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名無しの物語  作者: こめ
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第三十二話〜それから、そして。〜



武闘大会から三日経った。



あの後表彰式のような物があり、トウマは武闘大会優勝者の栄光と賞金を手に入れ、グランベルドで一躍有名人となった。

更に、クレアに自分達は別の世界から来た為右も左も分からない、という事を話すと、こんなトンデモ話にも関わらずアッサリと信じてくれた上にしばらく生活するための家まで用意してくれたのである。恐らくは葉山の前例があるからかもしれないが随分と気前の良い話だった。


それと、ヨシュアは結局見つかることは無かった。舞台の上でマントと共に転がっていたのは本物のアイカーワ・バッカティだったのだ。どうも随分と手の込んだ幻術が掛けられていたらしく、ほとんど誰もヨシュアの存在に気づいた者は居なかった。





そして。





ヴォン!!


「くぅっ!」


竜巻の様な戦斧の一撃をトウマは寸分で回避する。


「流石に素早いな、トウマよ。」


止まることなく二撃、三撃と打ち込みながら戦斧の主、ライオードは笑う。


「怪我人のくせに、あんまり踏ん張ると又看護婦さんに怒られるぜ!?」

「慣れたものよ。ワシは動いたほうが治りが早いのだ!」


軽口を叩き合いながらトウマはライオードの攻撃を受け、いなし、回避していく。

何故こんな事になっているのか。理由は簡単だ。トウマがライオードの見舞いに行くと、あれだけ串刺しにされたはずのライオードはピンピンしていた。挙句体を動かしたいから付き合えと言い出した。この世界に来てからというもの、剣や斧との戦い方にも慣れておきたいと常々思っていたトウマは快く承諾し、今に至る、という訳である。


その様子を木陰からハラハラと見守る影が二つ。野々香とユイだ。見舞いと言われて昼ごはん用の弁当を作って来てみれば、笑いながら戦っている二人がいたのだ。


「・・・!・・・っ!」

「あぶ・・・!あぁ、もぅ!!」


かと言えここで声をかければ事故がおきないとも限らない。なにせライオードが使っているのは大会の本戦でも使われていた本物の鋼鉄で出来た巨大な斧なのだ。もし注意がそれて直撃でもしようものなら間違いなく大惨事だ。トウマがすれすれで回避しているのもあいまって、悲鳴を上げそうになるのを必死でこらえている二人だった。













「アイツラ元気だな〜全く。」


グランベルドの王城の一角で、ベッドに寝かされているミイラ男がぼやいた。ミイラ男は右腕の肘から先だけを動かし、秘書らしき人が差し出してくる書類にぺったんぺったんと判子を押していた。


「大佐ぁ?無駄口叩かねーでちゃっちゃ仕事しやがれっス。書類はまだまだ有るんでスよー?」

「るせー。こちとら普通に直したら全治半年クラスだぞ。青スライム足りなくて右腕と顔しか動かねぇってのに仕事してんだぞ。褒められこそすれ文句を言われる憶えはねぇ!!」

「全部自業自得じゃないでスか。休日出勤させられてるこっちの身にもなれっス。」


そう。このミイラ男、もとい葉山が処理している書類は全て自分が起こしたことの始末書であった。(強化鎧の報告書、その損失etc)


「後で飯を奢ってやるって言ったら食いついたのはオマエだろうが。たく、ムイっちといい、ハーフは大飯喰らいが多いのか?」

「なんだとー。前回のは初めて大佐が奢ってくれるって言うからちょっと限界に挑戦しただけじゃないでスか。」

「10杯もおかわりしといてちょっととかイウナ。しかも俺が無理矢理止めなきゃまだ食う気まんまんだったじゃねーか。」

「当たり前じゃないでスか。」

「なんでやねん!このネコ!!ぐ!あた、あたたたた・・・。」

「ほら〜。無理しちゃダメでスよ?」

「く・・・。まるで俺がダダっ子のようだ・・・。」


ネコと呼ばれた女性はこういうやり取りに慣れているのか特に気にした風もなく次の書類の準備を始める。葉山が口にした通り、彼女は猫と人のハーフなのだろう。猫の耳がまれにぴくぴくと動き、長い尻尾は一定のペースでゆらゆらと左右に揺れていた。


