18 急げや急げ
なんとなく理解はできたけど、あたしはまだ混乱してる。
えっと、兄ちゃんと晴ちゃんはこの森に魔法で移動して、メルマルロードによってイムルアの町に案内された、それが二か月前。
送還魔法陣で二人の後を追ってきたあたしとエルクは、兄ちゃんたちがこの世界に来た日よりも「二カ月先の未来」に飛ばされてしまったっていうことでいいのかしら。
「僕もこんな状況は初めてだから断定はできないけど、まず間違いないと思う。どういうわけだか晴さんには地脈を活性化する力が備わっていて、それがイムルアの土地を肥やしたんだ。けど、少なくとも二人が無事でいる可能性はぐんと高まった」
「そうか、そうだよね…………あっ! こうしちゃいられないわエルク。イムルアの町にはガフテスルの軍隊が」
あたしの言葉にエルクの顔も青ざめる。
「そうだ、彼らがセルフォードの軍と衝突でもしたら、晴さんとお兄さんの身にも危険が及ぶ。急いでイムルアに向かわなきゃ」
「メルマルロード! 本当に悪かったわ、でもあたしたちも自分たちが二カ月もいなくなってるとは知らなかったの。だからお願い、許して」
頭を下げるあたしに、長い鼻の彼は渋々と言った様子で「ぱお~……」と小さく鳴いた。
『まあ、そんなに怒ってるわけじゃないよ、ただお姉さんが心配だっただけで。それより、この森にいた女の人ってお姉さんの知りあいなの?』
「あたしの兄と、そのお嫁さんよ。あぁああっ、大変よエルク!」
ある重大なことに気付いたあたしは、頓狂な叫び声を上げる。
「ど、どうしたんだユーリ」
「晴ちゃんと兄ちゃんはあれから二カ月、この世界で暮らしてるってことよね? この世界に飛ばされる前の晴ちゃんは妊娠八カ月……もしかして今ごろ臨月かもしれない!」
あたしの言葉にエルクとメルマルロードはきょとんとして顔を見合わせる。
ああもう、これだから男の人ってのは!
「もうすぐ赤ちゃんが生まれるかもしれないってことよ!」
「『えぇえええええ~~~~~~~ッッッッ』」
金髪王子とゾウが同時に叫んだ。
※ ※ ※
どすっ、どすっ、どすっ、どすっ。
太い四本の足が大地を蹴り、ひたすらまっすぐ突き進む。
森を抜け、丘陵地帯を駆け抜けるのは、鞍をつけた一頭のゾウ。その背中に跨っているのは、あたしと金髪の青年エルク。
体格差を考えるとエルクが前に乗るべきなんだけど、「オスに頭の後ろに乗られたくない」というメルマルロードの強い要望のため、エルクがあたしの腰に手を回してしがみついている。
(うぅうう~~~っ、これじゃ背中から抱きつかれてるみたいじゃないの!)
意識するなと思えば思うほど、青年の幅広の肩幅や胸板を意識してしまう。
早く兄ちゃんと晴ちゃんを見つけないといけないのに、とあたしはぶるっと頭を振って意識を切り替える。
「すごい……すごいやユーリ! これは晴さんが森の中から導いてきた地脈の流れなのか? まったく信じられない」
くそ、こいつはまったくあたしを意識してないらしい。
けれど、エルクの言うこともわかる。
だってメルマルロードが疾走してるのはまるで緑の道路。
あの果実だらけの森を抜けたっていうのに、色とりどりの花や芝生が荒れた土地にまるで舗装道路のように一本の道を作っているのだから。
そしてその先にあるのはイムルアの町。
「エルク! 晴ちゃんたちを見つけたら即座にセルフォードの軍隊に保護してもらうってことでいいのよね?」
「まあ、聖母さまを連れだすわけだから、多少抵抗されるかもしれないけど。キミは聖母さまの身内だし、大丈夫じゃないかな……たぶん」
おいおいおい、大丈夫なんかな本当に。
「いや、ユーリ。晴さんたちを見つける以前に問題発生だ」
「えっ? それはいったい……ってぇええええええ!」
丘陵に伸びる一本の緑の道。
それを挟んで右にガフテスルの騎馬隊。左にも同じような騎馬の兵士が何十騎と対峙し、睨みあっていたのだ。
「まずい、セルフォードの騎馬隊だ……既に一触即発って感じだぞ」
「セルフォードの? だったらエルクの正体を明かせば」
「馬鹿言うなよ、いまメルマルロードに乗ってセルフォード側に向かったら、一気に均衡が崩れて大乱戦になっちゃうよ」
そうだった。
あたしたちは今、この世界にいない鼻の長い巨大な獣に乗っている。
誰がどう見ても怪しさ大爆発なあたしたちがセルフォード側につくようなそぶりを見せれば、ガフテスル軍は自軍の不利を感じて攻め込んでくるだろう。
元より彼らはそのつもりだったのかもしれないけど、戦いはイムルアの町の人たち、ひいては兄ちゃんや晴ちゃんを巻き込むかもしれない。
(じゃあどうする、あたしたちが両軍を説得して争いをやめさせる?)
