8 和やかなお茶会
スパイ騒動にも一応の決着がつき、晴れてスパイ嫌疑の晴れたあたしは、穏やかな日々を取り戻していた。
セルフォードの魔法技術を狙っていた他国の工作員は身柄を拘束され、厳しい取り調べを受けているそうだ。
けれど、それに関してはアンソニー皇太子殿下が采配を振るう分野なので、あたしもエルクもそれ以上はなにも出来なかった。
「兄さんはたぶん、ガフテスルとの外交カードとして彼らを使うつもりだろう。向こうにしてみれば、彼らの存在そのものが自分たちの弱みになるからね」
ガフテスルはあの男たちが言ったとおり、北国のためにほとんど農作物が取れない国なんだそうだ。
その代り、良質な鉱山をいくつも抱えているので、セルフォードとしても貿易相手として欠かせないらしい。
外交カードとして使うということは、セルフォード側に有利な条件で今後取引できるということなんだろう。
そういう政治的なことはあたしにはさっぱりだけど。
それよりも、男たちがあたしを「魔女」と呼んだことの方が気になる。
魔法陣を活性化させることで、植物を飛躍的に成長させる───そんな力があたしにはある、らしい。
ミミアは実際にあたしが「魔法使い」だという噂を耳にしていたようだし、そう言えば最近、お城の中でも変に注目されているような気がする。
「ユーリが私の遠縁の娘ではなく、エルクの召喚魔法で異世界から召喚されたというのは、すでに周知の事実ですからね。多少好奇の目で見られるのは仕方がないでしょう。私たちはあなたの能力については、利用しようというつもりはありません。これはアンソニー殿下からも確約を頂いてますので、ご安心を」
「そうですわ、ユーリ姉さまを実験動物みたいに扱うなんて、わたくしが許しません!」
憤るファリーヌの後ろで、エルクだけはちょっぴりばつの悪そうな顔をしていた。
まあ、もともとエルクの「実験」に巻き込まれたのがあたしなわけだからね。
そんなこんなであたしは客人扱いということで、ミシェル王子の話し相手をしたり、ファリーヌとお茶をしたりとすっかりお客さん扱いに甘んじていた。
とはいえ、体の弱いミシェルはともかくファリーヌは結構忙しい。
一国の王女として恥ずかしくない教養を身につけるため、ダンスや楽器演奏も身につけなくてはいけないし、殿方との知的な会話をかわすためには、様々な分野の話題にも通じていなければならないのだそうだ。
短大を卒業したばかりの就職浪人から派遣社員にジョブチェンジしたばかりのあたしには、とても真似のできない生活だ。
「ユーリ姉さまもダンスをお習いになったら、舞踏会にご一緒できますのに……」
ファリーヌには申し訳ないけど、謹んでお断りすることにした。
大体、異邦人に過ぎないあたしがこっちで人脈を作ってもしょうがないし、あたしにはエルクやラルフ、ファリーヌやミシェルという大事な人がいればそれでいい。
そんなこんなで毎日多忙なファリーヌ王女だけど、もちろん息抜きのための時間はある。
その日も、あたしは座学を終えたファリーヌに誘われ、午後のお茶を楽しんでいた。
珍しいことに、いつも朗らかな笑顔を絶やさない金髪ふわふわのお姫さまが、なぜか憂鬱そうに溜息をつくので、あたしは驚いた。
「どうしたの、なにか悩みごとでもあるの、ファリーヌ」
「実は……最近、ミシェルがお散歩に付き合ってくれないんです」
えっ、とあたしは胸の奥に冷たい氷が生じたような気分になる。
「そう言えばあたしもここ数日顔を出してないけど、まさか体調を崩したの、ミシェル!」
青ざめたあたしに、ファリーヌは慌ててそれを否定した。
「いいえ、アンソニー兄さまが外国からお呼びになったお医者さまの処方が体に合ったのか、むしろ体調は良好なんです。ところが、元気になったことで前よりもいっそう書物に没頭している様子で……」
