第六話 決意新たに
・・・・・・交通事故だった。ちょとした不注意で、あっさりと両親は亡くなってしまった。
野々香は部屋に閉じこもった。ドアには鍵がかけられ、呼んでも返事すらない。食事を持って部屋の前に置いておいても、ほとんど手を付けた跡はなかった。
そんな状態が続いた三日目の晩。夕飯の回収をする為野々香の部屋の前へとやってきた。・・・やはりほとんど手を付けていない。野々香は大丈夫なのだろうか。・・・と、おかしな事に気がついた。
・・・確かに有ったはずの、フォークが、無い。
さぁっ、と、血の気が引いた。ドアノブを捻る。鍵は開いていた。・・・暗い。だけど、そこにはっきりと。
ベッドに座って、フォークを首に突きつけた、野々香の姿が。
何かを言うより先に、掴み掛った。
「っの、馬鹿!!なにしてるんだ!!!」
「!! は、離して!離してよ!!」
必死でフォークを奪おうとする。そうしてとっくみあってる内に、ざく、と、フォークが手に刺さった。
「つっ!!」
「あ・・・。」
痛い。血が出る。と、野々香はフォークを奪おうとするのをやめていた。
「あ・・・ああ・・・。」
「くっ・・・、野々香?」
「・・・・・さい。」
「え?」
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・!!」
「え、え?野々香?」
突然、謝りだした。たしかにフォークは刺さってしまったが、それほど深く刺さった訳でもない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・!」
「野々香、この位なんともないって。」
「謝るから、もうわがままも言わないし、お兄ちゃんには絶対迷惑かけない!だから、だからぁ、」
必死の形相で言い寄ってくる。訳が解らない。
「どうしたんだよ。いったい。」
「だから、いなくならないで!」
「・・・え?」
「お兄ちゃんまで居なくなったら、私、たえられない!お願い、お願いだからぁ!!・・・う、うぇぇぇぇぇぇ・・・。」
とうとう泣きはじめてしまった。おもいっきりしがみついてくる。
「おにいちゃぁん、いなくなっちゃ、やだぁぁぁぁ!!」
「お、おい。おちつけ、落ち着けってば!!」
・・・野々香が落ち着くまで結構な時間がかかった。ぐすぐすとしゃくりあげながら、野々香は事の経緯を話してくれた。
「・・・じゃあ、なにか?お前は俺が居なくなったりするのが嫌で、だったら自分が先にっ、て、おもった、ってのか?」
「う、うん・・・。」
「・・・はぁ。この、馬鹿。」
「・・・ごめんなさい。」
「心配しなくても、俺は居なくなったりしないよ。約束しただろ?俺は野々香を守る、って。野々香が嫌がらない限り、ずっと一緒に居るよ。」
「・・・ほんと・・・?」
「ああ、ホントだ。絶対だ。約束する。」
ぱあああ、っと野々香の顔が明るくなった。優しく、頭をなでる。
「父さんも、母さんも居なくなっちまったけど、・・・心配すんな。どうにか、してみせるから。」
「・・・うん。お父さんやお母さんが居ないのは寂しいけど・・・お兄ちゃんが居てくれれば、私は、大丈夫だから・・・。」
良かった。とりあえずは、これで大丈夫だろう。と、ぐううううう、なんて音がした。
「・・・くっ、あはははははは!」
「うう、そ、そんなに笑わないでよぅ。」
「くっく、いや、悪い悪い。夕飯、食べるか?」
「うん。・・・ごめんね。ご飯、用意してくれてたのに。」
「気にするな。その位、お安い御用だ。」
「・・・お兄ちゃん。」
「ん?」
「・・・・・・ありがとう。」
この時、決めた。・・・強く、強くなる、と。野々香を守るために。どんなやつが来ても守れるように。俺を必要としなくなるその時まで、・・・一緒に居る為に。
その後俺達兄妹は祖父の家に引き取られた。そして俺は特訓を開始した。基礎体力の向上を中心に、色々とトレーニングに励んだ。そして意外な事に、祖父はなにやら得体の知れない古武術を会得していたらしく、俺の話を聞いてからと言うもの、進んで戦い方を教えてくれた。
ただ必死に。強くなる為に。祖父が亡くなってからも鍛え続けた。
・・・あれ?
俺はいったい何で、こんな事を思い出してるんだ?
「・・・ぃちゃん!・・・にいちゃん!!しっかりして!」
「・・・あ?のの、か・・・?」
「お兄ちゃん!!」
そうだ、俺は・・・あのドラゴンに突っ込んでいって、・・・あっさり弾き飛ばされて、・・・壁に叩きつけられて、気絶していた。・・・のか?
「っぐ!ぁ・・・。」
起き上がろうとして、全身が、痛む。吹き飛ばされたのは間違いない。・・・ヤツは・・・いた。正面、5〜6メートル。口を大きく開けて、炎を、
「嘘だろ・・・!!」
オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
吐いた。野々香を抱きかかえて横に飛ぶ。体が痛いなんて言ってられない。
「きゃあああああっ!!!」
寸でのところで炎をかわす。見れば、先程まで居た場所は赤くじゅうじゅうと溶け出している。もし直撃していたら火傷では済まなかっただろう。
「・・・洒落にならんな・・・。」
俺はこんな化け物に向かって突っ込んで言ったのか・・・?
「くぅ・・・・・・。」
「お兄ちゃん・・・。」
なんて・・・なんて無様。相手の力量も手の内も知らないのに無防備に突っ込むなんざ・・・死ななかったのは僥倖としか言いようが無い。
「野々香・・・離れててくれ。」
「で、でも・・・。」
「大丈夫。さっきみたいな真似は二度としない。だから・・・な?」
「・・・うん。わかった。・・・無茶は、しないでね?」
こんなヤツ相手にしてる時点で十分に無茶だが・・・それでも、うなずく。
「ああ。・・・まかせろ。」
そう言って向き直る。律儀にも待っていたのか、うねるように吼える。
オオオオオオオオオオォォォォォォ・・・・・・・・・
「さぁ、て。どうするかな。」
野々香を守るために。自分が死なない為に。
再び、規格外の存在へと、向き直った。
ようやく戦闘再開。知り合いからは唐突過ぎだといわれました。・・・ですよねぇ。(笑)え〜、・・・叱咤激励、お待ちしてます。