第二十六話 武闘祭、閑話。
武闘大会予選会場控え室。そこに、すらりとした青年が壁にもたれて立っていた。その青年に、やや小柄な少女がわたわたと話し掛けている。
「た、隊長!ほ、本当に出場なさるんですか!?今からでも遅くは有りません、考え直して・・・!」
「ん〜、でももうすぐ始まるし。僕もまぁそこそこは強いと思うから、心配ないよ。あと隊長はやめてってば。」
「あ!す、すいませ・・・じゃなくて!その、もし怪我でもしたらどうするんですか!」
「その時は君がどうにかしてくれるだろう?」
「あ、いや・・・で、でもですね・・・!」
『まもなく予選第三組を始めます。選手の方は・・・。』
「お。時間か。じゃ、行ってくるよ。」
「あ!待ってください、隊長ってば!!隊長ーーーっ!!」
「おいしーーーっ♪」
もぐもぐぱくぱく、木製のナイフとフォークを握り締め、えらい勢いで料理を食べていくムイ。一応つけておいたナプキンももはや白い所の方が少ない。
「ああもう、そんな慌てなくても料理は逃げやしないって。ほら口拭いて。」
「だって、これすごくおいしいよ?いっぱい食べたいもん!」
「わかったわかった。わかったからじっとしてなさい。・・・よっ、と。」
「むー。むぅーーー。」
「あ〜、ムイちゃん。よかったら、私の分食べる?」
「ホント!?わーい!野々香ちゃん好きーーー!」
「・・・もぐもぐ。」
「・・・よく食べるのぅ。お主は。」
ここは会場近くの酒場。予選が終わって野々香達の所に戻ると、そこにはなぜかクレアが。
「うむ。よくやったの、トウマ!さすが妾が目をかけた男じゃ。」
やたら上機嫌なクレアに誘われ、本選は明日からだし皆で食事に行こう、と言う事になった。が、当然ながら王女を何処の馬の骨とも知れない一行に同行させるわけにもいかず。
「うおおぉぉぉぉ・・・。こ、今月の給料がぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・。」
葉山が同行することになった。ちなみに食費は葉山持ちだ。
「情けない声をだすな葉山。せっかく今回の働きに対してボーナスを出してやろうと言うのに。」
「まじっスか!!それならそうといってくださいっス!」
「鯖を二匹ほど。」
「少なっ!?そりゃねーッスよ!あんたいったいどこの極悪非道ペチャパイ魔神ッスか!!??」
ごすっ
「さて。そんなことはさておきトウマよ。」
「あ、ああ・・・。」
うしろで人中に突きを食らった葉山がいたーいいたーいとうなっているが、まあほっといて大丈夫だろう。葉山だし。
「おぬしに渡したい物があるのだ。」
「渡したい物?」
「うむ。これじゃ。」
そう言って、床においてあった木箱から何かを取り出し、ごとり、と机に置いた。
「これは・・・小手、か?」
「うむ。わが国が誇る武具屋に取りよさせた一級品じゃぞ?心してつかうがよい。」
渡された小手を手にとる。ふむ。軽いし、かなり丈夫な素材で出来ている。装飾も派手な物じゃない。扱いやすさを重視した良品のようだ。サイズも問題ない。
「けど、いいのか?特定の人物に肩入れしちゃ、まずいんじゃないのか?」
「なに。ここは葉山が経営しておる情報屋も兼ねておる。今は貸切状態じゃし、もともとこれはお主の為に葉山が用意した物じゃ。問題なかろう。」
「ああ・・・そう言えば結局取りにいってなかったもんなぁ・・・。」
大暴れしたせいで街中にでにくかっただけだが。それにしても情報屋とは・・・葉山の奴、ずいぶん好き勝手やってるみたいだな。
「ありがとう。使わせてもらうよ。」
「なに、気にするな。お主には頑張ってもらわねばならんからのぅ。」
むふふふ、となにやらふくみのある笑いをこぼす。
「・・・まぁ、応援してもらってるみたいだからいいけどな。」
「ん?何か言ったか?」
「いーや。独り言だ。」
「そうか。さて、妾はそろそろ戻る。主役が何時までも不在では、盛り上がるまい。」
「だな。気を付けて戻れよ。」
「うむ。お供を外で待たせておるから問題ない。ではな。」
最後に一言、頑張るのじゃぞ、と残してクレアは酒場からでていった。