そっか、体調がいいならそれに越したことはないけど……そういえば前に、各地の民間伝承なんかを調べるのが好きだって聞かされたことがある。
「やっぱりミシェルも学者肌なのね。何をそんなに一生懸命調べてるのかしら」
ファリーヌはその後、詩の朗読のお稽古があるとかで行ってしまった。
なのであたしは久しぶりにミシェルを訪ねることにしたのだった。
※ ※ ※
「うわぁ…………」
ミシェルの部屋を訪れたあたしは、なにかデジャヴュのようなものを感じていた。
床に散らばった本、乱雑に積み上げられた本、本、本。
そして細かい文字でなにか書きつけた紙があちこちに散乱している。
この散らかりっぷりは、エルクの研究室を彷彿とさせるけど、本と書類の山の中にいるのはエルクではなくミシェル。
あの天使のように愛らしい少年が、一心不乱に本を開いてなにかを書きつけていた。
「ミシェル……ど、どうしたの、これはいったい」
「ユーリ! いいところに来てくれたね!」
ああ、体調がいいというのは本当みたい。
思った以上に血色のいいミシェルの顔を見て、あたしはホッとする。
と同時に、似てないようでもやっぱりこの子はエルクの弟なんだなぁ~と呆れるやら感心するやら。
少年はあたしの手を取って、興奮に目をキラキラ輝かせながら、得意満面で語り出した。
「気づいたんだ、ユーリを元の世界に還す方法のヒントに!」
「え…………ええっ!?」
ミシェルは各地の民間伝承について調べるのが好きだとは言ってたけど、魔法や魔法陣の研究をしているとは聞いてない。
エルクがミシェルにそういうことを調べさせているとも考えにくいし……。
「えっと、一から説明するね、ユーリ。ねえ、『モモタロウ』っていうユーリの世界の昔話があったよね? それと『カグヤヒメ』!」
「え、ええ、お話してあげたわね。それがどうかしたの」
「モモタロウは桃の中から、カグヤヒメは竹の中から……普通じゃない生まれ方をしてる、そうじゃない?」
「えーっと……」
ミシェルにはちゃんと昔話、おとぎ話だっていうことは言ってたはず。
桃太郎やかぐや姫が実際にあったことだとは思ってないはずだけど、それとあたしを元の世界に還す方法がどう繋がるんだろう。
「一寸法師だってそう、手の平に乗るような小さな人間なんて、普通はいるはずがない。まるで『別の世界からきた』みたいじゃないかって……」
ん───?
あたしはミシェルの言いたいことがおぼろげに見えてきたような気がした。
「もちろん、それらは伝承やおとぎ話だから、額面通りに受け取るわけにはいかない、それはわかってるよ。でもモモタロウやカグヤヒメが、実はどこか別の異世界から送り込まれていたとしたら……って思ったんだ」
「送還魔法……」
金髪の少年は得心の笑みを浮かべる。
「実はこの世界にも、変わった伝承がいくつもあるんだ。人が急に消えたり、失踪した人がある日ひょっこり帰ってきたり。それが召喚魔法や送還魔法に巻き込まれたんだとしたら……しかも伝承だけじゃなく、かなり信頼できる記録も残ってるんだ」
ミシェルは地図らしきものを広げてあたしに見せる。
「この村と、ここ、それにこっちも……いわゆる『神隠し』事件が噂されてたり、実際に記録されてる場所だよ。そしてこれらの場所に共通することが一つある」
と、今度は図鑑らしきものをぱらぱらとめくり始める。
なんてすごい集中力、そして発想力。
あたしはすっかり舌を巻く。
「この植物を見て。これはとっても珍しいもので、ある特別な土壌にしか自生しないんだ。さっき言った神隠しが起こった場所は、この植物の自生地帯と重なるんだ。もしかしたらこの植物は、送還魔法陣に必要なものかもしれない。エルク兄さまならきっと……わっ?」
あたしは、ミシェルに抱きついていた。
だって、この気持ちをどうやって表現したらいいかわからなかったから。
