第三十四話〜追跡〜
えー、言うことは特に有りません。言ったところで一年と半年更新してなかった事実は変わらないので・・・。楽しみにしてた方申し訳ありません。兎も角も、再び始まりました。少しでも楽しんでいただければ、幸いです。<(_ _)>
(・・・暗いな。コレじゃ何かあっても対処できるかどうか・・・)
薄暗い隠し通路をゆっくりと進んでいく。ロウソクのような光源が所々に有ったものの、そもそもあのイスにのって移動するためかその明るさは酷く頼りない物だった。幸いな事と言えば別れ道らしき物は見当たらないことと、イスが通っていったのであろうレールらしきものが有ることだろうか。
(野々香の声も聞こえない・・・あのイス、相当速く移動するのか・・・?)
一刻も早く野々香の元へ駆けつけたかったが、視界が狭く、道も悪い。オマケに隠し通路の内部に正規の移動方法以外で侵入している以上、何も無いとは思えなかった。と、不意にトウマの視界が白んだ。
「うぉっ!?なん・・・」
足元が急激に輝いていた。青白い光。目が眩んではっきりと確認できなかったが、丸い円に何やらよく分からない文字が、
「だぁあっ!!」
慌てて前へ飛ぶ。直後、輝く円から巨大な氷柱が飛び出した。もう少し遅れていれば串刺しにされていただろう。冷やりとした汗がトウマの頬を伝った。
「あっぶねぇ・・・当たり前だけど容赦ねぇなぁ。」
ほっとしたのも束の間、進行方向に沿って同じような円が現れ始める。円の色は、赤い。何が来るのかとトウマが身構えると、
ぬぅっ、と、まるで地面から生えてくるように、円から巨大な黒い腕が飛び出した。
「・・・・・・・は?」
トウマが呆気にとられていると、腕の次は胴体が、腰が、そして両脚が。下から持ち上げられるかのように現れる。ずんぐりとした巨体。ハタから見れば人間のような形をしていたが、彼らには首から上が無かった。人間で言うところの胸の辺りに、ぽぅ、と、赤い光が二つ宿る。
「ゴ・・・ギギ・・・ガガガ・・・・。」
「何だコイツ・・・?」
「タイショウヲ・・・カクニ・・ン・・・ハイジョ・・・カイシ・・・」
口らしきものは見当たらなかったが、何事かしゃべった謎の巨人。そしてしゃべり終わるや否や拳を振り上げ猛然とトウマに襲い掛かる。
「な、なんだかよく分からんが、邪魔するなら容赦せんぞ!」
振り下ろされる大振りな一撃を軽くかわし、相手の腹部めがけて吹き飛ばすように蹴りを放つ。吹き飛びこそしなかったものの、大きく後退する。
「ギギギギ!!ギ、ソンショウ、テキセンリョク、ミチスウ、」
(こいつ・・・なんだ?手応えが妙だ。どう見ても生物には見えないが・・・。)
「プランCヘイコウシマス・・・」
「っだーもう!野々香が待ってんだ!細かいことは、ぶっ飛ばしてから考える!!」
謎の巨人へと一気に突っ込むトウマ。その動きに合わせ、巨人が再び振りかぶる。だが、止まらない。振り下ろされる巨拳。今度は避けようともしない。拳が直撃するよりも早く、全体重を乗せた肘打ちを叩き込む。
「ギッ!?」
それにより体制を崩す巨人。どうにか持ち直し、その赤い目が捕らえたのは、大きく振りかぶる標的の姿。
「どっらぁぁぁぁぁっ!!」
渾身の一撃。巨人は更に後ろへと押し込まれる。まだトウマは止まらない。更に間合いを詰め懐に入ると、斜め上へと持ち上げるように乱打を始める。
「ギギ、ギ、ソンショウ、ゾウダイ。」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」
「ギ・・・ギガ・・・ソン、ゴガガガ・・・・!」
