《第三章》八月十四日
腰ほどまである長い艶のある黒髪にはつばの大きな麦藁帽子。
病的なほど白い肌とそれを包む白色のワンピースは胸元で空色のリボンがついている。
笑うとえくぼが出来るその頬は少し赤らんでいる。
俺が覚えてる彼女、西園寺ひまわりだ。
「あれーりゅーじ君そんなまじまじと私をみてどーしたのー?」
「あ、いや、えっと、なんでもない」
俺はそんな彼女の笑顔に自然と頬が赤らむのを自覚する。
俺は数年はたった今でも彼女のことを忘れないでいたのだな、と。
事故であんなことになった時まで覚えている程想っていた少女に出会えた嬉しさが顔ににじみ出る。
精神年齢的には完全に犯罪の域だが肉体年齢が同い年なのでセーフとしてカウントする。
と、自らの心を落ち着かすためくだらないことを思っては切り捨てを繰り返したお陰でかなり落ち着くことが出来た。
「もー、恥ずかしいからあんまし見ないでよー・・・」
そういって彼女がはにかみながらその大きな麦藁帽子のつばで自らの顔を隠す。
「あ、え、ご、ごめん!」
俺はそんな様子の彼女を見て慌てて謝る。
「・・・なーんて!嘘だよ!」
「え、ふぎゅっ」
俺のほっぺを両手で押しつぶしてくる。
「あははははっ、りゅーじ君面白い顔ー!」
俺の潰れた顔を近くで見てくる彼女。
その彼女の、長いまつげの本数まで見える距離に居る彼女の顔をじっと見ていられず俺は顔を背けようとするが、彼女の腕は離れない。
「や、やめてよぉ。」
「だーめ、だって・・・」
そういうとその長いまつげが悲しそうに伏せられる。
「りゅーじ君、今日は私の名前まだ呼んでくれてないんだもん・・・」
ぐっ、とのどが鳴る。
確かに当時俺と彼女はお互い名前で呼び合っていた、だが今こうして戻った身として、
あの彼女の名前を再度呼ぶことになる、と覚悟していたとはいえ。
恥ずかしさがこみ上げてくるのは仕方ないと思う。
「りゅーじくん・・・」
今にも泣き出しそうな声を出す彼女。
俺は意を決して、彼女の名前を呼んだ。
「ひ、ひまわり・・・ちゃん・・・」
「ん!よし!ゆるすっ!」
今までの悲しそうな顔はなんだったのかと言うほど魅力的な笑顔で俺に微笑みかける彼女・・・いやひまわりちゃん。
俺はひまわりちゃんの両手からようやく開放され戻った両頬に残った温もり以上の熱が、頬の赤らみまで戻ってきたことを自覚させ更に恥ずかしくなったのだった。
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