ますます無理だ。
ちょっとした刺激でいつ爆発するかも知れない緊張した空気の中、のこのこ出張って行って
「あらそいをやめてくださぁい」
なんて子どもの使いに耳を傾ける軍隊がどこにいるというのか。
戦争を知らない世代のあたしにだって、そのくらいは予想がつく。
思い悩む間もメルマルロードは緑のロードを突き進み、二つの国の軍隊に接近する。
「おい、あれはなんだ?」
しまった、気付かれた。
ただでさえ巨大な図体のゾウは数百メートル先からでも見つかってしまう。
(どうする、どうする?)
「ユーリ、こうなったら両軍とも無視していこう! 彼らの間を全速力で突っ走って、イムルアの町に飛び込むんだ!」
「そんなことしたら、あたしたちの後を追って町になだれ込むんじゃない?」
「…………イムルアの人々には悪いけど、その混乱に乗じて晴さんたちを捜して連れ帰るくらいしか……」
エルクの声に苦渋の色が滲む。
彼だって別にイムルアの民に恨みがあるわけじゃない。けど現時点ではその選択がおそらくベストなんだろう。
エルクが言うには聖母はおそらく街の中心にいるはずだから、あたしたちは両軍には目もくれずひたすら一直線にそこを向かう。
両軍の騎馬は町中で自由に動けず、往生するはずだ。
人々は驚愕して逃げ惑い、馬に踏まれたり転んだり……怪我をする人たちだって出るだろう。
(本当に? 本当にそれしかないの? なにか、なにか他に方法は……)
『お、お姉さんっ? 大変だよ、道がすごいことになってるよ!』
メルマルロードの声にハッと地面に目をやったあたしは、目を丸くする。
なんと、地脈を示す緑の道路は凄まじいことになっていた。
さっきまではせいぜい芝生くらいだった植物がぐんぐん成長し、大人の腰ほどまでに高く伸びている。
「地脈がさらに活性化している! こんなのは僕も初めてだ!!」
(それって……もしかして晴ちゃんの身になにか? まさか、まさか……!)
それは出産が近いのかも、あるいは晴ちゃんの身に危険が迫っていることを示しているのかもしれない。
そんなときなのに、あたしは物騒な兵隊を引き連れて町に飛び込むことしかできないのか。
(ちがう───あたしは、無力なんかじゃない!)
