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VAMPIRE KILLING  作者: 冷麺
第Ⅱ章『極東参血鬼討滅篇』
27/27

22:【The Mutation [fist of the end]】-③

 ようやく脳震盪から復帰した明は鎖を足代わりにして突っ込んだビルから地面に降りる。そこをアメルの触手が襲ってきた。「ひっ」と情けない声を漏らしながら、彼は鎖を彼女の触手に絡みつけて攻撃を防ぐ。彼女は次に頭の右半分を変形させて鋭い矛先のついた触手に変形させると、それを明の顔目掛けて早く伸ばした。


「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!」


 やばい死ぬ……やはりハードディスクの中身を消しておくべきだった……。そんな思いが脳裏に浮かぶ中、アメルの触手を炎次の手甲が弾いた。「隊長ぉ……」と、これもまた情けない声で明は言った。


「待たせたな、明。やっとこさ何とかなりそうだ。種子島のお陰でな」

「本当ですか! やったあ、良かったあ……死なずに済むんだ……」


 ほっとしたのもつかの間、アメルの触手がまた襲い掛かる。花恋、炎次は各々その攻撃を防ぎ、明の鎖で絡めとる。


「ますますバケモノだな、あいつは……腕だけじゃなくて頭すら変形させてくるとは……」


 腕を何本もの触手に変え、頭の一部分すら変形させている彼女の姿はまさに怪物そのものだった。アゲハの様な飛行可能な吸血鬼も居たが、アメルに関してはまるでSF映画に出てくる液体人間の様相だ。真祖たるゆえ、その様な事になっているのかもしれないが……。


「とりあえず、ぼくはあいつの触手の動きを止めてればいいんですよね? ね? あとは隊長と種子島隊長がなんとかしてくれますよね?」

「ええ。明君は兎に角、あいつの触手攻撃を止めていて頂戴。隙さえ作ってもらえば、後はあの新しい毒を打ち込めば、再生形態にまで追い詰めることが出来るはずよ」


 花恋がそう言うと、明は再び鎖を伸ばし、触手を絡めとろうとしていく。一本、また一本、更にまた一本とアメルの触手の動きを止めていく。花恋はアメルの攻撃が明によって防がれていくのを見ると、アメル本体の方へ駆けていく。炎次も彼女に着いていく。


「早く早く! もう終わらせて下さ――……えッ……?」


 明が急かす様にそう言った時、自身の身体に違和感を感じた。何かが――何かがオカシイ。刹那、彼は気付く。ついているはずの左腕が、取れていた。いや……斬られていた。そう、他ならぬアメルの触手によって。


「ああああッ――――!」


 明は突如訪れる激痛に声を張り上げる。同時に、傷口から血が溢れ出す。それでも彼は、必死の思いで残りの触手を鎖で巻き付けていた。

 一体、何処から……視界には既に全ての触手が映っている。その時、明は気付いた。自身の背後、地面から突き出ていた触手を――。アメルは自分の背中から新たに触手を伸ばし、地面を通って明の背後から再び地面の上へ。そして彼の腕を切り裂いたのだ。触手攻撃の殆どが彼によって防がれてた。では、どうするか。答えは単純、まず明を落とす事によって攻撃を通しやすくなる――。そう判断したアメルのトリックプレイだ。

 

「明君!」

「明!」


 一瞬で状況を判断した二人。まず花恋が花びらの刃を飛ばし、彼の背後にある触手を斬り飛ばした。更に、炎次が拳から炎を発現させるとその炎をあえて明の傷口に向ける。


「明、我慢してくれ!」


 その炎は明の傷口を焼いた。更なる痛みが彼を襲う。が、傷口を焼くことによって血の流出をそれで防ぐ。が、その際少し気が緩んだのか彼の鎖は一瞬縛る力が弱くなった。それに気付いたアメルは一気に鎖を引きはがし、彼に向けて全ての触手を向けた。更に彼女は目より上を変形させ炎次と花恋に向ける。彼らはそれを素早く処理する。

 だが、傷を負っている明はそれすらままならない。いくつかの触手は彼の下腹部を貫く。痛みに叫ぶ声が地下都市に響いた。彼を救出しようとする炎次。その時、明は声を振り絞る。


