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星の傷痕  作者: 大航
第一章 **
15/27

4-1.月の光を辿って

 ――朝、目が覚めると俺はまだ医務室のベッドの上だった。


 そのまま寝ちまったのか――。


 昨日の夜のことを思い出す。ふと目を向けると、美雪が座っていた丸椅子が目に入った。


 夢じゃなかったか――。


 美雪の体温を思い出してしまう。俺は軽く首を左右に振って、両手を大きく上げて伸びをした。

 思い出すのはそこじゃない、美雪の言った言葉と目だ。

美雪の言葉が真実ならば、この施設は人工的に強い兵士を作り出す、人体実験の場なのだろう。


「でもなぁ……」


 だからと言ってどうすればいいのか。

こんなことを仲間に言っても誰も信じてくれないだろうし、一人で逃げても俺には行く宛てがない。


 俺は頭を抱えながらベッドに体を預けた。少しだけ開いた窓からは威勢のいい掛け声が聞こえてくる。

どこか近くで訓練でもしているのだろう。不意に暇を持て余していた俺は、目を閉じて声に耳を傾けた。


 ガラ、と扉が開く音がした。俺は目を見開いて体を起こす。扉の前には白衣を着た男が立っていた。


「気が付いたか、体は?」

「あ、はい。特に異常はないです」

「ならいいだろう、自分の部屋に帰るといい。着替えはロッカーの中にある」


 白衣の男はそういって部屋から出て行った。

気のせいだろうか、いつものぶっきら棒な言い方と違い、なにやら機嫌がよさそうだ。


 俺はロッカーの中にあるいつものつなぎに袖を通した。

 医務室の扉を開けて廊下にでた。医務室は俺たちが住んでいる居住区とは別の棟にあるようだ。


 階下には夜に美雪と話す庭園が見える。その庭園を見るだけで何故か胸が高鳴り、体が熱くなった。


「また、会いたいな」


 俺はそう呟いて居住区へと足を進めた。こんなに夜を待ちわびたのは始めてだった――。


――


「ただいま」


 俺はそういって部屋の扉を開けた。すると驚いて俺の顔を見上げる五人の姿がそこにあった。


「ナナ! お前生きてたのか!」

「おおシロウ、久しぶり」


 シロウをはじめとして、他の皆も一斉に立ち上がった。その中には俺が救助した仲間も居た。


「よく生きてたな、素人のくせに」

「ま、まぁなんとか」


 俺は頭をぐしゃぐしゃとされながら手厚い歓迎を受けた。

こんなこと今までなかったことだった。

あの戦闘が俺の評価を上げたのか、なんにせよ仲間に認められたような気がして嬉しかった。


 しかし、アルフレートの姿は見当たらなかった。


「あれ?」


 俺は声をあげてシロウに目くばせした。


「ああ、アルフレートのやつは……なんかわからないけど抜けたらしい」

「抜けた?」

「俺も聞いただけで詳しくはわかんね。もう二人抜けていまはナナを入れて五人だ」

「そうか、なんか寂しいな」


 俺は表情を崩さずに少し和んだ顔でそう答えた。


 抜けた――?


 まさか、考えすぎだ。厄介払い、シロウがそういっていた事を思い出す。そうに違いない。

 それに厄介払いなら俺たち全員解雇されてもおかしくない。だからシロウも困惑しているのだろう。


 でも、今の俺にだけはひとつ気に掛ることがあった。

しかし此処で声を大にしていっても誰も気が付いてはくれないだろう。それに俺でさえ半信半疑なんだ。


 俺は鼻で大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。


「今日は休み?」

「そうだよ、俺たちはあと三日は休みだって」

「三日も?」

「でもやることなくて暇すぎるじゃん?」


 シロウはそういいながらゆっくりと畳に横になった。

シロウが横になると他の皆も思い思いにくつろぎ始める。

しかしどいつもこいつも俺を含めて包帯だらけだ、俺もシロウの隣に腰を下ろした。


「確かに、やることが無い日ってのも苦痛かもな」

「だろ~、暇すぎて死んじまうよ」


 シロウは不満そうだ。だが、シロウの体を見ても休んだ方がいいのは一目瞭然だった。


「そんなミイラみたいに巻かれてるのに元気そうだな」

「まぁ弾も抜けてたしな、すぐ治るさ」


 慣れっこだよ、と言わんばかりにシロウは軽口を叩いた。俺も目を閉じながら相槌を返す。


 窓の外からはふわりと柔らかい風が紛れ込んでいた――。

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