「・・・ふう。ずいぶんと行動派なんだな。ここの王女様は。」
「あ?ああ。まぁ、な。」
さっきからムイと財布を交互に見つめる葉山に声をかける。
「ん?どうした。」
「・・・いや。ウチの姫様はな、確かに行動派で人懐っこくて好かれ易いが、ここまで入れ込んでるのは珍しいな、と思ってよ。・・・お前、なんかしたのか?」
「いいや?ちょっと前に会って2〜3言葉を交わしただけだが?」
「ふぅん・・・。ま、俺としては仲良くして欲しいんだがな。」
「ほう?珍しいな。お前がそんな事言うなんて。」
「おう。なんせお前と姫様がくっついてくれれば俺は安心して野々」
どごすっ
「心配するな。基本的にはつべこべ言わんが、お前だけは断固拒否だ。・・・って聞いちゃいないか。」
床で葉山が本日二度目の人中突きを喰らって悶絶しているが、とりあえず放置。葉山だし。
「ところで、だ。」
「ん?」
一通り食事を終え、食後のお茶を飲んでいると、葉山が話かけてきた。
「お前、この世界に来てどの位なんだ?」
「・・・大体一週間、ってとこだな。」
「ふむ・・・。俺は約三ヶ月だ。・・・ん〜、やっぱりこのセカイと向こうでは妙な時差があるのか・・・あるいは時空を隔てているのか・・・。」
なにやらぶつぶつと独り言をつぶやきはじめる葉山。
「何の話だ?」
「何って。元の世界に帰る方法を考えてるんだよ。色々と王宮の研究者にも依頼してるんだが、遅々として進まなくてな。」
「帰る・・・?あ、そうか。帰らにゃならんのか、俺達。」
「おいおい。まさか、今まで一度も帰ろう、っていう考えが浮かばなかったのか?」
「・・・まぁな。これはこれで居心地がいいし。それに・・。」
『・・・・・・。』
ユイとムイの二人が、少し不安そうな顔をして、じっ、とこちらを見つめている。今の話が聞こえたのだろう。
「二人もいるからな。今の所、特に戻る理由もみあたらん。」
「順風満帆そうだもんなぁ。あーあ、ウラヤマシイカギリデゴザイマスヨ。まったく。」
「あんだよ。お前は何かあるのか?こっちの方が性にあってそうだが。」
「んー。ま、そりゃそうなんだが。こっちには、あれが無い。」
「あれ?」
「超機械大戦。」
「・・・は?あの、ゲームの?」
「おう。もうすぐ新作が出るからな。だから年内には帰りたいのだよ。俺としては。」
ちなみに超機械大戦とは、老舗のゲームメーカーがもう十年位続けて出している、様々なアニメーションに登場した機械達が一同に会して悪に立ち向かう、という根強い人気をほこる有名なゲームだ。
「・・・まぁ、お前らしいっちゃらしい理由だが・・・。」
「なんだ。その可哀想な人を見るかのような目線は。」
「いーや。別に・・・。」
その後しばらく雑談をして、とりあえず今日はお開き、と言う事になった。宿に戻り、明日に備えて早めに寝る事にした。
「はぁ・・・気持ちよかった、です。」
「ああ。気持ちよかったな。・・・ん?」
風呂から上がり、上半身裸の状態でユイの頭をぐしぐし拭きながら部屋に戻ると、ベッドの横で寝巻き姿の野々香とムイがなにやら奮闘していた。
「んー!!んんーーーっ!!」
「く、う・・・!」
「・・・なにやってるんだ?二人とも。」
「あ、ご主人様!」
「その・・・。」
どうやら、右側にあるベッドを押して左側にあるベッドにくっつけたいらしい。が、木製のベッドはかなり重い。二人の力ではびくともしていないようだ。
「しかし、なんでまた。」
「だって、皆で一緒に寝たいんだもん!」
「・・・と、言う訳なんだけど・・・。」
「なんだ。そういう事なら、任せとけ。」
ちょっと離れてろ、と二人に言い、ベッドの両端を持つ。
「ふぅ・・・んっ!!」
しっかりと足を踏ん張り、腰を落とす力を利用してベッドを軽く浮かせる。その状態を維持しつつ、カニ歩きで移動して、ゆっくりと降ろす。
「ふぅ。これでいいか?」
「うわぁ・・・ごしゅじんさま、すっごーい!!」
「お兄ちゃん、こんなに力持ちだったっけ・・・?」
「力だけじゃない。ちょっとしたコツがあるのさ。」
「すごいです・・・。」
「ま、それはさて置き、明日に備えて俺はもう寝るけど、皆はどうする?」
