エピローグ
それからのことは、あまり書くほどのこともない。
エルクは無事に送還魔法陣を完成させ、あたしと兄夫妻、双子の甥っこと姪っ子を元の世界に送り届けてくれた。
もちろん別れの前に、たくさんの人たちにたくさんのありがとうとさようならを伝え、あふれる涙は抑えられなかったけれど、最後は笑顔で別れられた……と思う。
そうして戻ってきた場所は例の廃村の近くらしく、兄ちゃんの車を止めたはずの場所にまで戻ると、あたしたちの写真が貼られた看板があった。
『この人たちについての手掛かりを探しています。知っている方は下記の番号もしくは○○警察署までご連絡ください!』
うっわぁ……そうか、あたしたち二カ月以上も「神隠し」に遭ってたんだっけ。
それから実家に連絡して、ついでに警察にも行ったけど、どう事情を説明していいやらわからなかったので、あたしたちは「なにも覚えていない」ということで口裏を合わせることにした。
まあ、それからはお定まりのマスコミ報道。
「現代の神隠し? 天狗伝説の残る廃村で神隠しから戻った兄夫婦と妹の謎!」
そんな感じで一時は新聞記者、雑誌記者、テレビ局だのが大挙して押し寄せてきた。
けれどもう徹底して「なにも覚えてない」「記憶が曖昧でわからない」で通したら、そのうちに別の事件や芸能人のスキャンダルが起こり、世間の興味はそちらに流れていった。
いまは至って平和なものだ。
「いいよいいよ、久雄に晴ちゃん、それになんとまあ、双子の赤ん坊まで無事に戻ってきてくれたんだ。それ以上望むことは母ちゃんなんにもないよ。あ、百合花もね」
おーい、なんかついでみたいに言ってませんか。
両親にも相当心配かけたみたいで申し訳なかったけど、二人とも事の真相については敢えて聞かないようにしてくれた。
兄ちゃんも無事に職場復帰できたし、晴ちゃんは母さんと二人、双子の世話で大忙しだ。
そしてあたしはというと───
はい、派遣登録抹消されてました。うああああああ。
で、求人もあちこち回ってはみたんだけど、やっぱり厳しくて。
それでも親戚のおじさんのつてを頼って、実家の隣町の小さな会社に就職することができた。
かくして都会の荒波に敗れた小娘は、地方の安アパートに居を構え、どうにか暮らしている。
休日ともなると実家から呼び出されて畑やハウスの手伝いだ。
「百合花ちゃん、悪いわねえ」
「大丈夫、晴ちゃんはまだ休んでてよ。子育て大変なんだからさ」
ハウスの中は育ちかけのキュウリの苗が並んでいる。
セルフォードの国営農場ほどじゃないけど、今年は作物の育ちがいいと母さんが喜んでいた。苗にぶら下がってるキュウリももうかなり成長してる。
あたしはハウスの土に親指をぐいとねじ込んでみる。
あれほどすさまじい地脈の活性化を生みだした晴ちゃんは、もうすっかりあの力を失ったみたいだけど、実はあたしはほんの少しだけど、地脈を感じ取れるようになっていた。
異世界のお城、農業魔法、金髪の王子さま。
振りかえれば何もかもが夢みたいに思いだされるけれど、あの体験は夢じゃない。
そのことは右手の中指でいまも光る指輪と、あたしのこの「緑の指」が覚えている。
おわり
これにて本編は終了です。読んで下さった方、本当にありがとうございます。
「チート能力もなく、目的もなく召喚された女の子が元の世界に戻るまで」という、ただそれだけのお話でも、意外とどうにかなるものです(笑)
まあお話の都合上、まったく無力と言うわけにはいきませんでしたが。
作者的にお気に入りのキャラはミミアです。主役級の二人が恋愛体質からほど遠いため、この娘はそっちの方面でがんばってくれました。
けっこう、純情乙女な娘です。ただ、意中の人がこれまた朴念仁っぽい……がんばれミミア(笑)
それではあと一回だけ、番外編をお送りします。