これまであたしは何度も自分の力の無さに歯噛みし、悔しい思いをしてきた。
非力で戦うこともできない、知識もない、周りの親切な人たちに助けられてばかりのあたし。
けど、それだけじゃない。
じたばた足掻いてもがいて、不格好だけど何とかなったことだってあったはず。
今だって、イムルアの人たちに迷惑をかけずにこの場を切り抜ける方法が、なにかきっとあるはずなんだ。
「おい貴様らッ。奇怪な獣に乗って怪しい奴。何者だ!」
「止まれッ、止まらぬかッ。所属と姓名を名乗れ!」
両陣営の隊長と思しき兵士があたしたちに誰何の声を向ける。
「どっちもよく聞いてぇええええっ! ここで争いを始めるのはやめて! もうすぐ、もうすぐここで赤ちゃんが生まれるかもしれないのぉおおおおおおっっっっ」
「な、なにを言っているのだ、この女!?」
「むう、それ以上近づくなら力づくで……むぅっ?」
「お願いっ、あたしの甥っ子か姪っ子が生まれそうなの! だから、騒ぎを起こさないでほしいだけなんですっっ!」
睨みあった軍隊が、「争いをやめて」なんて言葉だけで軍勢を引くことはない。
それが訓練され、統制された「兵士」だからだ。
だから、あたしは両軍の兵士になんか話しかけてはいなかった。
『なんですって、赤ちゃん? まあ、それはなんて素敵!』
『そういうことなら仕方ねえな。さ、早く行ってやりな』
「おい、こらっ! どうしたんだ、進まぬか、おいっ」
「馬鹿者、彼奴らが行ってしまうではないかっ」
あたしは、両陣営の隊長の乗る「馬」にお願いしたのだ。
エルクの翻訳指輪はゾウであるメルマルロードとの会話を可能にしてくれた。
だから賭けたのだ、その機能が馬にも通用することを。
そして、兵士ではなく馬ならば、こんな小娘の身勝手なお願いにも耳を傾けてくれるのではないかと。
「ええいっ、この馬鹿者……ッ」
ガフテスルの隊長が一向に動こうとしない自分の馬に鞭をくれようとした時だった。
「ひひぃいいい~~~~んんんっっ!」
「うわぁああっ?」
すぐ傍らにいた別の馬が前脚を大きく上げていななき、隊長を威嚇したのだ。
『てめえっ、俺の女房になにしやがんでえっ』
『そいつ、前から無駄な鞭ばっかりくれやがって、気にくわなかったんだ!』
『おう、構わねえからガツンとやってやれ、やってやれ!』
対峙するセルフォード軍の馬たちも、一様に兵士の指示に逆らい始めている。
『なによお、赤ん坊が生まれるっていうのよ、行かせてやんなさいよ!』
『赤ちゃんは群れの宝ですものね、みんなで守らなきゃ』
『お、俺たちも今度子作りしないか……?』
もお何がなにやらわからないけど、あたしたちの邪魔をする馬はただの一頭もいなかった。
メルマルロードは緑生い茂る道をかき分けて、イムルアの町に向かう。
「みんな、ありがとう! 赤ちゃんが無事に生まれることを祈ってて!」
両軍勢から一斉に「ひひぃいい~~~~ん!」という祝福と応援のいななきが上がった。
※ ※ ※
『お姉さん、これからどこに行けばいいの?』
イムルアの町の中は貧民窟というには賑やかで、人に溢れていた。
食料に困ってセルフォードの農場を襲うというわりには、あちこちに屋台のようなものが出ていて、食べ物のいい匂いがしていたり、果実や木の実を売り買いしている人たちもいる。
これもおそらく「聖母さま」のもたらした奇跡の恵みなんだろう。
「ひぃいいっ、なんじゃあんたら?」
「魔物じゃあっ、魔物が町に入って来たぞ、逃げろぉおっっ」
メルマルロードを見た人たちが恐怖におののき、逃げ惑う。
ああ、軍隊が押し入ってくるよりはましかもしれないけど、あたしたちも十分すぎるほど町に混乱をもたらしてしまっている。
「イムルアの民よ! 聞くがよい! 我らは偉大なる聖母さまの元に馳せ参じた使いのものである! この聖獣がその証なり!」
気がつくとエルクがあたしの後ろでぴんと背筋を伸ばし、短剣を高々と掲げている。
ボロ服をまとっていても、その凛々しい顔立ちと朗々と響く声に、人々は圧倒されていた。
ううん、あたしも正直目を丸くしていた。
だって、こんなに凛々しく威厳のあるエルクを見るのは、いつぞやの月下の剣舞以来だったから。
「さあ、早く我らを聖母さまの元に案内せよ!」
「せ、聖獣……確かにこんな奇妙な生き物見たことねえ……」
「魔物だったらあんなふうに人を乗せるわけねえし、これは本当に聖獣かも知れんぞ」
いい具合にエルクを聖母さまの使いと信じる人もいれば、疑わしげな眼を向ける人もいた。
「町の外で軍隊を見たぞ。こいつらもあいつらの仲間なんじゃないのか?」
「聖母さまを連れて行こうとしてるんじゃねえだろうな」
「そんな! 聖母さまに去られたら、イムルアはまたどん底の町に逆戻りだよ!」
あたしたちを遠巻きに眺める人たちは、あたしたちを聖母の使いと信じる人と疑う人で二分されている。
そしてどっちとも判断しかねていると言った感じだ。
しばらくすると、町の代表っぽい初老の男が歩み出てきた。
「あ、あんたらが聖母さまの使いだって言う証拠を見せてくれないか。聖母さまはいま、身重で動けない状態。胡乱な奴を会わせるわけにはいかん」
動けない状態って?