びしり、みしり。乱打を繰り返すうち、巨人の体のあちこちに亀裂が入っていく。不意に乱打が止んだ。
「ギ・・・ガ・・・・。」
「おおおおぉぉぉぉ・・・・」
弓矢を放つかのように、右腕をを引き絞る。限界まで引き、狙いを定め、放つ。
「オラァァッ!!!」
渾身の右ストレート。右腕が巨人の胴体を粉砕する。
「リミ・・・ットオー・・・・キノ・・・テイ、シ・・・・」
ガラガラと崩れ落ちる巨人。トウマはその破片を手にとってみた。
「石・・・?いや、こりゃ土の塊か?」
恐らく、ゴーレム、というやつだろう。と、トウマは思った。土や石の塊に魔力を与えて動かす物だ。余り知能は高くなく、簡単な命令位しかこなせないらしい、とどこかで読んだ覚えがあった。
「罠に番人、ね・・・こりゃいよいよ持って当たりみたいだな。野々香の事も気になる。急がにゃ・・・!」
と、駆け出そうとした時だった。ガシリ、と硬く冷たい何かに足を掴まれる。足元は赤く輝き始めていた。
「ち、こちとら急いでるって・・・」
言い終わるよりも早く、一つ、又一つと赤い円が現れる。薄暗い通路が赤い光で満たされていった。
「おいおいおいおい・・・。勘弁してくれよ・・・。」
「ううう・・・と、止まった・・・?」
トウマがゴーレムと戦っていた頃、ジェットコースターの如く野々香を連れまわしていたイスは目的地に辿り着いていた。野々香は目尻にたまった涙をぬぐいフラフラと立ち上がり、周りを見渡した。
「ここ・・・何処なんだろう。こんな仕掛けが有ったからには、何も無いって事は無いと思うんだけど・・・。」
雰囲気としては先ほどの書斎と似たような場所だった。ただし書斎と違うのは、回りに窓が無く、光源は通ってきた道にあった薄暗い明かりが幾つかあるだけ。それにフラスコっぽい実験器具やら何やらが散乱している所だった。そして何より一番の相違点が、
「何アレ・・・?」
部屋の中央に置かれた人一人ぐらいなら余裕で入ってしまいそうな巨大な木箱だった。木箱はは六角形を下に伸ばしたような形になっており、考えたくは無かったが、まるで棺のようだった。ふと、昨晩トウマが言っていたことを思い出す。そういえば此処は吸血鬼が出るらしい。
「か、考えすぎだよね。幾らなんでも吸血鬼だなんて・・・。」
居るわけが無い、とは言い切れなかった。ここは自分たちが居た世界ではない。鬼が出ても蛇がでても不思議ではないのだ。事実、トウマは不思議パワーを手に入れているし、一緒に暮らすようになったユイとムイに関しては獣の尻尾と耳がある。それこそ吸血鬼ぐらい居てもおかしくは無い。
「気味が悪いなぁ・・・お兄ちゃん、来てくれないかな・・・。」
来るときに通った入り口の扉は押しても引いてもビクともしなかった。どうやらイスに乗って移動しなければ開かない仕組みらしい。が、もう一度このイスに乗ることは絶対に嫌だった。彼女は恐怖系の乗り物が大の苦手だからである。ここに来るまで壊れそうなイスに必死でしがみつき、狭い通路を右に左に振り回されながら辿り着いたのだ。なんと言われようとも再びあの恐怖を体験したくは無かった。
「考えても仕方ないか。探し物が無いかどうか、探してみよう。」
「はぁ、はぁ。くっそ、こいつら何体出て来るんだよ!?」
先程のゴーレムに加え、ライオンとワニを足して2で割ったような奇怪な生物にやたらでかいコウモリ、ネズミ、虫っぽいのに加え、炎、氷、水、雷の魔方陣に罠がドッサリ。まともに相手をしていたら何時までたっても終わらない為、全力でひた走っていた。前から現れるネズミを蹴飛ばし、コウモリを殴り飛ばし、虫っぽいのは踏みつけ、ゴーレムの脇をすり抜け、キマイラを飛び越え、次々と発動する罠を必死でかいくぐりながら。
