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VAMPIRE KILLING  作者: 冷麺
第Ⅱ章『極東参血鬼討滅篇』
24/27

19:【呪いの血筋】

 月鬼隊(げっきたい)本部ビル――。

 その地下。多くの隊員には、地下には主に研究班の研究室や刃機の整備ルーム等のそう言った主に裏方作業を行う場所として認知されている。が、隊長格にすら知らされていない、秘密の部屋がさらにその下に存在している。地下フロア十階。よりも下――地下二十階。そこに至るには、操作盤をある数列を組み合わせる事で行くことが可能なのだ。

 そして、その数列……所謂パスワードを与えられているのは、月鬼隊でも僅かな人数。

 血業和広(ちぎょうかずひろ)血業(ちぎょう)牙哉(きばや)真理(まり)血業(ちぎょう)十架(じゅうか)(ほむら)――そう、血業家の血を受け継ぐもの――彼らしかそれを知らない。

 

 組織、【天秤】――。

 血業、そして牙哉・十架・銀欧(ぎんおう)蘇乃田(そのだ)……そういった、血業本家、そして血業分家の者でのみ構成された、月鬼隊の裏組織。彼らが何を企み、何を望むのか――。真の目的は、依然として不明である。

 通称、『聖堂』……本部ビル地下二十階に存在する、【天秤】の者たちが訪れる地下聖堂。舞と忍が出会う数時間前、隊長格会議終了から約数分後――彼らはそこに訪れる。


「暫く姿を見なかったが……一体どこに居たんだ、父上殿」


 天秤のマークが書かれた床の中央、髭を長く伸ばし、古びた袴を纏い、そこに佇む老人に、和広は喋りかける。彼は血業和仁(ちぎょうかずひと)……先代の月鬼隊の長だ。彼は和広の声を聞くと、ゆっくりと振り返る。そして、皺だらけの顔をさらに皺だらけにして微笑む。


「少しばかり結亜(ゆいあ)に会いに京都まで。久しく外に出ていなかったからのう」

「老体にはきついだろ、観光客だらけで」


 和広は呆れた様な表情で言った。


「で、話はなんだ。観光の感想を聞かせるために私達を呼んだわけじゃないだろう?」

「……まったく、せっかちな息子だ。まあよい。これは京都に訪れた際……とある情報筋から聞いた話じゃ。奴ら――『真祖十三血鬼(しんそじゅうさんけっき)』共の、とある計画……その目的について。なんと――奴らは、羅刹(らせつ)を復活させようとしているみたいじゃ」

「羅刹を?」


 真理がその名を聞いて驚きを隠せない。


「……羅刹ってなんでしたっけ」と、焔が訊ねる。

荒神羅刹(あらがみらせつ)、またの名をラセツ=エフライム。この月鬼隊が政府によって正式に認可され設立される以前、まだ鬼狩りの血業家として存在していた江戸の世から存在している真祖の長だ。我々、血業が血鬼祓達を集める様になったきっかけの吸血鬼。長年にわたる因縁の相手ともいえる」


 和広は焔に荒神羅刹についての情報を語る。

 以前御影が語った様に、月鬼隊が正式に設立されたのは一九〇〇年、【血鬼祓国際機関】の傘下に入ったのは一九四五年、ドイツで初めて吸血鬼の存在が確認されたのは一八八四年。その約百年前、徳川が支配していた江戸の世で、血業家の祖先にあたる者達は既に吸血鬼の存在に気付き、幕府の名によって人知れず鬼狩りを行っていた。

 当時まだ、吸血鬼に対する有効な手段がない中で、血業が鬼狩りの一族として選ばれたのは、彼らが"ヒトならざる力を持っていたから"である。

 そして、幕府が鬼狩りを命じた理由。それが荒神羅刹。またの名をラセツ=エフライム彼女の暴虐を見過ごせなくなっていたからだ。


「彼女が日本に姿を現わす以前……吸血鬼は日本に全くと言って良い程存在していなかった。それは、この国が極東に位置し、同時に外部を海に囲まれた島だったからだ。だが、彼女が江戸の日本に現れ、吸血鬼は数を一気に増やした。理由は――」

「羅刹が血を分けた?」と、答えを言う焔。

「そうじゃ。羅刹は血を分け与える事で己の同士を増殖させた。故に、江戸の世には吸血鬼共が巣食う様になり、我々血業が鬼狩りへ指名されたのじゃ。そして時は流れ、一九四六年。アメリカ支部・ドイツ支部の支援もあり、我々は羅刹の封印を遂げた」


