第一話 転生とかもってのほかなんだが
初投稿です。誤字脱字などもし気が付いたら指摘くださると助かります。
気が付けば俺はだだっ広く何もない部屋にいた。辺り一面真っ白で目がチカチカする。というか、ここはどこだろう。
俺の名前は柏木正樹。どこにでもいる高校生だ。重度の隠れオタクであることを除いて。
自分に何が起こったかよくわからぬまま、辺りを見回すと、真後ろにに一人の女性がいた。目の前にたたずむその女性は、透き通るような白い肌と真っ白な髪を長く伸ばし、人とはかけ離れた美貌を兼ね備えていた。そして、微笑みながら俺に声をかけてきた。
「柏木さん、自分がどうなったか覚えてますか?」
そう言われて思い出した。
今日は待ちに待ったゲームの発売日だった。俺にしては珍しく宅配を使わずに学校帰りに近くの店まで買いに走ってそれから……
「あれ、俺なんで? 確か車に……」
そう、帰り道の俺は発売の発表時から目をつけていたそのゲームに夢中で、背後からくる車に気が付かなかった! コ○ンみたいに。いや、思いっきり正面から来てたな。はい、完全に俺の不注意ですね、はい。
でもこうしているってことは…
「俺……助かったのか?」
「いえ、死にましたよ?」
「……は?」
こいつ今なんて言った? 俺死んだのか? いや、それよりも……
「君、誰?」
「すみません、申し遅れましたね。私は若者の死後の世界をつかさどる女神イリス、と申します。それより、本題に入ってもよろしいですか?」
「女神?」
「はい、女神です」
そう言って俺に微笑みかけてきた。わからないことが多すぎて色々戸惑っているが、とりあえず話を聞こうと
「コホン、それでは……あなたはさきほどお亡くなりになりましたが、若くしてお亡くなりになった不幸な方には二つの選択肢があります。一つは、このまま記憶を消し魂を再構築する事で、新しく再スタートするという選択肢。もう一つはファンタジー要素満載の異世界に行ってもらいます。冒険するもよし、商人や貴族になって大金持ちになったりするもよし。可能性は無限大です! ……さぁ、どちらにしますか?」
なるほど、二つ目はとても魅力的だ。なんせ現世ではそういう類のものは妄想のものとして扱われてきたからな。こう、手から火の玉が出たりして。
俺は迷うことなく言い放った。
「一つ目で」
「え?」
「聞こえませんでしたか? 一つ目の選択肢で頼む」
すると、慌てた表情で
「いや、異世界ですよ、異世界! 剣と魔法の溢れる異世界! 好きでしょ? 君そういう類の本とか持ってたじゃない! いろんなゲームもやりこんでたし。ふつうそこは「二つ目でお願いします、女神様!」でしょ!」
とか言ってきた。口悪いな。なんだこの人?
確かに俺はラノベやゲームは好きだ。オタクと言われても特に否定しない。ラノベの主人公に憧れたりもする。だがそれだけだ。俺は本のように勇敢に強大な敵に立ち向かったりなどしない。だってけがしたくないし。怖いし。
「はあぁぁ……あんたってホントヘタレね。生きてる価値ないんじゃない?」
もう死んでるよ。だからここ居るんだろ。そしてとても失礼なやつだな。最初の丁寧な口調どこいった?
とてもむかつくが我慢してこう言った。
「ひ・と・つ・め・で」
「こ、こいつ……人が下手に出てやったら調子に乗りやがって……」
すると、口の悪い女神とやらは、勝ち誇った笑みを浮かべ俺にこう告げた。
「残念ですけど、あなたの異世界行きはもう決まってるんですー。もう変更はできないの。残念ね。ぷっぷー」
うわ……俺の中の女神様イメージが壊れそうだ。というか決まってるならなぜ聞いたんだ? 訳が分からん。
渋々異世界行きを決意したところで俺はイリスに聞いた。
「おい、異世界転生ってからにはちゃんとチート能力とかあるんだろうな?」
「ないわよ。なにいってんの?」
「え?」
チ、チートがないだと? なら俺くそ雑魚じゃん。普通にスライムとかにボコされそうなんだが。
「あ、安心して最低限のお金とある程度の身体能力は付与するから!」
全然フォローになってないし。しかもある程度ってことはそこそこのとこまでしか行けないってことじゃねえか。
「それ全然強くなれないんじゃないの?」
「ある程度といっても、身体能力や魔力の保有量とかは運ね。まあ、考えても無駄だしあきらめなさいよ。」
そう言って俺の肩をビシバシたたいてきた。地味に痛い。
「……ならとりあえず今から行く異世界とやらの説明をしてくれないか? さすがに何の前情報もなしだととてもつらいんだが」
「わかったわ。まかせておきなさい」
イリスは薄っぺらい胸を張って自信満々にそう言った。
小一時間ほどたっただろうか。
異世界についての説明を聞いていると、突如イリスが
「さぁ、そろそろ時間ね」
「時間?」
「説明してなかったわね。あなたを異世界に召喚させる理由はいろいろあるんだけど……これはまぁいいわ。あなたが死んだときちょうど異世界の女神がほかの世界の住人を募集しててね、ちょうどいいからあんたを送り込もうと思ったワケ。 でもうすぐその世界の女神による転送が始まるの。だから私とはここでお別れね。」
「なら、ほかの世界からも今から行く世界に召喚される人がいたりするのか?」
「そういうことね。けど結構定期的にいろんな世界が募集かけてるからそこまでたいしたことはないわよ?」
なるほど。なら旅先で会う可能性もあるな。変に疑いをかけられないように気をつけて生きていこう。
しばらくして、突然俺の体が青く輝き始めた。
「うお、なんだこれ」
「召喚が始まったみたいね」
そう言ってイリスは改めてこちらに向き直って飛び切りの笑顔でこう告げた。
「それでは、もう会うこともないと思いますが……今後の異世界生活頑張ってくださいね。陰ながら応援していますよ。」
もともとの美貌とその笑顔が相まって、俺は少しドキッとした。なんだ、案外いいところもあるじゃないか。
そして俺の体はまばゆい光に包まれて――その場から跡形もなく消えた。