「今でずゔ!」


 顔を涙でぐちゃぐちゃに歪ませた明はそう告げる。今しかない。アメルに、攻撃を喰らわせる隙は今しかないと彼は伝える。死にたくない。死にたくないのは当然だがそれ以上に、こんな自分の面倒を見てくれる炎次や花恋を喪うのはもっと怖い。だからせめてあの人たちだけでも……。

 彼の意図を汲み取った花恋と炎次は、なんとか彼の叫ぶ声を振り切ってアメルに目を向ける。


「炎次、少し下がってて!」


 花恋は彼にそう言って、刀を地面に突き刺した。その瞬間、さっきとは異なり、毒々しい黄色の茎が何十本も生え、真っ赤で白い斑点……まるでラフレシアの様な花の蕾が生まれる。


「――『百花霊乱(ひゃっかりょうらん)/酸惨死死(オーバーアシッド)』」


 花恋がそう告げると、その蕾は全て破裂し、不気味なまでに黄色い液体が大量にアメルに降りかかる。彼女はそれを触手で防ぐが、瞬時に触手をジューッと音を立てて溶かし尽くした。そして残りの液体がアメルの本体に掛かった。


「あ――ああああ――ぎあああああ――――!」


 その液体は彼女の顔面、そして体を焼き尽くすかの如く溶かしていこうとする。

 硫酸によって、花恋の血能に変化を起こした。

 『百花霊乱/酸惨死死』。

 硫酸の強い酸性がさらに強化され、肉体すらもいとも容易く溶かすまでに強化された毒を放つ血能。通常使用される毒は内部から細胞を破壊するものだったが、これは外部から破壊する毒へと変わっている。大量の毒により、吸血鬼の急速再生ですら追い付かないほどのダメージが与えられるのだ。

 ただ、唯一デメリットがあるとすれば……。


「がはッ……」

「種子島!」


 花恋は口から血を吐いた。あまりにも強すぎるその酸性の毒は、気化しても尚その特性を残す。気化した際に弱まるとはいえ、至近距離でそれを吸えば喉を爛れさせてしまう事もあるのだ。


「いま……よ、炎次……!」


 彼女が血を吐きながら言った。炎次はアメルの方を見る。外部から大量のダメージを受けた彼女はすぐさま肉体を変化させ、肉塊へと変貌しなんとかその毒に対応しようとしていた。だが、肉体を変化させる際に毒もまた取り込んでしまった為、その行為は難航していた。

 これが最後のチャンスだ。

 明、そして花恋が自分の身を犠牲にしてまで作ったチャンスを無駄には出来ない。

 彼は手甲を構える。そしてうぞうぞと蠢く肉塊をその先に捕らえる。


「『赤朱空拳(せきしゅくうけん)』」


 光速の速さで、彼はアメルの肉塊を手甲で殴りつけた。一見、彼の手甲はそれにぴとりとくっついたように見える。すると、大量の空気が渦を巻いて手甲に集まり、更に赤き炎がその渦に燃え上がる。まるで矢のようにその炎が彼女を貫いた。そして最後に、内部からその炎が爆裂した。バラバラになったアメルの肉片がそこら中に散らばっていく。

 『赤朱空拳』。

 炎次が扱う血能は、光速の速さで拳を一度だけ繰り出す。その際生まれた真空によって空気を流動させ、更に空気と拳の摩擦から生まれた炎が瞬時でその拳の軌道を燃え上がらせ、最終的には空気真空炎が混ざり合い大爆発を起こす――。命中させることが出来れば多大なる破壊力があるが、外せば次に使うまでの時間が長くかかる賭けの要素がある力だ。


「あ――し――に――……」


 彼の血能によって爆裂していったアメル。彼女が薄れゆく意識の中、最期に見たものとは……。


「ああ――ムッティ――ファーティ――わたしは――」


 幼き頃に失った両親の追憶。

 あやふやな姿でしか覚えてない両親の幻影を、消えていく意識の中、彼らの方へ手を伸ばす。でも、伸ばしても伸ばしてもその手は届かない。次第にその幻影は闇に包まれていく。漆黒の闇が、何もかもを染めていく。

 ああ、そうか。

 『Ich falle zur Hölle――』

 アメルは、自分が真っ暗闇に落ちていく姿を幻視して、息絶えた……。



  VAMPIRE KILLING 22

  The Mutation 3 [fist of the end]



