《第二章》八月十三日→八月十四日
明けて八月の十四日。
昨日は結局あまりの衝撃にほとんど眠れず朝を迎えてしまった。
既に出会っていたという事実にもっと早く気付けよ馬鹿、と頭を抱えた。
しかもよりにもよって出会ったであろう後で俺という意識が戻ってきている。
一応俺は昨日その少女と、今日も一緒に遊ぶ予定を取り付けていた筈だ。
そして昨夜から考えては浮かんでくる不安が頭を過ぎる。
俺は本当に彼女とまた会ってもいいのだろうか。と。
だか俺はその考えを消すように頭を振る。
あの事故の最中、ふと頭に浮かんだあの日の「後悔」
俺にとっては最高で綺麗で美しく。
そして何よりも辛かったあの思い出。
その少女と出会ったあの夏。
神社裏の小さな森の花畑で出会ったあの少女。
何の奇跡か何の偶然かわからないけれど・・・。
俺はそんな夏に舞い戻ってきたんだ。
「おはよう隆司。」
「おはよ、お父さん」
「あらおはよ隆司、とりあえず顔洗ってきなさい。そんな眠そうな顔して」
「はーい」
二度と戻らないと思ってたあの夏が目の前にある。
例えそれが奇跡だろうと夢だろうと、無駄にしちゃいけないんだ、と。
俺はただそう思った。
※
「それじゃあいってきます」
「昼までには帰って来るんだよー!あとちゃんと飲み物も飲むのよ!」
「解ったよ!」
俺はそう母に告げてお祖母ちゃんの家を飛び出す。
向かう場所は一つ。
「少女」と出会った、あの場所だ。
俺は逸る気持ちを抑えつつ、小さなその体躯を走らせる。
照らす太陽が帽子で遮られてるはずの俺の顔を刺激する。
自然と流れ出る汗を拭いながら俺は神社の石段を登る。
トントントン、と音を鳴らしながら夏祭りの準備をしている大人たちを横目に俺は神社の裏手の森へと足を進めていく。
少女に会うのが楽しみで、何度も通ったこの道を。
そして開ける視界にうつったのは綺麗な花畑。
「あ・・・れ・・・」
乱れた息を整えることも忘れ、俺は辺りを見渡す。
誰も、居ない。
違う。
あの少女が、居ない。
俺の記憶が間違っていたのか。
実は去年のことだったのか。
酸欠の頭が更に真っ白になっていく。
胸に篭った熱い感情が目じりに浮かびそうになる。
そのとき
「やっほ!りゅーじ君!今日も遊ぼ!」
懐かしいその声が
懐かしいその姿が
そして何より
望んで止まなかったその少女が
木陰の向こうから俺に向かって手を振っていた。
※