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名無しの物語  作者: こめ
22/34

第二十二話 葉山登場



「ごっしごし〜ごしごし〜♪」



楽しそうに歌いながらムイが背中を洗ってくれている。さらにその背中をユイが洗っている。王宮で葉山と出会った後、右翼曲折あったのだが、細かい話は此処では出来ない、と言う事で宿を取ってもらう事になった。少し遅くなるが今日中には必ずこちらに向かうと言う事だったので、先に夕飯を済まし風呂に入っている、と言う訳である。



「ねーねーご主人さまー。」

「ん〜?」

「あのハマヤって人、ご主人様のオトモダチ?」

「葉山な。まぁ、そんな所・・・なのかな?」

「・・・?なんで疑問形なんですか?」

「なんつーか、友達ってガラじゃないんだよなぁ。確かに割と長いことつるんでるけど。」

「???」

「ま、とりあえず変人ではあっても悪人ではない・・・こともないか。」

「う〜?とりあえず、ヘンな人って事?タマヤさん。」

「葉山な。」



何度か席替えをしてしっかり体を洗った後、湯船に浸かって百秒数えてから上がる。備え付けのバスタオルでムイとユイの頭やら体やらを拭いていく。が、



「や〜う〜!くすぐったい〜!」

「ほらじっとしてろって。ちゃんと拭けないだろ?」



ユイはじっとしていてくれるのだが、ムイはくすぐったいらしくじっとしてくれない。



「わ〜〜〜っ!」

「あ、こら!」



と、一瞬の隙を突いてムイがバスタオルから脱出。扉を開けて部屋の方へ行ってしまった。



「ひゃあっ!む、ムイちゃん!?」

「こらムイ!待てってば!」

「あ、お兄ちゃん?いったいどうし・・・た・・・・・・。」

「・・・?・・・・・・あ。」



しまった。ムイを追いかけて、ついそのまま外に出てしまった。・・・当然ながら、全裸で。



「あ・・・い、あ・・・う・・・???」



なんだかよく分からない言葉をつぶやきながら、物凄い勢いで顔が赤くなっていく。あ〜、人間ってほんとに顔の下から赤くなっていくんだなぁ。



「あ〜、ムイ?このままほっとくと野々香の頭の血管が破裂してえらい事になるから、おとなしく戻りなさい?」

「う、うん・・・。」



すごすごと風呂場に戻るムイ。ちゃちゃっと体を拭いて、服を着させる。自分もしっかり服を着てから、部屋に戻る。と、



「あうあうあうあうあぅ・・・。」



なんかあうあう言いながらまだ野々香が固まっていた。近づいて、ぺちぺちと頬をたたいてみる。



「お〜い?野々香ちゃん?」

「へ・・・?う、うわひゃあっ!」



これまたヘンな声を上げて、野々香が飛び退いた。



「お、お兄ちゃん!?は、はは裸でなにして・・・。」

「お〜い。もう服着てるぞ〜?」

「え?あ、あれ?だって、いま・・・。」

「裸で出てったのは事実だけどな。つうか、そんな赤くなるほどのもんでもないだろ?こないだまで一緒に風呂入ってたんだし。」

「こ、この間って、中一で止めました!」

「ゴネてたけどな。」

「っ!そ、そんなこと・・・ない・・・よ?」

「ま、そんな事はどうでもいいからさっさと風呂入ってきな。葉山が来ちまうぞ?」

「うう・・・もう!知らない!」



そう言うと、部屋に置いてあった着替えを取って、さっさと風呂場へと行ってしまった。



「くっくっ。相変わらず可愛い奴だ。」

「ご主人様・・・ひどいです。」



ユイが非難めいた視線を送ってくる。



「ん〜?ま、そう言わんでくれ。これも兄妹のスキンシップってやつさ。」



けらけらと笑いながら部屋の出口のドアへと向かう。



「あれ?ご主人様どっか行くの?ボクも一緒に行く!」

「んにゃ。ちょっと外に出て不届き者を成敗してくるだけだ。」

「・・・ふぇ?」















「もう!お兄ちゃんはどうしてこう・・・ぶつぶつ。」



兄に対する不平不満をつぶやきながら、しゅるしゅると服を脱いでいく。



「だいたいいつもいつも無茶ばっかりして。・・・心配するこっちの身にもなって欲しいよ。」



愚痴をこぼしつつ、下着に手をかける。・・・と。




ガタガタッ




「へ?」



風呂場の外、換気用の小窓の辺りから妙な物音が聞こえた。続けて、








ごすっ       がんっ        どぐっ!







ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ・・・。







「・・・・・・?」



喧嘩だろうか。念の為、小窓から外を覗いてみる。



「・・・誰もいない、ね。」



気のせいか、どこかで聞いた事があるような声だったような・・・。まぁ、気にしても仕方が無い。





















「あれ?葉山先輩、いらしてたんですか?・・・って、どうしたんですか!?」



野々香が風呂から上がると、なぜかやたらボロボロな状態の葉山が椅子に腰掛けていた。



「や、野々香ちゃん。いや、ここに来る途中やたらガラの悪いチンピラに襲われてね。」

「ええ!?その・・・大丈夫なんですか?」

「うん。問題ないよ。いやぁ、野々香ちゃんに心配してもらえるなんて光栄だなぁ。」

「でもよ、絡まれる方にも問題があると思うぜ?なぁ、葉山クン?」



ぽん、とトウマが葉山の肩に手を置く。こころなしか、目が据わっている気がする。



「ホント、気をつけた方がいいぜ?お前は何かと恨まれ易いからなぁ。」




メリメリメリ・・・。





「い、いやぁ、まったくだな。さすが親友。いいこというなぁ・・・!」

「どうした、顔が青いぞ?」

「キ、気にするな。ちょっと肩の辺りが激烈に痛いだけだ・・・っ!」

「あの、本当に大丈夫なんですか?ものすごい油汗が出てるみたいですけど。」

「だ、大丈夫大丈夫・・・。後トウマ。肩に置いてる手を退けて下さいお願いしますそろそろ砕けます・・・!!」

「おお、すまんすまん。ほんとこれからは滅多な事はしない方が身の為だぜ?」



トウマが手を離すと、葉山は安堵したような顔を見せる。



「ああ・・・そうする・・・。」

「あれ?そういえばムイちゃんとユイちゃんは?」

「ん?ああ、ほれ。あそこ。」



と言って出入り口のドアを指差す。ドアは半分だけ開いており、



「・・・(じーっ)。」

「・・・(じーっ)。」



そこから半分だけ顔を出して、こちらの様子をうかがっていた。



「・・・何してるの?」

「さあ?多分見慣れない奴がいるから警戒してるんだと思うが。」

「おいおい。挨拶くらいさせてくれ。」

「ん・・・ま、そうだな。二人とも、こっちおいで。」

「で、でも・・・。」

「その・・・。」

「大丈夫だって。変な事したら俺が殴り飛ばしてやるから。」

「こらこら。」



トウマ言われ、すごすごと出て来る二人。が、すぐトウマの背中に隠れてしまった。



「・・・・・・。」

「あ〜、俺の名前は葉山だ。葉山巧。君達はなんて言うんだ?」

「・・・。」

「ほら、ごあいさつ。」

「・・・ボ、ボク、ムイ・・・。」

「ユイです・・・。」

「見た所、アニマルハーフなのかな?」

「そ、そうです・・・。」

「ふむぅ・・・。」



会話が止まる。二人とも、葉山をやたらと警戒しているようだ。



「まぁ登場が登場だったからなぁ・・・。」




ちなみにどんな登場だったかと言うと。










まず、トウマが部屋に戻ってくる。



「あ、おかえりなさ〜い。」

「おう。ただいま。」



パタパタ、とムイとユイが近づいてくる。



「ご主人様、ドコ行ってたの?」

「すぐそこだって。宿の裏手。」




ガタッ!ガタガタッ!!




「お、来たか。お客さんだ。」

「あ、トヤマさん?」

「葉山だって。」



たたー、とドアに向かうムイ。



「あ、ちょっとま・・・。」

「は〜い!いらっしゃ〜・・・。」



がちゃ、とドアを開けた先にいたのは。



「ト、トウマ、てめぇ肩ぐらい貸してくれたって・・・!」



顔はボコボコ、体は泥だらけの葉山だった。



「・・・・・・がるるるるるるる・・・。」



突然現れた謎の物体に、ムイの本能が反応した。







ちゃららららららららー♪ ちゃーらー♪




ボコボコゾンビ(ムイ的に)が現れた!



ムイの攻撃!かみつく!