「終わった……のね……」


 花恋は気化した毒によってガラガラになった声で辺りを見回す。砕け散ったアメルの肉片はピクリとも動かず、中には炎によって焼かれていくものあった。明はそれを見て「ああ」と頷くと、彼女から離れ、遠くでビルの壁際に座り込む明の元へと走って行く。


「おい、明……やったぞ、お前のお陰だ……お前が……」

「へ……へへ……やりました……ね……たいちょ……真祖に……勝てた……んですね、ぼく……たち……」


 そう言って彼は途切れ途切れに言葉を紡ぐ。貫かれた腹から中の臓器が少し零れ、血も溢れてその場に広がっている。このままでは確実に持たない。すぐにでも医療班の面々を。彼はトランシーバーで医療班の隊員たちに話し掛ける。だが、全く応答しない。


「おい! 何してんだ! 誰かいねえのか⁉ 早くしろ、早くしねえと……!」


 そう言って彼は明を見る。彼はみるみる弱って行くのが分かる。顔も完全に青白くなっているのが目に見えて分かる。早く、早く応急処置を……。


「隊長……ぼく……もう、ダメ……眠い…………とっても眠い……」

「寝るな! 死んでも瞼を閉じるんじゃねえ! なんでもいい喋れ、喋りつづけろ! 意識を保つんだ!」

「あんまり……無茶いわないで……くださ……いよ……」


 そう言って明は必死に言葉を紡ぐ。炎次は何度も医療班に言葉を投げるが返答は一切ない。花恋もふらふらと此方へやって来る。その際、彼女は異変に気付いた。


「炎次! 危ない!」

「なッ――!?」


 突如、別のビルの上から誰かがまるで隕石の如くその場へ着陸する。砂埃が舞い上がり、視界が遮られる。ゲホゲホと咳き込みながら手甲を構えながら降りてきた誰かを確認しようとする。


「誰だ、お前……」


 砂埃が晴れて、遂にその何者かの姿が露わになる。

 茶色いローブを羽織り、深くフードを被っていた。そして顔にはキツネのお面を被り、顔が見られない様に施されてた。その人物は片手で誰かの死体を引きづっていた。その死体は、彼らに見覚えのある人物たちだった。


「多実!」

「それにその服装……乃田、河島か……!」


 そう、アメルとの戦闘で死亡した三人の遺体の襟元を掴んでいた。そして残された手で明の襟元を掴む。


「オイ、明に何する気だ――!」


 声を張り上げて炎次はそのローブの人物に手甲で殴りかかろうとする。しかし、彼の拳が届く前にその人物は直ぐにその場から飛び立ち、ビルの屋上にまで一瞬で移動した。そして少しの間、蒼い瞳で彼らの事を見下ろすと、その場から移動し、やがて消え去って行った。


「待てよ……どこに行くつもりだぁ……!」


 炎次がローブの人物を追いかけようとするが、先ほど放った血能の影響か、広がった脇腹の傷が疼き、その場に膝を着く。わき腹からは滲みでた血が服を赤く染めていく。


「無理したら駄目よ、悔しいけど……あの速さに私達の傷じゃあ追い付けないわ……」


 膝を着く彼を花恋が支える。

 炎次は「クソッ」と声を震わせながら地面を殴った。

 あれは――あれは誰だ、新手の真祖か……? なんで死体と明を持ち去った……? 自分がちゃんとしていれば、多実も明も失う事は無かったのに……。アメルへの勝利の代償は、大きすぎるものだった。

 その時、彼らのトランシーバーに通信が入る。


「……こちら岩破炎次」

「種子島です」


 二人はその通信に応答する。

 トランシーバーから、月鬼隊のオペレーターからの情報が彼らの耳へと流れ込んでいく。


「……な……に……⁉」


 その伝えられた情報を聞いたのち、二人は驚愕の表情で互いの顔を見た。






 一方、『真祖十三血鬼』達の拠点が存在する孤島。

 わずかな明かりで照らされる真っ白な円卓。並べられた大理石の椅子、そのⅫ番目の椅子。そこには蒼く輝くⅫの文字が刻まれているが、何度か点滅すると完全にその灯りは消えた。

