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古代文明人の生き残り  作者: 十良之 大示
第1章:生き残った一族
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015:王金同盟

 凱旋パレードはデレピグレオが想像した以上に大々的に行われた。

 王国民全員が拍手喝采する中、戦場へ赴いた戦士達に混じり賞賛を浴びる。


 ちなみにガリバ族の中で参加したのは、プティッチとヌッヌウの二人だけだ。

 というのも実際に戦場に赴いたのはこの二人だけなので、それを言い訳に族長であるデレピグレオは参加を辞退。



(だって小っ恥ずかしいし)



 肉体に反して小心者であった。

 精神は(いずみ) 宗吾(そうご)の名残りがまだ色濃く残っているので無理もないのだが。


 とはいえ、見た目が明らかに悪党でしかないプティッチや、戦争の悲惨さを語る怪我人にしか見えないヌッヌウを民衆の前に出して良いものかと不安もあったのだが、予想に反してウケは良かったのだから驚きである。


 何でもプティッチの場合は常人離れした体つきが功を成し、“白虎”を(あし)らい帝国兵数千を軽く屠ったと、誇張された戦果に説得力を(もたら)したんだとか。


 いやいや、顔を見てくれと内心思ったのだが、どうやら民衆の視界には特別なフィルターでもかかっているかのように山賊面のプティッチを爛々と輝く双眸で見つめていた。

 まあ勝利に貢献したのに敬遠されるよりかはずっとマシなので問題はないのだが、デレピグレオとしては民衆の美的感覚を疑わなければならないだろう。


 そしてヌッヌウについてだが、他国の者が同盟国の為に我が身を犠牲にして奮戦したのだと、その勇気を讃えられ胸を打たれた者達が大勢いるのだとか。

 何なら生まれた時からあの姿なわけだが、心打たれる民衆にわざわざ水を差すような野暮は必要ない。


 それにより事実無根な噂話が一人歩き――いや、民衆の中で瞬く間に蔓延したのだ。


 戦いには物語が必要だというが、些か暴走しすぎな気も否めない。とは言え、ベルンシュタイン国王が同盟の良い宣伝になると民達に広がる英傑伝については放置すると明言していた。

 ならばお言葉に甘えて二人には民衆の人気を獲得してもらうことにしようとデレピグレオは判断する。


 そしてパレード翌日、いよいよ公式の場にてガリバ族とベルンシュタイン王国が同盟を結ぶ日が訪れる。


 互いが初めて顔を合わせた玉座の間。

 あの時と違い、この場には隙間なく大勢のヒューマン達が深紅の絨毯の外側に並び道を作っている。


 その道に立つ事を許されたのは、先日の戦争で勝敗を決した立役者である二名と、彼らを統べる男――デレピグレオだ。


 デレピグレオ達は無数の視線を浴びながら、“王国の刃”と“王国の天秤”を両脇に控えさせるこの国の王――アルクライム・フォン=ウィンゲーツ・ベルンシュタインが鎮座する玉座の前へと歩み出る。