「それにこの洞窟何処まで続いてんだ。もう結構走った、ぞ!」
前方から打ち出されてきた粘着性たっぷりの水弾を身を屈めて避ける。するとそれが後ろからトウマを追いかけてきていたキマイラの顔面に命中。視界を塞がれバランスを崩し転倒し、それに躓いて他の後続がバタバタと倒れていく。なかなか悲惨な状況ではあったが、トウマにそれを構っている余裕は無い。
「く、ここがこんなだってのに、野々香は無事なのか・・・?野々香―――!!!聞こえてたら返事しろーーーーーっ!!!!!」
不安が募る。一刻も早く先に進まなくては。もし、もしも何かあったら俺は・・・
・・・おにいちゃーーーーーん・・・・
「っ!・・・今のは・・・野々香の声か!」
後続はまだ来ていない。速度を緩めてもう一度叫ぶ。
「野々香―――!!無事かーーーーつ!?」
・・・助けてーーーー!・・・
トウマの思考が一時停止し、足が止まる。
(今、今なんて言ったオチツケ、・・・タスケテ?助けて・・・?今、野々香は、ココデアシヲトメテハ助けを呼ばなければならない状況に陥ってるって言うのか!?何だ、何があったんだ、野々香の所にもこいつらが、マズイだとしたら、だとしたらだとしたら)
強い衝撃。新たに現れたゴーレムがトウマに突撃してきたのだ。強制的に思考が引き戻される。ゴーレムは止まらず、自分ごと壁に激突する。更に2体3体と次々と現れ、トウマを壁に押し止めようと突撃し始める。
「がぁっ!く、この位・・・!」
トウマが力任せにゴーレム達を押し返そうとした時だった。ゴーレム達が青白く輝き始める。
「何、だ?・・・この色は・・・まさか!」
ゴーレムの体が急速に冷えていく。なんとかもがいて脱出しようとするが、間に合わない。
「まずっ・・・・!!」
ビキビキビキビキビキィィッ!!!!
トウマの言葉よりも早く、辺り一面に爆発するかのように巨大な氷柱が幾本も跳び出した。
シュウン、と、もう1体ゴーレムが現れる。彼は凍りついた一帯に目を向ける。
「ギギ・・・シンニュウシャノハイジョ・・・カンリョウ・・・。ゲキタイプログラムヲテイシ・・・」
・・・・・・しゅうううううぅぅぅ・・・・・
「・・・?イオンハッセイ・・・ゲンインのトクテイヲカイシシマス・・・・」
ゴーレムが音の発生源を探す。ぐるり、ぐるりと見渡すが、何もない。侵入者は・・・同胞と共に凍り付いている。突撃したゴーレム達に仕込まれていた魔法は強力な物で、言わば自爆に近かったがそのぶん威力は折り紙つきだ。あの距離で受けて生きているはずもない。はずも無いのだが・・・
キシキシキシキシ・・・ミチミチ・・・ビキッ!!
氷柱に亀裂が入る。しゅうしゅうという音が、爆心地の中央から聞こえてくる。
「ギギ・・・・ネツゲン、タンチ。イジョウジタイハッセイ」
次々に氷柱に亀裂が入っていく。ミチミチと音を立てて、少しづつ解けていく。ゴン!!という鈍い音がした。中で何かが暴れているのだ。
「ゴガガ・・・ゲキタイプログラムサイキドウ・・・テキセンリョク、ソクテイフノウ」
更に二度、三度と音が響き、四度目で氷柱が砕け散った。中から出てきたのは先の侵入者だった。だが、明らかに今までとは違う。
「どけ・・・。」
「ギ・・・?」
彼には反応すら出来なかった。気が付いたら侵入者は懐に居て。次の瞬間には彼の意識は消し飛んでいた。文字道理に。彼が最後に見たのは、赤い、光。
「野々香・・・!」
竜眼を解放し、今までとは比べ物にならない速度で暗闇の中を駆け抜ける。
(頼む、無事で居てくれ・・・・!)
自分の不安が現実にならないよう、一心に祈りながら。