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VAMPIRE KILLING  作者: 冷麺
第Ⅱ章『極東参血鬼討滅篇』
23/27

18:【Reader's Assembly】

 月鬼隊には第一部隊から第九部隊までが存在しており、第一部隊は『遠征班』、第二部隊から第四部隊が『哨戒班』、第五部隊から第八部隊が『防衛班』、第九部隊が『研究・医療班』と区分分けされている。そして各々の部隊には隊長・副隊長が各一名おり、彼らが部隊の隊員を率いている。

 計十八名――。それが、現在の月鬼隊に所属する隊長・副隊長の総数だ。そして、彼らと支部長・副支部長を交えて不定期に行われるのが隊長格会議だ。

 この場で、隊員の副隊長・隊長昇格についての議論や、今後の吸血鬼への対策などを全員で交えて会議を行う。

 それが、『隊長格会議』である。



 VAMPIRE KILLING 18

 Reader's Assembly



「欠席は第一部隊と……今も任務中の冬革君だけか」


 血業は一番手前の席が二つ空いているのを確認して言った。

 第一部隊――。『遠征班』と称される、月鬼隊随一の戦力を持つ部隊だ。彼女たちは常に月鬼隊の他の支部の手が届かない地域へと向かい、吸血鬼を討伐している。故に、今回のこの会議にも不参加であった。


「今あの人達、どっか海外に居るんでしょ? 千草(ちぐさ)さんと会えないのはいつもの事だけど……真祖の奴らを倒すのなら、あの人達が居る時の方が良いんじゃない?」


 彼にそう言ったのは、淡い水色の肩にまで伸ばしそれを後ろに結んで、前髪を左に流している、第六部隊隊長・雪前焔(ゆきさきほむら)


「あー? あんな奴ら居なくたってオレ達だけで十分だろうが。なんせここ数年――隊長格に死人は出ていない。オレや蒼馬(そうま)がまだ入った時分には……そりゃあもう見るたびに隊長格の奴らが変わっていたからなあ」


 焔に続いて喋るのは筋骨隆々で、両耳にはいくつものピアスを開け、金髪をワックスでかき上げている男、第四部隊隊長・岩破炎次(いわばえんじ)。彼の言う通り、ここ数年隊長達の入れ替わりは、少なくとも死亡によって入れ替わる事は無かった。


「――話を続けても良いかな、君たち」


 血業が眉一つ動かさず言うと、「すみません」と二人は言って黙る。


「第八部隊の副隊長・冬革忍(ふゆかわしのび)君や、彼が率いた隊員達の功績……中には命を失った者も居た、その彼らの働きによって、我々月鬼隊がかつてより敵対していた『真祖十三血鬼(しんそじゅうさんけっき)』の内、三体の拠点を特定した。それがこれになる」


 彼がそう言うと、副支部長の真理(まり)がノートパソコンのエンターキーを一度押した。すると、液晶に映る東京都のマップに赤い丸が三つ表示される。それぞれ、青で表示される月鬼隊本部ビルからは離れた場所に表示されていた。


「まず一つ目――。東京都・山梨県・埼玉県の三つの県境に位置する、帝山(みかどやま)市――その地下だ。今から約八十年前、当時の軍政府が先の大戦で、首都の壊滅の可能性を考慮し地下都市を開発していたその名残を拠点としている真祖が居る。一人の隊員が映像にその姿を捉えていた」


 小さなウィンドウが開き、隙間から撮った様な映像が流れ、真黒なフードをすっぽりと被った、まだ幼い顔をした少女が映り、そこで映像は停止する。


「真祖の一人、名称は不明なので仮としてフードとします。十五年前、兵庫県沖合の威鬼島(いきじま)と呼ばれる島の住人を全員惨殺、討伐に向かった京都支部の血鬼祓の殆どを殺害した吸血鬼です」

「流石吸血鬼、十年やそこらで年取らないのは羨ましいねえ」


 真理が、そこに表示される真祖吸血鬼――彼らはまだ知らないが、アメルと呼称される彼女についての情報を言うと、蒼馬が呟いた。吸血鬼は人間の倍以上を生きるとされている。中には、何十年経っても見た目が全く変わらない吸血鬼も居るらしい。