「ったく。すっかり生意気になりやがって。」

「だれかさんのおかげっス。これでもそれなりに感謝してるんスよ?はい次の書類。」

「おぅ。・・・ふむ。これは開発に回しといてくれ。」

「はいはい〜了解っス。」




・・・だだだだだだだだだ・・・・     はーやまーーーーーー・・・・




「ん?何の音だ?」

「何でスかね?なんか段々近づいてるような・・・?」


と、バァン!と勢いよく部屋の扉が打ち開かれた。


「はやまー?ここー?」


開いた扉の前には、小柄な赤毛の少女、ムイが立っていた。


「おームイっちじゃないか。どうした?」

「ん?お知り合いでスか?」

「ああ。外でおっさんと戯れてるトウマんトコの子だ。」

「ほほぉ!あの武闘大会優勝者の!?これは是非お近づきになっときたいッス!」


猫娘は眼をきらきらと輝かせると、ムイの傍へササッとにじり寄った。


「む?おねーさんダレ?」

「私は大佐のお手伝いをしてるシェラと言う者ッス。よろしくッス。」

「ボクムイ!よろしくっすー!」


何か通じ合う物があるのか、笑顔でぶんぶんと握手を交わす二人。


「おほ〜。元気があって大変よろしいッス!で、こんな所に何の用でスか?」

「こんな所って言うなよ・・・。」

「うん!えっとね・・・はいこれ!」


葉山の突っ込みをサラっとスルーして、ムイはシェラに一通の手紙を手渡した。


「うん?手紙でスか?」

「ごしゅじんさまがハヤマに渡せって。」

「おーお使いでスか〜。偉いッスね〜。」

「えへへ〜。」


シェラはムイの頭をナデナデすると、受け取った手紙の封を切り、葉山に手渡した。


「はい大佐。どうぞッス。」

「おぅ。・・・ん〜?なんだこりゃあ。」


難しい顔で手紙を見つめる葉山。

と、ムイがトコトコと葉山に近づいて行って、


「わーハヤマほうたいぐるぐるー!」


おもむろに葉山をつつきだした。


「ぎゃあああぁぁあ!?や、やめ痛ぁ!」

「おもしろーい!つん、つーん!」

「こらこら〜。一応怪我人なんだから安静にしてあげなきゃダメッスよ〜。」

「は〜い。・・・つーん。」

「痛いから!マジ痛いから勘弁して下さい!!」













「なんじゃと?やはり一切の記録が無い?」

「はい・・。大会の数日前にグランベルドに入った、という所までは確認できたのですが、それ以前の経歴については全く・・・。」

「ふむ・・・。では、いよいよ異世界とやらの話になってくるのかのぅ・・・。」

葉山の執務室とは又違う一角で、クレアとその部下であろう者が話している。だがクレアの話し相手の姿は全く見えなかった。


「そんなこと、有り得るのでしょうか?異世界などと・・・俄かには信じられません。」

「妾とて頭から信じている訳ではない。だが、お主等の情報収集能力から見ても、葉山やトウマの素性が全く知れぬというのはおかしいだろう?」

「勿体無きお言葉・・・。」

「ともかく今は彼らを逃さぬ事の方が重要だ。諜報活動を継続しつつ、もし彼等の近辺で面倒ごとがあれば可能な限り排除してやってくれ。」

「は。それでは失礼します。」

「うむ。又何かあれば報告せよ。」


気配が消える。クレアは窓の外を見つめながら楽しくて仕方が無い様な笑みを浮かべていた。






グランベルドは平和だった。一大イベントも無事終わり、トウマ達という新参者も向かえ、十二分に平和だった。竜に守られるこの国に攻め込もうなどという勢力も無い。この平和は破られるはずは無い。