地脈の活性化といい、やっぱり出産が近いのかもしれないと思うと、あたしは焦りを覚える。
「聖母の名前はハル……加賀晴子」
あたしの言葉に男はハッとする。
「どうしてそれを……聖母ハルさまの名を知っている者は町にもいるが、カガハルコの名前を知る者は私くらいしかいないはず」
「聖母には夫が付き添っているわね。名は久雄、加賀久雄」
その言葉に男は完全に打ちのめされた様子だった。
ここは畳みかけるしかない。
いくら男が納得しても、それは彼だけが知る情報をあたしが知っていたということに過ぎない。それに納得しない町の人もいるだろう。
「エルク、農業魔法陣……持ってる?」
「あ、ああ? 害獣避けの他にはこんな簡易携帯用しかないけど……ユーリ?」
あたしは五寸釘サイズのそれを受取ると、メルマルロードから降りた。
そして自信に満ちた足取りで男の前にしゃがむと、魔法陣───植物の成長を促進する効果を持った魔法の杭を地面に突き立てた。
「い、いったい何をするつもり…………おぉおおお…………っっ」
「あぁあっ! く、草が……」
「奇跡じゃ、聖母さまと同じ奇跡の力じゃああっ」
地面に生えていたひょろひょろした雑草が、あたしが魔法杭を刺した途端、ざわざわと見る間に成長し始めたのだ。
この異常に活性化した地脈の上でなら、大地を走るエネルギーの流れは以前よりはっきり感じられた。あたしはそれを受取って魔法陣に流し、その力は周囲の草を驚異的な速度で成長させたのだった。
(どうしてだかわからないけど、あたしにも晴ちゃんにも地脈を操る力があるんだわ)
その光景を間近に見た人々はどよめき、中には跪いて祈り出すお爺さんまでいた。
手の中の魔法杭は熱いほど熱を帯びている。
「信じて……くれますね」
「わ、わかりました。あなた方は確かに聖母さまの使いの方々ですね。聖母さまは今朝方より産気づいたようで、いま産婆とヒサオさまが付き添っておられます」
「急いで案内して下さい! メルマルロード、ここでおとなしく待っていられる?」
『んん~っ、この果物美味しい~っ』
振り返るとさっきの一連の出来事に興奮して顔を上気させたエルク、そしていつの間にか町の子どもたちから果物をもらってそれをむしゃむしゃ食べている、いやしんぼうのゾウがいた。
「なにやってんのよ……まあいいわ。さあ、行きましょエルク!」
「ああ!」
そこは不思議な光に包まれていた。
イムルアの町の家々は言い方は悪いけどお世辞にも立派とは言えず、町全体が薄汚れていて衛生的ではない印象だった。
けれど、その建物のその一角だけは隅々まで掃除が行きとどいて、出来得る限り清潔で快適な環境が保たれていた。
建物の外ではひっきりなしに大鍋に湯が湧かされ、大量の布が煮沸消毒されて干されている。
あたしとエルクを案内してくれた男性によると、煮沸による消毒と水場を汚染しない、清潔な水による消毒などを徹底させたのが加賀久雄……あたしの兄だったらしい。
それこそ言葉も通じないのに、身振り手振りに絵を描いて説明したりと、必死だったそうだ。
「ヒサオさまの仰ることを実行した途端、病に苦しむ人の数が格段に減りました。それに加えて聖母さまの奇跡の力……我々はこのどん底の町で、もう一度生きる勇気を取り戻すことができたのです。なにもかも聖母さまとヒサオさまのおかげです」