 和広の次に語るのは和仁。蓄えた髭を触りつつ、過去を思い返す。


「封印……? 一体何処に?」


 焔が訊ねる。それを聞くと、和仁はフッと笑った。そして、彼は杖の先を、焔の足元に向けて、何度かそこを示すように杖を揺らす。


「えっ……まさか――」

「そのまさかだ。羅刹(ヤツ)は――私達のこの足元、地下深くで悠久の時を眠っている」

 

 『真祖十三血鬼』、その長――荒神羅刹は眠る。地下深く、冷たい棺の中で。そして封印が解けぬ様、この月鬼隊本部ビルは楔の如く、彼女の上に建てられたのだ……。




  呪いの血筋

  VAMPIRE KILLING 19




 『極東参血鬼』討滅戦、当日――。

 本部から少し離れたビルの屋上に設置されたヘリポートに、第一・第五・第九部隊を除いた全ての部隊の隊長格たちと、隊員の中から選ばれた副隊長に次いで優秀なランクである首席隊員たちが集う。

 そして、当然この男――支部長・血業和広。彼も隊長達を見送る為、そこへ訪れていた。


「今回の作戦は、我々が真祖たちを殲滅するための大きな一歩となりうるだろう。今から八十年ほど前、先代の血鬼祓達が真祖の長を封じ込めて以来、常に真祖の残党を逃し続け、多くの同胞を喪った。だが、その屍を乗り越え、優秀な血鬼祓達が偶然にもこの世代に集った。君たちは人類の希望であり、次世代を率いていくべき者たちだ。諸君ならば、今回のこの作戦を完遂できると私は信じている。だから――必ず生きて戻ってきてくれ。……以上だ」

 

 和広の演説が終わると、各々隊長達は真剣な表情で、「了解」の意を示す様に頷く。そして、彼らは耳に他の隊長達と連絡が取れる様に超小型トランシーバーを装着してヘリに乗り込んだ。

 今回の作戦概要は以下の通り。

 三班に分かれ、各々真祖の拠点へと奇襲をかける。血鬼祓達が接近している事を気付かれない様に、C班担当であるシティ・アイランドへは東京湾でヘリを降り、そこからはボートで移動し上陸。帝山(みかどやま)市の地下都市跡へはこれもまた途中でヘリを降りて地下都市の現在は封鎖されている、地下下水道とつながっている別の入り口から徒歩へ侵入。王鬼(おうき)山の廃村へは、かなりの高度にまでヘリを上昇させ、そこから夜間で見えにくくするためのパラシュートを使い降下し、剣沢の元へ向かう。

 そして午後九時○○分、真祖たちへの攻撃を開始する。

 第五・第九部隊は祓間(はらいま)市近郊、若しくは本部ビル直々に何か有事が起きた際、または遠征している班に何かが起きた場合そこへ駆けつける為待機。

 国外へ遠征中の第一部隊はその任務が終了次第、月鬼隊本部のある東京に帰投し、待機する。

 『極東参血鬼』。剣沢宗司、フレア、フード(アメル)。この三体を討滅し、生還する事が今回の任務の最大の目的である。

 各々、三台のヘリがヘリポートを次々に離陸していった。

 ついに、討滅戦が始まる。

 人類の、血鬼祓の、月鬼隊の命運が懸かった戦いが――。


【サイド:A班】

「真祖相手とは中々興が乗るねえ」


 パキパキと指を鳴らしながら嬉々として言うのは、第四部隊隊長・岩破炎次(いわばえんじ)。それを聞いて、第三部隊の二人はあきれ顔で溜め息を吐く。


「よくそんな嬉しそうに言えますね、岩破隊長」

「ああ? 土山、相手は真祖だぞ? そこらの吸血鬼とはわけが違え、もっともっと強いやつらだ、そりゃあ気合が入るってもんだ」

「多実、この人に何を言っても無駄よ、頭まで筋肉で出来てるんだから」

「おっ、良いこと言ってくれるじゃねえか、俺は鍛えてるからな!」


 花恋(かれん)は炎次をバカにするつもりで言ったのだが、反面彼はとても満足気な表情をしていた。それを見て第三部隊の二人はさらに呆れ顔になり、第三・第四各部隊の首席隊員である乃田(のだ)河島(かわしま)の男女二人、そして三人の衛生班の隊員達も苦笑するしかなかった。