この病弱な少年は、こんなに苦労してあたしを元の世界に戻すための方法を調べてくれたのだ。
あたしはこの世界とは、ううん、ミシェルとも本当なら無関係の人間なのに。
あたしを送還できたからって何の見返りが得られるわけでもないのに、純粋な善意からこれだけのことをやってくれたのだ。
感謝とかそんな言葉では表しきれない気持ちで、あたしはいつまでもミシェルを抱きしめ続けたのだった。
※ ※ ※
「なるほど、送還魔法による神隠しの可能性か……それは思いつかなかったな」
ミシェルの仮説を聞いたエルクは、弟の発想にまず驚き、それからこの植物が送還魔法に関わっているかもしれないという可能性を否定しなかった。
「魔法陣の構築に何かもう一つ足りないとは思ってたんだ。向こうの世界からこっちに引っ張ってくるだけの召喚と違って、ユーリを正しく元の世界に戻すためには、ユーリの世界の座標を正しく把握してないといけないからね」
相変わらず、魔法に関してはあたしにはさっぱりだけど、エルクの言いたいことは何となく理解できる。
「それって、下手をすればこことも、あたしの世界とも全然違う世界に飛ばされちゃうかもしれないってこと?」
「そういうこと。ぶっちゃけ、僕は異世界の生き物をランダムに召喚したかっただけで、狙いすましてユーリの世界を特定してたわけじゃないからね。でも送還となるとそうはいかない」
ここでも、元の世界でもない世界……そんなところに飛ばされるなんて、ぞっとしない。
時間はかかっても、エルクにはぜひとも完璧な送還魔法陣を作って欲しいところ。
「よし、さっそくその植物を採集して来よう。ミシェル、その地図は僕があずかろう」
「……本当なら、僕も実際に行って確かめたいところだけど」
もちろんミシェルの提案は却下される。
体調が良くなったと言っても、遠出ができるほど丈夫になったわけじゃないからね。
「じゃあ、あたしが付いていこうかな」
「ダメダメ。現場に着いたら地形とか土壌の成分を調べたりもしなきゃいけないから、当然野宿になる。山賊や野盗、あるいは魔物に出くわさないとも限らないし、ユーリも留守番だよ」
さすがフィールドワークに慣れてる研究者、エルクは大きなリュックに薬品だの研究道具を詰め込み始める。
「そうだ、ユーリ。ラルフの奥さんがね、一度ユーリをお茶会に招待したいんだってさ。ただ結果を待ってるだけってのも退屈だろうし、お招きを受けてみたらどうかな」
ラルフの奥さん……あの常に冷静沈着、時として苛烈な黒髪眼鏡の政務官の奥さまか。
正直、興味がある。
前に「超愛妻家」とか言われてたし、もしかして奥さまの前じゃめろめろになっちゃったりするのかしら、あのラルフが。
そんなわけで、エルクは野外調査&植物採集に、あたしはラルフの奥さまのお茶会のお招きにあずかることとなったのだった。
※ ※ ※
「まあまあ、よくいらっしゃいました。初めまして、ユーリとお呼びしてもよろしいかしら」
お茶会に招待されたあたしは、ラルフのお屋敷を訪れていた。
出迎えてくれたラルフの奥さま、ソフィーリアさんはとてもキュートな方だった。
灰色の髪を結いあげていてドレスはシンプルでシック、一見して地味に見えるけれど、その笑顔がなんとも言えず人懐っこい。
前にラルフが言ってたように背格好は確かにあたしと似ているけれど、顔は小さいし、手足は細くて華奢だし、奥さまというよりも美少女にしか見えない。
事前に姉さん女房だと聞いていたあたしは、イメージとのあまりの違いにぎくしゃくした挨拶しかできなかった。
「ど、どうも、加賀百合花……と申します。どうぞ、ユーリとお呼びください、奥さま」
「やぁ~だ、奥さまだなんて、堅苦しいですわ。わたくしのことはぜひソフィーと」
