較しても歴然とした差があった。
いや、下男と比較するのも彼にとっては侮辱に聞こえるかもしれない。
何故ならば男はその肉体のみならず、双眸に宿した輝きでさえ歴戦の戦士が持つそれだ。
目の下に塗られた黒く太い隈も男の放つ異彩な迫力に一役買っている。
これだけでも彼が王国の人間でないのは明らかだが、男の顎下で振動と共に揺れ動く三本の三つ編み顎髭の存在を認知してしまうと、いよいよ男が何者か理解できなくなる。
そんな男一人が創り出す重々しい空気に耐えかねたのか、向かい側に座る丸眼鏡の男が口を開く。
「……いやー、相変わらずデレピグレオはんは迫力あるなぁ。黙っとったらごっつう恐いですわ」
カラカラと笑う目の前の男に、デレピグレオと呼ばれた男は顎髭を弄りながら答える。
「そうか?」
「あちゃー。気付いてはらんかったんか」
ポリポリと頬っぺを指で掻きながら、呆れたように男は息を漏らす。
「ほら、見てみぃ。そっちの兵士長はんやウチのミシルちゃんまで緊張で視線逸らしとるさかい」
「ちょ、マルの兄貴⁉︎」
唐突に引き合いに出されたミシルは、思わず隣を振り向く。
斜向かいに座っていた唯一甲冑を纏う兵士もびくりと肩を震わせたのが分かった。
「……こっちの人はともかく、お前とは初対面じゃなかったと思うが?」
デレピグレオは何故か声が強張っているミシルを見て首を傾げる。
記憶が正しければ彼は王都に無断侵入を試みた際に、秘密の地下通路で鉢合わせた青年だ。
横に座る盗賊団溝鼠の頭目であるマルの部下であり、初対面の際にはかなり面と向かって喧嘩を売られた気がするが、なぜか今はあまり目を合わせようとしない。
そんなミシルをジッと見ていると、不意にバチっと視線がぶつかり合う。
「う、うるせぇッス! お前なんか怖くねえッスからね!」
「いや、別に何も言ってないんだが……」
「私は正直怖いと言うよりも緊張ですな」
デレピグレオの隣に座る兵士――バルボロは些か堅い表情で笑ってみせる。
「何せデレピグレオ殿は王国を救った英雄二名の族長と聞き及んでおります。
王黄同盟が成立したその場に居合わせなかったので我が主君ウォルター様やそこで見聞きした者から伝え聞いた話ではございますが――。
いやはや。こうして隣に座らせてもらってるだけでも強く実感致しますな。
戦士としても男としても格が違う――と。
……おっと、私如きと比べては失礼でしたな」
「いや、そんな事はない。
俺達は閉鎖した場所で生きてきたから戦う以外の術を知らないだけだ。
外の世界を知るバルボロ殿の事は頼りにしているし、尊敬もしているぞ」
「はっはっは! それは光栄ですな!」
「デレピグレオはん、デレピグレオはん。ならあっしの事はどう思ってはります?」
「はいはい。頼りにしてるよ」
「……なんかリューネットはんの塩対応に似てきた気がするんやけど……まあええわ」
小さく不満を漏らしながら今度はバルボロへと向き直る。
「ほんで兵士長はん、目的地までどのくらいかかるんや?」
「およそ三日といったところか」
ゆっくりと移り変わる窓の景色を眺めながらバルボロは言う。
これが悪天候であればもっと時間はかかるだろう。
しかし昨日の雨天からかわって今朝は雲ひとつない快晴。ぬかるんだ道だけが煩わしい程度で、馬足を鈍らせる要因にはなり得ない。それもこの分だと一晩経てばすっかり地面も乾くはずだ。
明日にはもっと速度も出せるだろう。
馬車での移動経験の多いバルボロはそう判断した。
「……しかし今更だがお前さんらは何で付いて来たんだ?」
目の前に座る犯罪者二人をバルボロはジロリと睨みつける。
王国内でも二人が溝鼠であるという事を知るのは少ない。しかしウォルターの部下であるバルボロは当然把握していた。