「続いて、東京湾沖合……九十年代、まだバブル全盛期に首都機能移転を前提として開発されていた人工島である『シティ・アイランド』。バブル崩壊によって完成目前で放棄され、今では無人島となっている。これまで、そこに訪れる吸血鬼は存在していなかったが……ここ最近、一体の吸血鬼が確認される様になった。それが、彼だ」


 アメルの姿を撮った映像を流すウィンドウが消えると、続いて、その『シティ・アイランド』を拠点とする真祖の姿が映し出される。


「真祖・フレア。皆さんの記憶にも新しいですが今から五年前――パリ大火災を引き起こしたとされる炎を操る吸血鬼です。島でスニーク(隠密行動)を行っていた隊員からの容姿等の報告からすり合わせると、彼で間違いないと」

「そして最後――。東京都と神奈川県の県境の山、王鬼山(おうきやま)の中腹に位置する廃村、そこに以前『ユグドラシル』として猛威を振るい、近年では血鬼祓への辻斬りを何度も行っていた剣沢宗司(けんざわそうじ)、彼がそこを拠点として潜伏している」


 血業が言った位置の赤丸から新たなウィンドウが表示され、そこに彼の姿が映し出される。白髪のポニーテール、細身で端麗な姿の吸血鬼、剣沢宗司。御影と舞の、因縁の吸血鬼――。


「剣沢……」


 御影は彼の姿を見て、憎しみを込めながら呟いた。

 以前彼と遭遇して以来、剣沢の足取りは途絶えていた。何度も行われていた辻斬りすらも、全く行われなくなっていた。しかし、ここにきてようやく彼への足取りを掴んだのだ。


「以上が、まず『極東参血鬼』の拠点である。そして、肝心の討伐の計画だが――。開始日時は、三日後の午後九時から。参加部隊は第一部隊を除いた全部隊。それぞれ三拠点を同時刻に奇襲をかける。第九部隊を除く部隊を一時的に三班に分ける」


 彼がそう言うと、液晶画面には、第二部隊から第八部隊までの面々が顔写真と共に並べられる。


「A班――第三部隊・種子島と土山、第四部隊・岩破と鎖金(くさりがね)の合同班」

「なんて暑苦しいところに……」と、多実(たみ)がボソリと呟いた。

「オイ土山ァ、何か言ったか」――炎次は彼女の言葉を聞き逃さず彼女に言う。

「いいや、なんでもないです」

 

 多実はべえ、と舌を出して言った。


「B班――第六部隊・雪前と白銀、第八部隊・夏崎(なつざき)と冬革の合同部隊」

「雪先さんと白銀さんかあ、頼りになるなあ」


 朗らかな笑顔で言ったのは、茶髪のツンツン頭の優男、夏崎彰吾(なつざきしょうご)。そんな彼を見て、白銀は苦笑しつつ「血鬼祓歴は夏崎隊長の方が長いんですが……」と言った。


「C班――第二部隊・雨昊と星詠、第七部隊・夜嶋と朝霧の合同部隊」

「おっ、いつものメンツじゃん~。頑張ろうねー、御影ちゃん」

「ちゃん付けはやめなさいって……」


 もう言い返すのも面倒に思えた御影だった。


「……? あの、血業支部長? わたくしたちの名前が出てこないんですが」


 彼に訊ねるのは、灰色のゆるふわロングヘアーをした第五部隊副隊長・透田灰音(とうだはいね)。自分達の名前が出てこないことを疑問に思い、口を開く。


「そうっスよ! ウチらもちゃんと戦いたいっス!」


 灰音に続いて言うのは第五部隊の隊長・結賀鏡花(ゆいがきょうか)。銀髪のサイドテールに、赤青黄緑各色一本ずつのメッシュを入れている彼女も、自身が今回の討伐班に含まれていない不満を口に出す。