ころころと笑う朗らかさはファリーヌに似ているけれど、なんというか物腰に余裕がある。
一家を支える奥方としての存在感だろうか……いつもエルクに高圧的なラルフも、奥さんの前ではなんというか雰囲気が柔らかい。
穏やかな午後の昼下がり、テラスに準備されたテーブルにはカップにポット、そして甘い香りの焼き菓子が並んでいる。
漂ってくる不思議な香りは何かの香辛料だろうか。
(ソフィーリアさん、綺麗でかわいい人だな。けどなんていうか……)
あたしがいま着ているドレスは彼女のもの。
背格好が似ているというのと、元々着ていたリクルートスーツではお城では目立つということで借りているものだ。
「わたくしはもうそんな派手なものは着れませんし、よければ他にももらって下さいな」
「いえ、そんなわけには……でも、あの、ソフィーさんって」
もしかしたら……と思ったけど、やっぱり何か違和感がある。
あたしが借り受けているドレスに比べると、ソフィーさんがいま着ているドレスは明らかにラインがゆったりとしている。まるでお腹のボディラインを隠すような……
「ええ───」
あっさりと彼女は頷いた。やはりマタニティドレスなんだそうだ。
「まだ三カ月と少しですけれど、この人が体を大切にするようにうるさくって」
「妊婦が腹部を締め付けないような服装を心がけるのは当然のことです。こうして家でお茶会を開く程度はどうということもありませんが、本当は外出も控えて欲しいと言っているのですが」
苦言を呈するラルフはいつもの冷徹な雰囲気ではなく、奥さまを気遣い労わろうという気持ちが溢れている。
超愛妻家、というエルクの評は間違っていなかったみたいだ。
(まあ、普段からエルクに苦労させられてるからなー)
「そう言えばユーリさんは、異世界からいらっしゃったんですわよね。あなたの世界のお話を伺いたいわ」
「そうですね……あたしもここに来た時はずいぶん戸惑いましたけれど、基本的なところはあまり変わらないんじゃないかと思います。人がいて、畑で作物を作って、ものが流通して……」
もちろん、文明的にあたしの世界とこのセルフォードはかなり違ってる。
でも、基本的、根本的な部分はそんなに大差ないんじゃないかと思う。
もっとも、この国の一般庶民の生活というものにはまだ触れてないから大きなことは言えないけど。
「まあ、お兄さまと奥さまがご実家で……それは素敵ですわねえ」
「ええ、晴ちゃん……あたしの義理の姉に当たる人なんですけど、もう妊娠七カ月、いやもう八カ月になるのかな? すごく明るくて元気な人で、あたしも大好きなんです」
そういえば───あたしがこの世界に来てから、なんだかんだでもう一カ月近くになる。
その間に農場見学に行ったり、盗賊に襲われたり、スパイ嫌疑をかけられたり、挙句に誘拐されかけたりとけっこう大変な目にあってきた。
「あたしにとっては初めての甥か姪ができることになりますから、すっごく楽しみなんですよ~」
「そうですねえ、わたくしの妊娠が分かった時のこの人も、そりゃあもう大変なはしゃぎようだったんですよ~」
ソフィーさんの言葉に、えへんえへんと咳払いをしてごまかすラルフ。
微笑ましいけど、意外だとは思わない。
ラルフは一見冷静沈着に見えるけど、その実、意外と激情的な性格をしている。
理不尽なことにはまっすぐに怒りを表し、人に暴力を振るおうとする者に対して容赦がないのも、その正義感あってのことだ。
反面、嬉しいこと幸せなことにもとても素直な反応を見せるだろうというのも、容易に想像できる。きっといいパパになるだろうなあとあたしは笑みがこぼれるのを抑えられない。
「けれど……お義姉さまがもう八カ月だと、早く元の世界に戻られないと、出産に立ち会えないですねえ」
心配そうにそう漏らしたソフィーさんに言葉に、あたしはハッとする。
そうだ、晴ちゃんが出産するまで、もう半年もない。