「隊長……なんでそんな嬉しそうなんですかあ……死にますよ、絶対死ぬ……真祖とか確実に死ぬ……ああ、遺書書いとかないと……ぼくのスマホのデータ、もし死んだら見られない内に消しといてもらわないと……」


 炎次の横でプルプルと震えながらネガティブな言葉を撒き散らすのは、第四部隊副隊長・鎖金(くさりがね)(あきら)。真黒な髪は目を隠すほど伸び、かけている眼鏡すら覆う程だ。


「おい明ァ! そう卑屈になるんじゃねえ、大丈夫だ、オレたちゃ死なねえ」

「隊長ぉ……」

「なんせオレ達は強いからな!」


 炎次は自信満々に言う。が、明はそれを聞いて涙声になる。


「そおいう問題じゃあないんでずうううぅぅぅ……」


 そう言うと彼はいよいよ泣き出しながら伏せてしまった。それを見て多実は多少引いた表情で言う。


「いやほんま……こういう事他の部隊に言うべきやないんやろうけど……よくそんなメンタルで副隊長やれとるなあ……」

「はっ、明はな、オレの見込んだ奴だ、こいつはやるときはやる漢だぜ?」


 にい、と笑いながら彼は明と肩を一方的に組む。


「それには同感です。鎖金君には一度助けられてますから。ですけど……」


 花恋は今も尚わんわんと泣き喚く明を見て言う。


「もうちょっと精神を鍛えるべきですね」

「……ああは言ったが、オレもそれには同感だ」と、炎次は少し苦笑いしながら言った。

「皆さん」


 すると、ヘリの副操縦士がこちらを向いて炎次達に告げる。


「まもなく、帝山市に到着します。市水道の入り口近くに着陸しますので、そこから先ほどまで封鎖されていた旧下水道へ侵入、一キロ程歩くと地下都市跡へ入る様になっています」

「あー……」


 副操縦士の報告を受けると、花恋はやらかした様な表情で言う。


「どないしたん、隊長?」

「――勝負靴と思ってお気に入りのスニーカー、履いてくるんじゃなかったわ……」


 数分後、ヘリは指定場所である市水道の隣へ着陸した。第三・第四部隊の六人、そして衛生班の三人がヘリを降り、雨が降っていなかったためかカラカラに枯れたままの水道に降りる。


「よし、じゃああの真祖に一発血鬼祓様の強さをかましてじゃろうじゃねえか」


 そう言って炎次は胸の前で自分の握りこぶしをパチンと合わせて言った。



【サイド:B班】

 かなり個性的にうるさいメンバーが集まったA班とは異なり、このB班は静かなものだった。夏崎彰吾と白銀善人は文庫本を読み、焔はスマホゲームに興じる。冬革忍はニコニコしながらヘリの外の街並みを眺めていた。


「なんだか上機嫌だね、忍君」


 ニコニコしている忍に対して、彰吾が話し掛ける。すると、きょとんとした表情に変わって、首を傾げて彰吾に答える。


「え? そんなに上機嫌に見えてる? 僕」

「だってずっとニヤニヤしてるよ、忍」


 ゲームがひと段落を終えたのか、焔も会話に参加する。


「ダメだなあ、すぐ表情に出す癖治さないとなあ」と、忍はむにむにと自分の頬を手で揉む。

「何かいいことでもあったのかい?」

「ん~……そうだなあ、特にないよ? いや、あるっちゃあるか……」

「でも忍のそういう所、良いと思うよ、私は。ほら、隣の彰吾さん見てみなよ。澄ました表情してる様に見えるけど、ああ見えてさっきから表情が強張ってる」

「なッ……!」


 図星を突かれたのか、彰吾は驚きの表情を見せた。


「だ、だって真祖だよ⁉ そりゃあ緊張するよ……逆に皆はすごいなあ、そんな落ち着いていられるなんて……」

「私達も緊張はしていますよ。ただ、表情に出ていないだけです」


 善人が文庫本を閉じて、優しく微笑みながら言った。そして、指定場所に近付きだした為、パラシュート装置を自分に備え付ける。


「私は別に緊張してないよ、善人?」と、それに反論するかのように焔は言った。

「ああ、そうだったんですか? いやあ、なんともまあ頼もしくなったことで……初めて討伐任務に出た時にはもう――」

「それ以上は口にしなくていいからね、善人」

「はい、黙っておきます」


 焔に言葉を遮られ彼はそのまま口を閉じた。

 他の隊員達もパラシュート装置を自分の身に装着する。ヘリは既にもう、王鬼山(おうきやま)の上空にまで到着していた。そして、ヘリの操縦士はその場でホバリングし、到着の旨を彼らに伝える。ヘリのドアが開かれ、すさまじい風がヘリの中に吹き込んでくる。


