《第六章》あの日→十七時三十四分
「待って・・・!」
俺は走り去る彼女の後を追う。
あの時もそうだったじゃないか・・・!
彼女は「俺以外に見えていない」
知らなかったあの時と違って今回は知っていた。
だから細心の注意を払っていたはずだったのに。
何事もなく一緒に祭りを楽しんで
そして・・・。
そして・・・何事もなく去るつもりだった。
あの時の淡い気持ちも、辛い思い出も
無かったことにしたかった。
気付かなかったことにすれば彼女は傷つかずにそして・・・。
また間違えるのか俺は・・・。
パシン、と俺は両頬を叩いた。
不安と後悔が浮かぶ俺の頭に喝をいれる。
いいや、違う。
あの時、逃げた彼女を追いかけて、そのことを知り怖くなって逃げたあの時とは違うんだ!
何も知らない振りはもう出来ない。そして彼女を見捨て逃げることも、もう出来ない。
そうして辿り着いたのはあの花畑。
月明かりが照らすその中央に、彼女は、ひまわりちゃんは立っていた。
俺は今にも消えてしまいそうな彼女を見て駆け寄ろうとする、が。
「待って!」
あの時と同じようにこちらを向かずにそう告げる彼女。
俺は足を止める。
それから彼女は、月を見上げ、喋りだす。
「あのね、りゅーじ君、私ね・・・」
「・・・うん」
その消え入りそうな声に、胸が締め付けられながら、震えそうになる声を必死に押さえ返事を返す。
彼女は夜空に浮かぶ月を眺めながら、はっきりと俺に告げる。
「私、幽霊、なんだ」
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