エルクも、そしてミシェルもあたしが元の世界に戻れるようにいろいろ調べて努力してくれているけど、その努力がいつ実るかはまだまだわからないのが現状だ。
(もし、このまま何年もこの世界にいなきゃいけないとかだったら……)
あたしは不意に足元が崩れ落ちるような感覚に襲われる。
まるで世界にたった一人取り残されたような───そう、ここはあたしの世界じゃない。みなよくしてくれるけど、この世界に生まれ育ってきた人たちばかり。
本当の意味であたしの立場を理解してくれる人なんか、誰一人いない。
「ユーリ? どうしました」
声をかけてくれるラルフと、目をまともに合わせられない。
誰が悪いというわけじゃない、そんなことはわかってる。
エルクは異世界の人間を召喚するつもりじゃなかったし、ラルフもファリーヌもミシェルも、異世界の人間であるあたしを受け入れて、なにか少しでも力になろうとしてくれている。
それはカタリナさんやミミアも同じ、アンソニー殿下だって国のためにあたしを利用しただけであって、あたしに悪意を持ってるわけじゃない。
(あ───ダメだ、まずい)
目頭が熱くなって、あたしは俯いてしまう。
せっかく素敵なお茶会に招待されてるっていうのに、涙がぽろぽろこぼれてしまう。
ゲストとしてここにいるのに、ホストのソフィーさんになんて失礼な振る舞いをしてるんだ、あたしは。でも晴ちゃんのこと、いずれ生まれる甥か姪のことを思うと、どうしても涙が抑えられなかった。
「ごめ……なさ……あたし、本当に……」
しゃくり上げながらどうにかお詫びの言葉を口にしようとしていると、ふわりと暖かな空気に包まれた。
ソフィーさんがあたしを優しく抱きしめて、ぽんぽんと背中を軽く叩いて撫でてくれた。
たったそれだけのことで、あたしはとてつもなく癒されたような気持になって、恥ずかしながらソフィーさんの胸でぼろぼろと泣いてしまったのだった。
「不安だったのね、当り前だわ。もう我慢しなくてもいいんですよ。胸に詰まっていたものを全部吐き出して、思い切り泣いていいんですよ、ユーリ」
「………………っ………………」
あたしは嗚咽を抑えきれず、いつまでも泣き続けた。
そうしてようやく気持ちが落ち着いたころには、きっとひどい顔をしていたと思う。でもソフィーさんは聖母のような笑顔でハンカチを手渡してくれた。
「あなたったら、なんて顔なさってるんですか。こんな若いお嬢さんが異世界にたった一人、不安じゃないわけないじゃないですか」
「それは……たしかにそうですが、ユーリはしっかりした人だと思っていましたので」
突然泣き出したあたしに、ラルフは少しショックを受けていたようだった。
ソフィーさんはそんなラルフに呆れたような目を向ける。
「そういうところはやっぱり男の人ですね。ユーリ、これからは自分を抑える必要はありません。いつだってうちにきて相談して下さいな。わたくしもあなたとお話しするのを楽しみにしていますからね」
「はい……ありがとうございます」
結局、あたしは自分でも気付かないうちにホームシックにかかっていたんだと思う。
色んなことがあり過ぎてつい忘れがちになっていたけれど、異世界なんかに来て、ずっと感じていた不安や心細さを無意識に我慢してて、それが一気に噴出してしまったんだろう。
(そうだ、大事なのはあたし自身が自分の気持ちを素直に受け入れること───)
あたしは───元の世界に帰りたい。
父さん、母さん、兄ちゃん、そして晴ちゃんにまた会いたい。
まだ生まれてない甥か姪の顔を見て、父さんたちの畑で手伝いをして、収穫のおすそ分けをもらって、母さんの手料理を食べたい。
そのためなら、自分に出来ることはなんだってしよう。
そんな決意も新たに、あたしはソフィーさんとのお茶会を大いに楽しんだのだった。