まあ兄ちゃんのことだから、晴ちゃんを病気にするまいって一心だったんだろうな。
「それで、晴ちゃ……聖母さまは?」
あたしとエルクは、その不思議な光に包まれた部屋に通された。
そこには数名の産婆さんと思しき女性とたくさんのお湯の入った桶、そして…………そして、兄ちゃんにしっかりと手を握られ、うんうんといきんでいる晴ちゃんの姿があった。
「晴…………ちゃん…………」
「はい、もっといきんで! もう少し、もう少しで産道が開くよ!」
「晴子、がんばれ、がんばれ……って、百合花!? それにエルクくんも……いままでどこに行ってたんだお前たち!」
再会の喜びを噛みしめる間もなく、あたしは晴ちゃんに駆けよって、兄ちゃんと反対側の手をしっかり握って呼び掛けた。
「晴ちゃん、晴ちゃん! あたしだよ、百合花だよ、わかる?」
「あ、あぁ……百合花ちゃん、おひさしぶり……」
産気づいてからもう何時間経ってるんだろう。
産婆さんの汗びっしょりの顔を見るに、かなり難産しているみたい。
あたしはもちろん出産経験がないからその苦しみはわからないけど、いつも元気な晴ちゃんもさすがに疲労困憊、弱々しく笑みを浮かべるばかりだ。
「だ、大丈夫なんですか?」
と産婆さんに尋ねると、五〇代くらいのその女性は自らの産婆経験に裏打ちされた確かな笑みを浮かべて頷く。
「大丈夫、初産にしちゃよくやってるよ。ほうら、そろそろ頭が見えてくるころだ」
「晴子、しっかり、もう少しだぞ!」
「晴ちゃん!」
再びいきみ出す晴ちゃんを励ましていると、エルクがなにやら居心地悪そうにじわじわと部屋の出口に移動し始める。
「なにしてんの、エルクも晴ちゃんを励まして!」
「い、いやぁ~……ボ、ボクはなんというか、お邪魔じゃないかな、ここにいてもなにもできそうもないし」
あー。
(そう言われればエルクってうちの身内でもなんでもないんだし、晴ちゃんの出産に立ち会う意味ってないよな)
っていうか、晴ちゃんも顔見知りとはいえ、よその男性に立ち会われても困るだろう。
これはあたしが軽率だった、と反省する。
「晴子~っ! がんばれ晴子~っ!」
兄ちゃんはラルフに負けず劣らぬ愛妻家だから、恥ずかしいだの居心地悪いだのなんとも思ってなさそうで、必死に晴ちゃんの手を握って励ましてるんだけど。
「そそそそうだ、うちの騎馬隊とガフテスルの軍のことが気になる。あいつらに出産の邪魔をされたら一大事だ。ち、地脈のことも気になるし……ということで僕は外で待っているよ。は、晴さん、が、がんばってくださぁ~い……」
わかった、とエルクを見送ると、産婆さんが嬉しそうに声を上げる。
「ほい、頭が出たよ、もう一息だ」
「晴子~~~~ッッッ」
それにしても、出産が進むにつれ、周囲に溢れてくるこの不思議な光。
理屈はよくわからないけど、この光が地脈を活性化して、不毛の地イムルアに奇跡をもたらしたのは間違いない。
でも、どうして晴ちゃんにこんな力が宿っているのかは、あたしには見当もつかない。
けれど、いずれにしても晴ちゃんと兄ちゃんはこの町に留まるわけにはいかない。あたしも含めて三人で、元の世界に戻らなきゃいけないんだから。
いや───いまから生まれてくる子どもも含めて四人で、だ。
「晴子~~~~っ!」
「晴ちゃん~っ!」
「そらっ、出た!」
「双子だ、双子だよ!!」
違った─────────五人で、だ。