「じゃあ王鬼山へ降下――。地面に着いたらすぐに中腹の廃村前へ合流。とりあえずは……落下死しないように。以上」


 焔はそれだけを伝えると、真っ先に王鬼山へ向かって降下した。続いて善人、医療班の面々、首席隊員の面々、そして最後に第八部隊の二人が降下していく。


「ねえ隊長」と、降下の直前、忍が彰吾に言う。

「死なないでくださいよ」

 

 忍のその言葉を聞いて、彼はぎこちない笑顔で答える。


「――もちろんだよ」



【サイド:C班】

 廃棄されたかつての繁栄の象徴――『シティ・アイランド』に向かうのは、夜嶋と朝霧の第七部隊そして雨昊と星詠の第二部隊のC班。彼らは既に港に到着し、モーターボートに乗ってその島に向かっていた。

 宵闇の水面を、一隻のボートが切り裂く様に駆け抜ける。


「潮の匂いってのは偶に嗅ぐと新鮮でいいなあ」


 ボートの先頭でタバコを吸いながら呟くのは蒼馬。煙を吸い込んで大きく空に向かってそれを吐く。


「もー隊長、ここに来てまで吸わないでくださいよ~」と、秋奈はあきれ顔で彼に言う。蒼馬はタバコの火を消すと、持っていた携帯灰皿に吸い殻を入れて蓋を閉じる。

「戦う前に一本吸っとかねえとな。これが人生最後の一本になるかもしれねえんだから」

「…………」


 それを聞いて、第二部隊の首席隊員である十字交(じゅうじまじえ)は顔を引きつらせる。それを見た御影が彼女の肩を優しく叩く。


「あの人、タバコ吸うためにありとあらゆる言い訳をしてるだけだからあんまり真に受けては駄目よ」

「あ……は、はい……でも……怖いです……私が太刀打ちできるのか……」


 交はそう言って震える。

 いくら首席隊員とはいえ、今回相手にするのはランク五を超えるランクエクストラの真祖吸血鬼。怖気づいてしまうのも無理はない。


「出来るか出来ないとか、そういう問題じゃない。殺すしかないのよ。死にたくないなら、殺すしかない」


 交に対して舞は静かにそう告げる。

 この世界は常にそうだ。殺されるか、その前に殺すか――。血鬼祓と吸血鬼の戦いは、古来から今まで、そういう風に続いてきたのだ。常にどちらも奪い奪われ、殺し殺された。

 死にたくなければ――生きたいのなら、その前に相手の命を奪うしかない。


「は、はい……そうですよね……」と、交は静かに頷く。

「……舞の言う通りね。死にたくないなら、殺す。血鬼祓(わたしたち)のやれることはそれだけ」


 潮風が吹いて、彼女たちの髪を靡かせる。


「全員生きて帰れ、ねえ……」


 彼女たちの会話を見守りながら、蒼馬はボソリと呟く。そう言って彼は、ポケットの中から真っ赤な液体の様な物が入っていた注射器を取り出して眺める。


「――こいつを使う羽目にならないといいが……」



【サイド:月鬼隊本部指令室】

「支部長、各班時間通りに指定地点に到着。いつでも戦闘可能です」


 中央のデスクの前に立つ支部長・和広にそう告げるのは副支部長の真理。彼は渋い顔のままゆっくりと頷く。


「支部長、ご指示を」と、オペレーターたちは彼の方へ顔向けて言う。

「――真理」

「どうかしましたか?」と、彼女は首を傾げて訊ねる。

「私の的外れな予想で在って欲しいが……第零部隊(かれ)も今回の作戦に配備出来る様、準備をしておいてくれ。先ほどから――嫌な予感が止まらん」


 和広は真理以外の誰にも聞こえない位の音量で告げる。

 ――『第零部隊』、その名を……。


「……分かりました。では、その様に」


 真理は静かに頭を下げると、その場から離れていった。そして和広は大きく息を吸い込んで声を上げる。


「現在を持って、『極東参血鬼』討滅作戦を結構する! 各班、対象に攻撃を仕掛けろ! 血鬼祓としての矜持を持って、真祖共を狩るのだ‼」


 二〇二四年十月二十二日 午後九時〇〇分――『極東参血鬼』討滅作戦、決行……!


今回も読んでいただきたありがとうございました。

面白いと思ってくれた方、ブクマ&感想お待ちしております!

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