 するとアルクライムはすくりと立ち上がり、デレピグレオ達が立つ位置へと降り立った。



「よくぞ来てくれた。我が友よ」

「ああ」



 差し出された手をデレピグレオが握り返す。

 初めて彼らを目にする者らからは「おぉ」と感嘆の声が漏れた。

 なにせ一国の主が玉座を離れ、(あまつさ)え階段を下りてデレピグレオと同じ目線に立ったのだから無理もあるまい。

 つまるところ、アルクライムは公衆の面前で「この者と自らの立場は対等である」と第一声で知らしめたという事に他ならないのだ。

 それが理解出来ぬ愚か者はいない。


 その反応を待っていたかのように、アルクライムは高らかに声を上げた。



「皆、紹介しよう。彼らが此度の戦いで私達の窮地を救ってくれたガリバ族の方々だ」



 王の紹介を経て、ざわざわと様々な声が聴き漏れるのが分かる。

 だがそれも束の間。

 アルクライムが再び口を開けた時には、その言葉を一言たりとも逃すまいと皆の視線が集う。



「既に知っている者もいるだろうが、彼らはあの金樹海に隠れ住む部族で、今回、我が神器であるウォルターとリリリラの二名の働きにより彼らと接触する機会を得た」



 ここでもまた口々に感心の言葉が溢れる。

 これはデレピグレオとアルクライムが事前に打ち合わせした設定だ。


 幾ら何でも、今迄その秘密の奥を解明するに至っていない「金樹海から現れた民族に偶然手を貸してもらった」では不必要な疑念を民衆に抱かせかねない。


 何故今なのか。

 何故王国なのか――と。


 ならば王国で名のある二名の働きによるものだと明言した方が、信用を得られやすいと踏んだのだ。

 そしてそれが秘密裏に指示していた王の命によるものであれば、アルクライムとしても盤石の地位を得られるというもの。


 為政者ってズルい。

 最初こそデレピグレオもそう思ってしまったが、彼としても都合が良いので話を合わせる事にしている。


 つらつらとアルクライムの口から流れる言葉に記憶を重ね合わせていく。



「彼らの目的の一つは文明開化。そして私達が求めるものは戦時における戦力。

 既に結果が示している通り、彼らガリバ族は一人一人が一騎当千の猛者。それこそここにいる“王国の刃”にも匹敵する素晴らしい戦士だ。

 彼らの力は、今後苛烈を極めるであろう帝国との戦いにおいて頼もしい手助けとなるでしょう。

 その為、私達と彼らは利害が一致し、互いに手を取り合う事を決めた」



 食い入るように、皆がアルクライムの演説に耳を傾ける。

 いや、耳だけではない。

 目も鼻も口も――持ち得る感覚全てを研ぎ澄まし、アルクライムの言葉に集中した。



「その証拠として、ここにいるプティッチ殿はかの帝国四神が一柱“白虎”を相手に、無傷でかの英傑に敗北を認めさせ、更にはその部下一万を投降させた!」



 ビリッと皆の背筋に電気が走る。

 噂は本当だったのだ。

 英雄を目の当たりにした子どもの頃の気持ちを思い出したかのように、胸の鼓動が高まり全身の体温が上昇する。



「さらに隣に立つヌッヌウ殿は我らが“王国の刃”が時間を稼いでいる間に兵を率い、敵防衛都市であるハッタンへ攻め込み僅かな時間でこれを陥落!

 更には残存敵勢力全てを魔法により無力化するという素晴らしい功績を挙げられました!」



 改めて告げられた事実に、目に涙を浮かべる者まで出てくる。

 信じられない。

 いや、実際に戦争に勝利しなければ例え王の言葉であっても信じる事は出来なかったであろう。


 帝国が毎年のように仕掛けてくる戦いでは小規模ながらも決して無視できない民兵が犠牲となる。

 その度に国は悲しみに明け暮れ、時間をかけ再び立ち上がりまた挫きと、いい加減鬱になりそうな戦いに憤りを感じていたが――ようやくそれに終止符が打たれたのだ。


 しかも王国民に犠牲者を殆ど出さないという形で。更には大勝利という美酒まで添えた上でだ。


 もはや感動という陳腐な言葉ですら生温い。

 戦争の哀しみを知っている者達からは、その二人の堂々たる佇まいに後光が差しているかの如く煌めいて映った。


 いや、実際には潤んだ瞳に天井から差す光が反射して映って見えているだけかもしれないが、そんな事実があったところでどうでも良かった。


 この胸に込み上げる感動というのは紛れもなく本物なのだから。

 そしてそれは戦争の哀しみを知る者達全てに伝染し、同時に彼らを見る目の色を変えさせていく。


 そんな感動に打ち拉がれる者らの様子を眺めながら、アルクライムは一呼吸置いて高らかに言い放つ。



「そんな彼らと知己になれた私達の幸運は計り知れないでしょう。だが勿論、国として施しを受け続けるだけにはなり得ない。

 彼らが私たちを支えてくれたように、私たちもまた別の形で彼らを支えよう!

 よって今ここに私達ベルンシュタイン王国と金樹海ガリバ族における【王金(おうごん)同盟】を結ぶ事をここに宣言する!」



 アルクライムの言葉がその場に集った者らの心に一度に炎を灯す。



「「「ウオォォォォォォ!」」」

「異論ある者は前に出てこれを示せ!」



 あるはずもない。

 民を、国を救ってくれた英雄達に物申すなどと。

 強い瞳がそれを物語る。


 それを満足そうに頷くアルクライムが、再びデレピグレオへと向き直る。



「さて、そんな英雄達を統べるガリバ族の族長、デレピグレオ殿。

 改めて私達ベルンシュタイン王国と手を取り合い、互いに助け合う事をここに誓ってもらえるかな?」

「無論だ。友よ」



 デレピグレオは迷う事なくその手を握り返す。


 ――同盟の成立だ。


 そんな歴史的瞬間に、とうとう涙腺を最大まで緩ませて崩れ落ちる者らも続出する。


 正直言ってデレピグレオからすれば「泣くほどの事か?」と若干引き気味になってしまうが、王国の現状というのは存外、崖っぷちという言葉が相応しい程に追い込まれていた。

 それこそ立っていることさえ難しく、次の足場を見失う程に。


 だからこそ、今回の勝利というのは王国民にとって救い以外の何物でもないのだ。



「ありがとう。では――」

「デレピグレオで構わない。俺たちは友なのだろ?」

「ああ、そうだね。ではデレピグレオ、私達の国を救ってくれた礼をさせてほしい。

 キミたちが望む物はなんだい?」

(え、今ここでそれを聞くの⁉︎)