「君たち第五部隊は、もし各班で何かが起きた場合、そして本部で何かが起きた場合、迅速に対応できるよう……所謂奥の手として此処に待機してもらう」

「成程! 奥の手! 切り札! いい響きっスねえ~!」


 『奥の手』と聞いた鏡花はテンションが上がったのか、嬉しそうにそう言って拳を握り震わせる。


「びっくりするくらい単純ね、あなたの所の隊長」と、それを見て焔が隣に座る灰音に呆れた表情で言う。

「それが鏡花さんの良い所であり悪いところでもあります」


「続いて……それぞれ、A班はフード、B班は剣沢、C班はフレアへ討伐へ向かってもらう」

「……!」


 御影は驚愕の表情を一瞬見せると、彼に向かって口を開く。


「なんで――」

「――なんで、私達が剣沢の討伐ではないんですか?」


 御影を遮って、舞が血業に言った。が、御影が言いたいことは舞と一致していた。


「剣沢とは以前、一度――御影さんなら二度戦っています。相手の事を分かってる分、私たちが剣沢との戦いで有利を取れると思うのですが」

「だからこそだ。君たちが相手の事を知っていのと同じで、相手も――剣沢もまた、君たちの戦い方というものを知ってしまっている。ならば、奴が未だ知らぬ隊長達の血能で戦った方が良い。幸い、『ユグドラシル』時代の戦闘パターン、そして君たちが以前戦った際の記録も残っている。それに――朝霧君。君の【血鬼解放(けっきかいほう)】にも何らかの影響が考えられる」

「影響って、私は完全にコントロール出来ています!」

「いいや」


 舞の言葉を彼は遮る。


「君の感情によってコントロールされるその【血鬼解放】……もし因縁の相手とも言える剣沢と対峙した時、君は冷静に感情を抑えられるか? もし高ぶるその憎しみとやらを抑えきれなくなれば――その身は吸血鬼に堕ちる」

「私は吸血鬼になったりなんか――」

「いいか、これは決定事項だ。君一人の我儘を通すわけにはいかない。――異論あるか?」

「…………ッ」


 舞は血業にそう言われると、歯を食いしばって目線を彼から離し、俯いた。


「……僕たちはどうすればいいんでしょう?」


 少しの沈黙の間、第九部隊隊長・上喰狡樹(うわばみこうき)が血業に訊ねる。


「君たち第九部隊は医療チームを三班に分けてそれぞれ討伐班をサポート。隊長である君と副隊長の亀澤君は本部に待機し、第五部隊と同様奥の手として準備をしていてもらう」

「――了解しました」と、狡樹は隣の亀澤と共に頷いた。


「それと、最後に――今回の討伐作戦の概要、当日現地に赴くまで一切隊長格以外の隊員に口外する事を禁じる。冬革君と第一部隊には後で私が直接連絡する。例え隊員たちに何を聞かれようが、絶対に喋ってはならない。少しでも奴らに優位を取る為だ」


 隊長格たちは皆各々頷いて、「了解」の意を示す。


「これにて隊長格会議を終了する。これは長きに渡る真祖との戦いを終わらせる第一歩だ。皆、心してかかる様に」


 血業は、重い声でそう言うと、会議室に静かに響いた。




 数分後、会議室からは全員の隊長格が退室していた。真理もまた、ノートパソコンと液晶の接続を切って、折りたたんで手に持った。そして、血業に訊ねる。


「作戦の口外禁止――あそこまで徹底するなんて、何かあったんですか? 大規模作戦だから、というのは建前でしょう?」

「いいや……建前などではない。今時、何処から情報が漏れだすか分からん。一つでも狂いがあれば、多くの人員を喪う事になる。今の世代は非常に優秀だ。これから先の未来を引っ張ってける人材が多くいる。それを喪うのは、人類にとって大きな痛手だ」


 そう言って、血業は大きく息を吐いた。


犬噛(いぬがみ)、雨昊、種子島、岩破、結賀、雪前、夜嶋、夏崎、上喰……そして朝霧。一人も欠けてはならん。絶対にだ」

「――朝霧さん……。『彼ら』だけでなく、支部長……あなたまであの子のことを重要視しているのですね。自身で一時的に吸血鬼の力を引き出す力……【血鬼解放】……それを扱えたのはこれまであの子を含め三人しかいない。確かに、吸血鬼への対抗手段としてはこれ以上にない武器には成り得ます」

「だが、前の二人……《彼》は死に至り、斬鳴静は吸血鬼に堕ちた。『彼ら』は……朝霧舞こそが、真の器だというが……果たしてどうなんだろう。――運命の子、か」


 血業は少し笑いながら言った。

 運命の子――。大層な言い方をするものだ。運命に選ばれた子。聞こえはいいかもしれないが……結局は、世界の向かう歴史の流れに沿う様に動かされる、世界の奴隷の様なものじゃないか。世界は――運命とは、残酷なものだ。