はずだった。





グランベルドからはるか北、そこに小さな農村があった。

その村は元々貴族が治めていた土地だった。村長はその貴族の血を引いていたが、家は当の昔に没落し、今となっては貴族時代の蔵書がある位だった。


この村もおおむね平和であった。問題といえば稀にやって来ては畑を荒らすイノシシ位だった。


その日は朝から何か妙な雰囲気だった。空は良く晴れていい天気なのだが、家畜は暴れる、元気に育っていたはずの作物はしおれ、村を流れる小川には魚も居ない。


村人達はなにか嫌なことでも起こるのでは無いかと口々に噂した。だがそれでも仕事を休む訳にも行かない。皆不安がりながらもいつもの様に農作業を続けていた。


そのとき、村長の家から絶叫が響いた。


直感的に何か恐ろしいことが起きたのではないかと感づいた村人達は、身近に合ったクワやスキを手に、村長宅へと集まった。

村人達は手に手に武器を取り震えながら村長の家を取り囲む。だが誰一人家に踏み込もうとはしない。村長宅から異様な音が聞こえるからだ。


ぶちぶち、と何かを引き千切る様な音

ずるずる、と何かを引きずる様な音

じゅるじゅる、と何かをすする様な音


ここはいたって平和な村だ。しかしそれでも数年に一度は強力な魔物が現れ村を荒らすことがあった。その度に村は大きな被害を出していたし、最悪の場合村を捨てて逃げなければならない事も村人達は理解していた。しかしここは彼らの先代、先々代から受け継いできた大切な土地だ。今居る者の未来の為にも、そう簡単に諦めるつもりは毛頭無かった。


だからこそ、村長宅の扉が開いたとき全員が身構え、出てきたモノを確認して全員が唖然となった。


にこやかな笑顔と共に、村長の息子が出てきたからだ。


「やぁ皆。おはよう。」


そんな言葉を投げかけてくる。村人は誰も答えない。その様子に少しむっとしたのか、


「どうしたのさ皆。ローグさん畑はいいのかい?ジェントさんも。今月の納期ももうすぐだよ?」


誰も答えない。答えられないのだ。目の前の光景が、余りにも異常で。

出てきた村長の息子は、赤い染料をぶちまけたかの様な服を着ていた。上も下も赤い。手も足も赤い。赤黒いと言った方が良いかもしれない。

口の周りはミートスパゲッティーを食べた小さな子供のようだった。彼の足元も、次第に赤くなっていく。服を染めている染料が漏れているのだ。そして今は見えないが、きっと家の中も。

眼が覚めるような赤、という表現があるが、彼のそれは吐気をもよおす様な赤だった。


村人達は震えていた。漂ってくる臭気のせいでその赤が何の赤なのか分かってしまったから。武器をす捨てて逃げろという本能の警告と、こいつに背を見せてはいけないという理性がせめぎ合い、何も出来ないでいた。


「あー・・・ところでさ、お腹すかない?」


少し照れながらそんな事を言ってくる。

村人達は訳が分からなかった。少なくとも今、そんな事を言っている場合では、


「いや〜朝ごはん足りなくってさ。・・・食べても、いい?」


その言葉の意味を理解した村人たちの内数名は武器を捨て逃げようとした。数名は腰を抜かして倒れこもうとした。残る村人は悲鳴を上げようとした。


が、そのいずれよりも早く。





「いただきます。」





化け物が、口をひらいた。










数分後、かれは自分の指に付いていたモノを舐めていた。指に付いてしまった蜂蜜を舐めるように。


「さて・・・これからどうしようかな?」


空を仰ぐ。雲ひとつ無い晴天だった。


とりあえず彼は南を目指すことにした。南に向かっていけば大きな町もある。食べ物に困ることは無いだろう。







「う〜ん・・・楽しみだなぁ。」







よく晴れた青空の下に。

一人の災害が、北の地より南下を始めた。


ハイどうもお久しぶりです超ゴメンナサイ!!前回更新が訳3ヶ月前・・・3ヶ月!?某跳躍の人気有るのに書かない漫画家もびっくり・・・は、しないな。流石に。

ともかくようやく三十二話。名無しもやっと第一部が終わった、的な所です。

今回の更新から外伝も始めました。ショートショートなのでさらっと読めると思います。え、はなから大して書いてない?・・・・・・・・。( iдi )


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