 僅かにデレピグレオの表情が強張る。

 予定ではこの後には立食パーティーが開かれ、そこで王国の有力者に顔を売っておく予定だったはずだ。



(そうすれば王国領内では自由が利くからとアルクライムが勧めてくれたのに!)



 ニコニコと微笑む目の前の男に文句を言ってやりたい。


 別に欲しいものを口にするのは簡単だ。

 集落にないものなんて山ほどあるし、個人的にも欲しいものは無数にある。


 だが公然の場というのはいただけない。

 折角、敬遠されがちな格好をしているプリミティブ――といってもそれを知る少数以外はヒューマンと思い込んでいるのだが――が、想定外の好評価を得ているのだ。


 これはデレピグレオにとっても予期せぬ副産物。王国で行動する上で印象が良いに越したことはない。

 不用意な発言で人気絶頂にある自分達の立場を崩したくはない。


 デレピグレオは葛藤に葛藤を繰り返し、ガリバ族の族長らしい返答を選ぶ。



「最初にも言ったはずだ。俺達が望むのは金樹海への無断侵入禁止とそちらとの友好条約の締結だと。

 同盟については成されたから、あと俺達が望むのは勝手に俺たちの領域に侵入しないという契りだけだな」

「しかし私達はキミたちに国を救われた。であればその恩人たるキミたちに礼を尽くさねば国としての沽券にかかわる問題だ」

「なら酒におん――」



 バキッ!



「な、何しやがんでぃ、お(かしら)ぁ⁉︎」

「いいから黙ってろ。頼むから」

「……今プティッチ殿が何か仰った気がするのだけれど?」

「いや、寝言だろう。叩き起こしたからもう大丈夫だ」

「そ、そうかい? ならば改めて聞かせてほしいのだけれど……」

「いや、いい。アルクライム。

 俺は前にも言ったはずだ。追加報酬をくれるならそっちで適当に頼むと」

(てかいきなり言われても困るんだって!

 フィットマンがいれば問題なかったんだろうけどさ。

 ……いや、もしかしてわざとこのタイミングで聞いてきたとかないよな?)



 その笑顔の裏に隠れた(さか)しさを粗探しするかのように、デレピグレオの視線がアルクライムの涼しげな表情の上を転がっていく。



「……ふむ。分かったよ。

 ならばウォルター達とも相談した上でまた知らせるとしよう。

 楽しみにしていてほしい」

「わかった」



 ほっ、とバレないように息を吐く。

 後ろで巨漢が名残惜しそうな視線を背中にぶつけてくるが、デレピグレオは気付かないフリをしておく。



「では先にここで皆に言っておくとしよう。

 先程デレピグレオ殿も言ったように、今後王国は金樹海への無断での侵入を一切禁止とし、これに反した場合は特級の罪を課せるものとする。

 皆、ゆめゆめ忘れる事の無いように。

 この場にいる領主及び村町の責任者は必ずそこに住む者達に伝達するように」



 特級と言えば王国内では最も重い罪だ。

 歴史を振り返れば過去に特級の犯罪者は存在したが、それは他国に情報を売ったり他国の人間を秘密裏に国内に招いたりと、国を危険に晒す行為に手を染めた者に課される罪の等級である。


 つまりガリバ族との盟約を反故にする行為を犯すという事は、国を売る行為として見なされるという事だ。


 それだけベルンシュタイン王国にとって、ガリバ族との友好関係というのは重要だということ。

 皆理解しているつもりだが、改めてそれを思い知らされる。



「まあこの同盟を反故にしたい者など我が国にはいないと思うけどね」

「だと嬉しいがな。まあアルクライムを信じるとしよう」

「ありがとう。さて、ではそろそろ場所を移すとしよう。

 此度の勝利と私達の関係を祝って、我が国自慢の料理人達が腕をふるってくれた料理がそろそろ完成する頃だ。

 じっくりと楽しんでほしい」

「そうか。ならばお言葉に甘えて楽しませてもらうことにしよう」

「お、ようやくメシか」

「ゴバリィ、るどゥ」

「上品に……とまでは言わないが、せめて下品を晒しすぎないようにだけしてくれよ。

 頼むから」


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