自らの主君が彼らの存在を黙認しているので直接手を出す事はないが、国の安全を守る身としてはあまり良い気はしない。
そんな不満とも苛立ちとも言えるもどかしさを声と瞳に乗せて二人へとぶつける。
しかしマルは意にも介さず、変わらぬ口調でサラリと答えた。
「あっしらはリューネットはんの使いっ走りや。
ちょいと頼まれごとしとってな」
自らの上司の名前を出されてはバルボロも何も言えない。
つまらなさそうに視線を外す。
「ま、帰りは別々になるさかい、そない邪険に扱わんとってな」
「ふん。分かっとるわ」
あまり良いと言えない雰囲気に、最も無遠慮そうなデレピグレオが静かに背中で汗を流す。
(あー、気まずい)
マルは常にニコニコ笑っているので表情は見えないが、ミシルはバルボロの態度が大層気に入らないといった様子で敵視しているのが分かる。
バルボロもデレピグレオに向けられる口調と彼らに向けられる侮蔑の目は明らかに違うので、その差を真近で感じてしまうデレピグレオの精神は無言を数える秒針が刻まれる度に磨り減っていった。
体躯だけ見れば間違いなく立派なのだが、彼の精神は二十歳そこそこの若者――それも地球生まれの日本人のもの――でしかない。
我関せずと窓の外を眺めるのも手だが、これが三日間も続くとなれば流石に苦痛だ。
デレピグレオは頭に鞭打ち、適当に話題を見繕う。
「そういえば王都に入る際は通行証が必要だったが、これからまた国境を越えるのだろう?
たしか森林国とやらも帝国に侵攻されていると聞くし、入国規制とか問題ないのか?」
「ええ。向こうさんには事前に書面で知らせてますし、何より先方から俺たちに支援を求めてきたんです。
こんだけ物資を引っ張って来て『帰れ』なんて事にゃならんでしょう」
「なら問題ないな。確か滞在期間は一週間程度だったか?」
「ええ。本来ならデレピグレオ殿にも誰か供回りを用意したかったんですが、何分防衛都市ハッタンの治安維持に人手が必要でして……」
「無理を言って連れて来てもらってるんだ。何も問題ないさ」
「……そう言って下さると助かりやす」
「しかしほんま大丈夫でっか? デレピグレオはん、そないな格好で来はるし、正直かなり目立つんが目に見えとるけど」
「目立つこと自体は問題ないだろ。元々他国の者だ」
他国どころか種族すら異なるのだがデレピグレオは敢えてそれを口には出さない。
「まあデレピグレオはんが構わへんのやったら、あっしらがこれ以上どうこう言うもんでもあらへんけど」
「すまない。気を遣わせたな。
まあ帰りの馬車だけ頼む事になる。バルボロ殿、よろしく頼む」
「ええ、任せてくだせえ」
バルボロから快い返事をもらったところで、デレピグレオは視線を窓の外に飛ばす。
どうにか室内の空気も落ち着いた。
あとは適度に世間話を交わして目的地に到着するのを待てばいいだけだ。
適当に場を繋ぐだけの話題を用意しておかなければと、少しでも会話の種になりそうなものを外から探す。
(しかし――)
それと並行してデレピグレオは別の事も考えていた。
(なーんか喉の奥で引っかかる感じがあるんだよな。
……忘れ物でもしたっけか?)
デレピグレオは「うーん」と唸りながら振り返ってみる。
(集落の事はフィットマンに一任しているから何も問題はない。
財布もオーケー。
いざという時の為の道具もいくつか見繕ってきたし、生活・戦闘においても大丈夫なはずだ。
それに今回の目的は以前同様にただの情報収集。王都では得られなかったオートマタに関する文献を探す程度だし、戦い巻き込まれる事はないはずだ。うん)
何度考えても問題点は見当たらない。
しかし未だモヤモヤとした心内の霧が晴れた気はしなかったが、思い出さないという事は別に大した事でもないはずだ。
デレピグレオはそう自身を納得させ、再び外の景色へと視線を這わした。




