《第四章》八月十五日
ひまわりちゃんとこうやって顔を合わせているとあの日々の気持ちが鮮明に思い出される。
俺にとっておばあちゃんの家は非日常であり何でもある都会と違って何かを探し出して見つける場だった。
好奇心旺盛で何にでも興味を示していた俺にとって全てが目新しく楽しい日々。
そうして出会ったひまわりちゃんはそれまでの俺の「女の子の当たり前」を崩す様な存在で、
当時同級生だった周りの女の子達と違い、俺以上に好奇心旺盛だった。
お互いに似たような感性だったのか直ぐに意気投合し、そして何にでも興味を持ちあれやこれやと聞いてくる彼女に対して俺は優越感と今まで居なかったようなタイプの女の子に惹かれていった。
あの時までは・・・。
「そういえばりゅーじ君知ってるー?明日って夏祭りなんだよね!」
俺はその言葉にドキッとした。
彼女と出会って一緒に遊んで三日が過ぎ、今日は八月十五日。
花畑の傍、大きな木の根元で二人で座りながら話していた時彼女にそう言われた。
俺は平静を装い返事をする。
「へえ、だから神社の方で屋台とかあったんだ」
「そうなんだよ!」
うんうん、と頷くひまわりちゃん。
そして一頻り頷いた後、彼女は少し挙動不審気味に俺の方をちらちらと見る。
その頬が少し赤く染まっていることに俺は気付く。
「あ、あのねっ!」
「う、うんっ」
ひまわりちゃんの緊張と羞恥がこちらにも伝わってくる。
いや、何で成人もしてる俺がこんな緊張しているんだとも思うが、仕方ないとも思う。
全てが決まったのも、終わったのも、明日。
あの日の後悔も、あの日の気持ちも。
そして、今のこの、気持ちだって。
隣から深呼吸の音が聞こえる。
こちらも同じように大きく深呼吸する。
「よ、良かったら一緒に、いこ・・・?」
「・・・うん、俺もひまわりちゃんと一緒にいきたいと思ってたんだ」
彼女の胸元の青いリボンと、大きなつばの麦藁帽子が持ち主と同じように楽しそうに揺れる。
その様子を見て俺の心も同じように揺れる。
俺は喜びたい気持ちと不安な気持ちがないまぜになった心を抑えつつ、彼女に伝える。
「それじゃあ明日夕方に、ここで」
「うん、わかった!楽しみに待ってるね!」
そして俺は、あの日と同じように
そしてあの日より強い気持ちで運命のその日の誘いを、受けた。
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