 それに気付くのはⅠ番目、カルティシア。


「――アメルが逝ったか」


 彼は何の感情も表面上に出すことなく、そう呟いた。

 椅子に刻まれた各々の番号。それは常に蒼く輝いているが、もしその番号を与えられたものが死亡すれば、その輝きは完全に消えてしまう仕様になっている。

 アメルの番号が消えたと同時に、Ⅳ番目の椅子が空間と共に一瞬歪むと、その場に蒼い粒子が溢れやがてそれはヒト型となり、吸血鬼の姿を生成した。


「……アメルが死んだ……か」


 現れたのはⅣ番目の真祖吸血鬼・アルドフ=フォン=アシェル。彼もまた淡々と述べた。

 アルドフの方へ視線を向けて、カルティシアが語り掛ける。


「彼女――アメルを勧誘したのは君だったな。どうだ、今の気分は……。アメルに血を与えたのは君だろう?」

「どうもこうも何も……彼女の実力はその程度であった。ただそれだけでしょう。彼女の『臨機謳変(ベアフォーマン)』は目を見張るものだったが、所詮はⅫ番目の力。次のⅫ番目を早急に補充しなければいけない」

「その通りだが――。気のせいだろうか? 私の目には、君が普段とは違い別の感情を持っているかのように見える。怒り、悲しみ、憎しみ……まるで人間みたいだな、アルドフ」


 そう言って彼は冷たい微笑みを浮かべる。


「――冗談を。私はただの吸血鬼にして、真祖のⅣ番目を授かる者。同士を殺された位でその様な感情を持つことなど無い」


 アルドフは無表情のままそう告げて、再びその場から空間転移を行って何処かへと去って行った。それと入れ替えで、別の真祖が空間転移を行ってその場に現れる。白髪交じりの初老の男性の姿をした真祖。第Ⅲ位真祖吸血鬼、グヴィラス=イッサカル。


「アメルは死んだ。――が、彼女は最低限の事はやってのけた様子。副隊長二人、首席隊員二人、後は――特に言及する様な物でもない通常の隊員二人。『彼女』がしっかりと回収してくれた模様」

「そうか。欲を言えば隊長を一人でも回収できれば良かったが……まあ、それはフレアと剣沢に任せるとしよう。素体は既にラボへ?」

「はい。一時的に冷凍処理しております。後は『彼』に任せるのみです」

「分かった。報告感謝する」


 カルティシアがそう言うと、グヴィラスは一礼して空間転移によりその場から消え去った。


「時は近い――」


 彼の低い声が、その場に響いた。


【月鬼隊隊員詳細情報③】

◆氏名:岩破炎次(いわばえんじ)

◆年齢:27歳

◆性別:男

◆誕生日:9月22日

◆身長・体重:188センチ/77キロ

◆血液型:B型

◆所属:【血鬼祓国際機関】日本・東京支部第4部隊隊長

◆特技・趣味:特になし・カラオケ

◆使用『刃機』:『轟鬼』(月鬼隊開発部特注)

◆【血能】:『赤朱空拳(せきしゅくうけん)』―光速の速さで拳を繰り出し、その際真空を発生させ空気を流動、空気と拳の摩擦から炎を生み出し相手の肉体を穿つ

◆備考:東京都出身のアツい男。もともと高校で空手を学んでいた為、刃機も刀より手甲が良いとゴネた結『轟鬼』を開発してもらった。年下年上問わず苗字を呼び捨てにする(流石に支部長・副支部長にはお壊れた)。見た目によらず歌唱力は非常に高いらしい。邦楽より洋楽派。


【吸血鬼詳細情報①】

◆氏名:アメル=グラス=アヴァレンス/Amer=Glass=Avalens

◆年齢:約90歳

◆性別:女

◆誕生日:不明

◆身長・体重:149センチ/39キロ

◆胸囲:72センチ

◆血液型:不明

◆所属:『真祖吸血鬼』第Ⅻ位

◆【血能】:『臨機謳変(ベアフォーマン)』―自身の肉体を自在に変形させることが出来る。膨大なダメージや毒攻撃を受けても一度肉塊になり肉体を再構成する事で復活できる。

◆備考:後天的に真祖になった吸血鬼。血を分け与えたのは第Ⅳ位アルドフ=フォン=アシェル。

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