《序章》二月十三日→???
人生の最後に見る風景なんてこんなものなんだろうか。
粉雪の舞う寒い冬。
俺は正面に差し迫った赤い色した高級スポーツカーのライトに目が眩む。
衝撃が体を突き抜ける。手に持っていた学生鞄の感触が消える。
退屈な人生とまでは言わないけれど、決して楽しい人生でもなかった。
悲鳴が遠くから聞こえる。
ライトに眩んだ目が少しずつ暗くなっていく。
そのとき。ふ、と頭に浮かんでくるあの夏の日。
暗転した視界の中で、茹だる様な熱気の中で出会った、八月十三日のあの日に出会った少女のことを思い出していた。
※
「・・・ぅじ」
遠くで誰かが呼ぶ声が聞こえる。
「・り・ぅじ・・・!」
その声が高校に入って一人暮らしを始めてからは久しく聞いてなかった母の声だと理解するまで時間が掛かったのは仕方ないことかも知れない。
そんな母の声が聞こえたということは、ここは病院だろうか。
よかった、助かったのか。
それにしても”暑い”。
あんな事故だったのだ。
痛みが熱さに変わっているのだと思った。
だがそれとは違う、と気付いたのは
あの走馬灯の様な瞬間に思い出した、あの夏の出来事。
あの、茹だるような夏のあの日のような・・・。
俺は目を開く。
「良かった隆司、起きたのね、大丈夫?」
霞む目が母の姿を見つける。
最後にあった数ヶ月前の盆に見た母よりも若くみえるその顔。
「あら、まだぼーっとしてるの?全くあんたはおばあちゃんの家にくるとすーぐはしゃぐんだから、ちょっとは大人しくしてなさい!わかった?」
頭がぼーっとする。事故にあったことないからまだ混乱しているのだろうか。
板張りの天井と懐かしい線香とたたみの匂い。
風鈴の涼しげな音色、セミのけたたましい鳴声。
俺はその懐かしい天井に向かって無意識に手を伸ばした。
視界に見えたのは小さな腕。
「まったくもう、毎年やらかすんだから、少しは学びなさいよね。来年から中学生でしょ?」
その見覚えのある小さな腕をそっと母親の手が掴み布団に下ろす。
母のその言葉を最後に俺は瞼を落とす。
あぁ、これは死ぬ間際にみる夢なんだな、と。
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