ベッドの横にかけておいた上着を羽織りながら、三人を見渡す。
「ボクも寝る〜。」
「私も。」
「僕も、です。」
「なんだ。皆寝るのか。」
ものの見事に意見が合った。
「じゃあ、どうやって寝る?」
「あ、あの・・・僕はご主人様の隣が・・・。」
「う。い、いいよ?じゃあ、反対側はムイちゃんでいい?」
「ううん。野々香ちゃん寝ていいよ?」
「え。ホント?でも、いいの?」
「うん。」
「じゃ、じゃあ・・・。」
ベッドに右からユイ、トウマ、野々香の順で入る。
「でも、ムイちゃんどうするの?」
「ん。ムイ、おいで。」
「は〜い!」
「え?」
ムイが、トウマの足元の布団をはぐってもぞもぞと入り込み、真正面に顔をだした。
「とくとうせき〜!えへへ〜。」
「え、ええ!?」
「ムイ・・・ずるい・・・。」
「んふふ〜。ごしゅじんさまあったかい〜♪」
二人の非難の視線を気にする事もなく、トウマに頬擦りするムイ。
「む、ムイちゃんばっかりずるい!わ、私も!!」
「・・・僕も。」
「おーい。どうでもいいが、明かり消すぞ?」
どうにか手を伸ばして、明かりを消す。しばらくは騒々しかったものの、数分ほどでおさまり、規則正しい寝息が聞こえるようになった。
・・・一人を除いて。
「・・・ん・・・?」
静かになって、うつらうつらとし始めていたトウマだったが、ムイがじっ、とこっちを見ているのに気が付いた。
「・・・どうした?眠れないのか?」
「・・・ごしゅじんさま・・・。」
ムイの声は小さい。周りに気を使ってなのか、それとも。
「ん?どうした。」
「ごしゅじんさま、帰っちゃうの?」
「・・・葉山の話か。気にしなくていい。帰ろうにも、方法もわからんしな。」
「でも、・・・でも。いつか・・・。」
「ムイ・・・。」
薄暗くて分からなかったが、ムイの目は潤んでいた。今にも泣きそうな顔で、トウマにしがみつく。
「やだ・・・やだぁ・・・。ごしゅじんさま、いなくなっちゃ、やぁ・・・。」
その、言葉に。・・・胸が痛んだ。
昔。
ずいぶん前。けれど決して忘れる事の無い、あの日。
俺が、一生を賭けた誓いをしたあの日。隣で眠る少女から、同じ言葉を聞いた。
「あ・・・ごしゅじんさま・・・。」
気が付いたら、ムイの頭を撫でていた。
「大丈夫。」
「・・・でも・・・。」
「俺は、ここにいる。」
「ふぇ・・・?」
この世界に、と言う事なのか。
この場所に存在している、と言う事なのか。
それはトウマにもわからなかった。だが、そう言わずにはいられなかった。優しく、優しくムイの頭を撫でながら。
「だから、泣くな。・・・な?」
「うー・・・。ごしゅじんさまぁ・・・。」
ぐしゅぐしゅ、と涙を啜る音がする。
「ごめんなさい。ボク・・・。」
「謝る事は無い。ちょっとヤな事考えちまっただけだろ?」
「うん・・・。」
「ほら。もう寝るぞ?眠るまでなでなでしてやるから。」
「うん。・・・ごしゅじんさま。」
「ん?」
頬に、温かくてぬるりとした感触が何度か走る。
「おわ。こ、こら、舐めるなよ・・・。」
「えへへ・・・。ボク、ごしゅじんさま、大スキ。」
「・・・ん。そうか。ありがとな。」
「うん・・・。ごしゅ・・・じん、さま・・・。」
「うん?」
言葉が次第に途切れ途切れになっていく。
「あした・・・がんばって、ね。ボク、おうえ・・・してる・・・。」
「ああ・・・。」
「でね・・・おわっ・・・たら、みん・・・で、あそ・・・。」
・・・すぅすぅと、寝息が聞こえてくる。眠ってしまったようだ。
「・・・おやすみ。ムイ。」
眠ったムイの頭を少しだけ撫でてから、トウマもゆっくりとまぶたを閉じていった・・・。
どうもごぶさたしておりました。こめです。
八月の間ひたすら夏バテに追われ、全く更新しておりませんでした・・・ごめんなさい。
今回初めて夏のコミックフェスタ、通称夏コミに行ってきたんですが、すごいですね・・・もう、なんか、色々と(笑)。仲間内ではいつか出れればいいな、なんて話も出ていたりいなかったり。
ともあれ、これからはちゃんと更新します故(ぇ 名無しともどもよろしくお願いいたしますw