1-4.**
波音が途切れることなく聞えてくる。
玖国の中央区から遠く離れ、ついには何も無い漁村にまで辿りついてしまった。
何も無い、というのは語弊があるかもしれない。いまや街のほうが必要なものが何も無い。
「さて……」
俺は横になっていたベンチから頭を上げる。
真上にある太陽が、もうすぐ昼だと教えてくれる。
俺は立ち上がりながら財布の中を覗いた。
とにかく残った金で服を買おう、この服装は目立ちすぎるな――。
残った残金は数千円、これでなんとかしなくてはならない。
なんとかって――。
正直いって何をすればいいのかわからない。
歩き始めたのはいいが、途方に暮れ、腹が減っては残った金を食いつぶしてしまう。
途中大型のスーパーによって、適当な上着を手に取った。
これでそう目立つことも無いだろう――。
しかし衣食住、必要なものを買える金は残っていない。
国の保護も受けることは出来ない。
あの白髪の店員の言うことが正しいのであれば、国に関わった時点で最悪な結果になってしまう。
「糞が」
俺は何気なく足元にあった空き缶を蹴り上げた。
蹴った空き缶は宙を舞い、勢いよく道の上を転がり始める……が、すぐに止まってしまった。
「なんとかして金を稼がないと……」
身分証明すら出来ない職探しが始まってしまった――。
やべぇ――。
あれから何日経っただろうか。俺は最初にこの町で寝たベンチに座り込んで頭を抱えていた。
当然だがこんな怪しい身分の俺をどこも雇ってはくれなかった。
迷惑なことは誰もが嫌がり、その噂は瞬くまに広がってしまった。
狭い町だ、噂話なんてすぐに広がってしまう。俺は海岸線の町を転々とせざる終えなくなった。
冷たい海風が服の隙間から入り込んでくる。
右を向けば光を反射して煌びやかに光る海。左を見れば青々と木が生い茂る山。
足元は永遠に続いてそうなコンクリートの車道。
腹を満たすものなんてどこにもない。
生まれたときから都会暮らしだった俺にサバイバル知識なんてあるはずがない。
とにかく次の町を目指して歩き続けるしかなかった。
「はぁ……ついにやってしまった」
町と町の間にあったとある釣具屋。
店内には置物のように老人が座っているだけの釣具屋で、ついに俺は盗みをしてしまった。
「しかし、なんて釣竿なんだ……」
俺が手に持っていたのは一本の釣竿だった。
これで魚でも釣って食おうというのか、なんで釣竿を盗んだのか自分でもよくわからない。
「腹減った……」
腹が大きな音を鳴らした。
俺はひとまず横にある海岸へと足を運んだ。
しかし手に持った釣竿には針はついておらず、魚を引き寄せるための餌すら無い。
俺は海岸で仰向けに寝転んだ。
もう釣りをする気さえ起こらない、このままじゃ飢え死にしてしまいそうだ。
それならいっその事、あの黒い奴を殺しておくべきだった。
「眠い……」
腹が減りすぎて胃が痛い。しかしそれと同等の眠気が俺を襲った。
復讐をするために逃げたはずなのに、今はそんな気すら起こらない。
腹が減っては戦は出来ぬ、とはよく言ったものだ。
徐々に瞼が下りてくる。照りつける太陽の光がとても眩しい。
「つんつん」
薄れゆく意識の中で、誰かの声が耳に入ってきた。
眩しかった太陽の光が、少し薄れたような気もした。俺は片目だけを微かに開いた。
「……」
女だ、長い金髪の女が俺の顔を覗き込んでいる。
綺麗な金色の髪、深い青色と黄色の目、化粧っ気を感じさせない幼い顔で俺を見ている。
そんなに珍しいか……行き倒れみたいなもんか――。
俺の意識はどんどん暗くなっていき、そこで途絶えた――。