 コンコンとノックが鳴る。血業はそれに気が付くと、「入れ」と言った。ガチャリと扉が開き、一人の女性が会議室へと姿を現す。


「どうした、雪前」


 淡い水色の髪を結い、前髪をサイドに流している第六部隊隊長……雪前焔。彼女はスマートフォンを取り出すと、その画面を彼女たちに見せる。


「――あいつら……【天秤】からのお呼び出し。爺さんから言いたいことがある、だってさ」


 ――【第六部隊隊長・雪前焔 改メ 血業家分家・十架(じゅうか)家当主 血業十架焔(ちぎょうじゅうかほむら)




◇    ◇    ◇    ◇




 その日の深夜――。

 月鬼隊本部ビルの屋上。月はさらに高く上り、輝き続けている。冷たい風が少し吹く中、舞は手すりに肘をついて、夜景を眺める。こうして一人で空を街を眺めていると、とても気持ちが落ち着くのだ。さっきの会議では思わず感情を昂らせてしまったからそれの反省も込めて、頭を冷やす。


「……なんなのあの人……図星突いてきて……」


 "もし高ぶるその憎しみとやらを抑えきれなくなれば――その身は吸血鬼に堕ちる"

 血業の放ったその言葉は、その通りであった。

 自身の負の感情を高める事で吸血鬼の力を引き出す。そのコントロールをミスすれば、一気に感情に飲み込まれ、完全に吸血鬼と化してしまうのは、舞も理解していた。

 以前のムクロとの戦いもそうであった。憎しみ――それを抑えていても、自分の中の吸血鬼はこういう。


「もっと殺せ、もっと恨め、もっと憎しみを滾らせろ」――。


 舞はどうにかしてそれを振り払っている。もし隙を見せてしまうと――。考えるだけでも恐ろしい。


「――君、よくここに来てるね? 黄昏るの、好きなの?」


 空を眺める舞の背後から声が聴こえる。男とも女とも似つかぬその声を、舞は初めて聞いた。彼女は声のする方へ振り向く。屋上へ至るドアが備えられている建物の上、そこに声の主は何時の間にか座ってた。


「……誰?」

「あれ? 会ったことなかったっけ。僕は冬革忍――第八部隊の副隊長。まあ、知らなくても仕方ないか、殆ど此処に帰ってくることないし」

「ああ……第八部隊の……」


 確かに先ほどの会議にも居なかったし、副隊長昇格の際の会議にも彼は居なかった。

 冬革忍……名前こそ知れど、姿をちゃんと見た事は無かった。


「あなた――男だったんだ」

「おいおい、やめてくれよ、それ気にしてるのに」


 ははっと笑いながら彼は笑う。確かに、彼の容姿はぱっと見女性にしか見えない。中性的で整った顔に、紺色の髪は首元にまで伸びている。服装は体型が出ない様に少しだぼだぼのパーカーを着ていた。

 自身が男か女か、彼から言う事は無かった。


「私に何か用?」


 舞は忍に訊ねる。


「んー、用事って訳でも無いんだよね。たまたま偶然、休みに来たら君が居たからさ。それで話しかけてみただけだよ」

 

 じゅーっと、彼は隣に置いていたパックジュースを飲んだ。飲んでいるのはフルーツミックスジュースだった。


「ここには……特に夜は誰も来ないから、落ち着くのには向いてるのよ。誰にも会いたくない時とか、考え事する時とか、逆に何も考えたくないときとか――。夜は良い。静かで、暗くて。とても落ち着く」

「何も考えたくない、ねえ。何か悩み事でもあんの?」


 彼は彼女に訊ねた。が、舞はそのままドアに向かう。


「――別に。あなたに話す事は何もない」


 そう台詞を吐き捨てると、舞はそのドアを通って屋上から消えた。その様子を見て彼は大きく息を吐くと、さっきとは打って変わってとても冷酷な声でつぶやく。


「――吸血鬼の紛い物の癖に、偉そうにしやがって」


 すると、彼は両手で一度口を塞ぐ。


「おっとおっとアブナイアブナイ、いつもの悪い癖が出る所だった……。に、しても支部長も人使いが荒いよなあ……やっとこさ帰って来たのに、次は朝霧ちゃんの監視って……あーあ、給料上げてもらわないとなあ」


 彼は立ち上がってそう呟くと槍を取り出した。槍型の刃機(じんき)、『ロンギヌス』。深紅に染められたそれを握って矛先を天に向ける。すると数秒後、彼はその場から忽然と姿を消したのだった。


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