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名無しの物語  作者: こめ
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第七話 戦闘



・・・しかし、どうしたものか。


目の前・・・距離にして十メートルほどの場所に奴はいる。洞窟の中は意外に広い。が、隠れる場所もなく、残念なことに逃げ道もない。・・・ないことも無いが、天井から逃げる、と言うのはあまり現実的ではないだろう。



「はぁ・・・。」



溜息が出る。これなら町のチンピラを三十人位相手にしたほうが楽そうだ。なにせ、飛べるし、超高温の炎も吐ける。おそらく噛み付かれれば一発昇天確実。おまけに奴の外皮は硬い。先程叩かれて分かったのだが、殴る蹴るでは逆にこっちの手足が壊れてしまうだろう。となれば当然、間接などの比較軟らかい部分を狙うしかない。・・・のだが。



「やっぱ現実的じゃねぇよなあ・・・」



軟らかいと言ってもあくまで外皮に比べればまあ軟らかいだろう、というレベルだ。武器も無い、この生物に対する知識や経験も無い、更に逃げ道もないでは八方塞りも良い所だ。



「まぁ、それでも・・・。」



やるしかない。俺の死は直接野々香の死につながる。そんなことさせるわけにはいかない。

まずは・・・武器。なんでもいい。丁度足元に良い物があった。中程で割れた骨。おそらく奴に喰われた生物のものだろう。いい感じでとがっている。・・・なんか奥に人骨っぽいものが見えたが気にしない。怖いから。



あとは弱点。逃げられない以上戦うしかない。が、こればっかりは体当たりで探すしかない。・・・腹ををくくる。行くしか、無い!



「南無三・・・!!」



強者の余裕か、突然の来訪者に対する戸惑いか。今まで静観を保っていた赤竜は再度向かってくる人間に、



ギュオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!

 


吼える。が、怯まない。この瞬間。赤竜はトウマを 『敵』 と認知した。

と、同時に、



カアアアアアァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!



炎を、吐く。射線上から左へと飛ぶ。右側の髪がちりちりと焦げる。



グウウウウウウウウゥウゥゥゥゥゥゥ・・・・・・



赤竜がひるむ。見れば、いくつかの箇所から煙が出ている。あれほどの高温、やはり乱発はできないようだ。


「しめた・・・!」


赤竜の懐へと走る。勝機が見えた。

火炎は連発できない。更に放射後に隙が出来る。その上こいつはおそらく自分よりも遥かに小回りが利く相手とは戦い慣れていない―――――――


「うおおおっ!」


気合一発、懐へ飛び込み、骨を突き出す。ずぶり、と



ギィィィィィィィィ!!!



刺さった、が、赤竜が暴れる。跳ね飛ばされた。


「ちぃっ!」

「お兄ちゃん!」


野々香の悲鳴めいた声が聞こえる。大丈夫だ、と手で合図する。野々香のほうを向く余裕はない。



ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!



暴れている。骨は、まだ刺さってる。今しか、無い!!


「だあああああああああつ!!!!」


走る。一直線に。もう一度潜り込んで、中途半端に刺さった骨をぶち込んでやる!!



ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!



が、赤竜が血走った目を向ける。・・・まずい、あれはキレた目だ。

向き直り、口を限界まであける。直感的に理解した。全力の炎がくる。体は走ることに集中している。横に飛んでもたぶん避けられない。なら。




「あああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!





咆哮が、重なる。・・・そして、目の前が、赤く、染まった。













「う・・・そ・・・。」


嘘、だ。お兄ちゃんが、あの赤い竜の、炎に、飲まれ、た?

遠巻きに見ていた私には、そう見えた。赤い竜から真っ直ぐに、ボッカリとえぐれて真っ赤に焼けて、じゅうじゅうと石の床が溶け出している。煙と陽炎のせいではっきりとは確認できないが、人間があんな炎に触れれば、・・・きっと灰も残らない。


「だって、だいじょうぶだって、・・・言ったんだよ?無理はしないからって・・・。」


そんなはず、無い。そんなはず無いんだ。・・・でも、もし、あの炎に巻きこまれていたら・・・。

目の前が、にじむ。あれ、なんで・・・


「うそ、だよね?・・・おにぃ、ちゃん・・・。」


「ばかもの。あんまり泣くなっていつも言ってるだろ。」

「・・・え?」


声がした。急いで姿をさがす。・・・いた。煙でよく見えなかったけど、赤い竜の、お腹の下の辺り。


「ちゃんと体勢を整えなかったのが運のツキだったな。おかげで滑り込めた。」


と言うと、突き刺していた骨の柄を思いっきり蹴りこんだ。


ギィィィィアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!


赤竜が、吼える。と、ブシュウ、と紫色の血が噴き出した。それが、左目に入ってしまった。


「っつ、ぐっ!!」

「お兄ちゃん!?」

「だ、大丈夫だ!っぐ、左目が・・・。」

「お兄ちゃん!危ない!!」

「え?」


見れば、赤竜が倒れこんできていた。慌てて飛びずさる。


どおおおおぉぉぉぉぉおおん・・・・・・


・・・危なかった。野々香に言われなければ押し潰されていたかも知れない。その命の恩人のもとに走る。



「お兄ちゃん!大丈夫!?」

「なんとか、な。あー、本気で死ぬかと思った。」

「っ!・・・・・・お兄ちゃんの・・・馬鹿ぁ!!」

「へ?」

「バカバカバカバカ!!!!大バカーーーっ!!!!!」

「え。いや、ちょっと?」



妹が突然涙目で抗議してきた。・・・何故??



「ホントに、心配、したんだからねっ・・・!」

「・・・あー。」



そうか。そういうことか。半泣きで怒る妹の頭を優しくなでる。



「あ・・・う・・・。」

「悪い。・・・心配かけた。」

「心配かけた、じゃないよ。お兄ちゃん、体中火傷だらけじゃない!それに目に、血が・・・。」

「?野々香、どうした?」

「お兄ちゃん・・・うしろ・・・!」




・・・まさか。・・・恐る恐る振り返る。そこには、ゆっくりと起き上がる赤き竜の姿があった・・・




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