「がぶっ!」

「へ?イダダダダダダダッ!?」



36のダメージ!



ボコボコゾンビは逃げ出した!



しかしムイは噛み付いたまま離れない!



ムイの攻撃!ひっかく!



「痛い痛い!ギャー!」



26のダメージ!



ボコボコゾンビを倒した!


128の経験値を手に入れた!



ちゃちゃらちゃっちゃっちゃー♪




ムイはレベルが上がった!レベル13になった!



特技「ごしゅじんさますきー!」をおぼえた!

  「なめまわす」をおぼえた!






「なぜ・・・(ガクッ)。」

「ご主人様!ヘンなのやっつけたよ!」

「あー、うん。えらいえらい。でも一応それがお客さんなんだよなぁ・・・。」











「こんな感じ?」

「・・・なぜ某有名RPG風味?しかも変な特技憶えてるし。っていうかムイちゃん。ダメじゃない出会い頭に攻撃なんてしちゃ。」

「だ、だって・・・。」

「いいんだよ。今回は葉山が全面的に悪い。でもこれからは気をつけような?」

「うん・・・。」

「ま、とにかく紹介も済んだ事だし、そろそろ本題に入っていいか?」



と、葉山が唐突に話を切り出した。・・・これ以上この話題は避けたかったのだろう。



「本題?ああ、そうだな。それが・・・。」

「実は頼み事があってな。悪い話じゃないんだが、引き受けてくれるか?」

「・・・俺達の話は?」

「急用なんだよ。頼む。」

「・・・内容によりけりだな。」

「まぁ、そうだろうな。で、その内容ってのが、」

「ふむ。」

「武闘祭で優勝してくれ。以上。」

「無理。」



即答だった。



「無理か。」

「無理だな。」

「優勝賞金三千万ギィ。日本円に換算すると三億ぐらい。」

「換金できないしな。」

「優勝者は将軍として迎えられ、エリート街道まっしぐら。」

「興味ないし。」

「おまけに将来美人間違いなしのお姫様の婿候補としてエントリー。個人的にはこれが一番美味しいと思う。」

「お姫様なら間に合ってます。」



両者一歩もゆづらぬ功防。



「たーのーむーよー。姫さんから頼まれてんだからさ〜。まだ齢13歳の幼い女の子が、国の慣習だからって会ったことも無い輩と無理矢理結婚させられようとしてんだぜ?そんな姫様をかっさらって国外逃亡逃避行ってのがラブロマンスの基本じゃないですか。」

「何時の時代の話だ何時の。じゃあ、お前はその姫様に結婚を阻止してくれと頼まれたのか?」

「いんや。少しでもいい男を捜して来いと。」

「タフな姫様だな・・・。」

「で、それ相応な実力、精神、その他もろもろを兼ね備えたお前に白羽の矢がたったって訳さ。」

「ハタ迷惑な・・・。」

「頼む。出場してくれるだけでもいい。後はこっちで何とかするから。姫様うんぬんの話も、こっちが用意する奴と変わってくれればいいし。」

「むう・・・。」



すこし、周りを見渡す。ムイは、なんだか良く分からないのかぼーっとこっちを見ている。ユイは、すこし心配そうに。野々香は・・・。



「・・・・・・。」




だめ。




何も言わないが、そう言っている。じぃっ、とこちらを見つめて。



だが・・・。





「・・・わかった。一宿一飯の恩もあるし、引き受けよう。」

「っ!」

「そうか。助かる。じゃ、しばらくは此処の宿を使ってくれてかまわないんで。」



そう言って、きびすを返す。



「あ、おい。」

「武闘祭は三日後。受付は城の正門前だ。よろしく!」



トウマの話も聞かず、葉山は帰ってしまった。



「・・・ったく。あのヤロウ。言いたい事だけ言って帰りやがった。」





と、毒づく。ふ、と、野々香の視線が非難めいた物に変わっているのに気が付いた。



「・・・お兄ちゃん・・・。」



どうして、と。



自分の言いたかった事が伝わらなかった訳が無い。その程度のことは造作なく出来る位、この兄妹は深い所で繋がっている。あるいはそれは、正常な物ではないかも知れないが。



ぽん、と。



野々香の頭に手をやる。そのままゆっくりと撫でていく。



「・・・・・・。」

「ごめん、な?心配掛けちまうのは、分かってるんだが・・・。」



俺は、強くなりたい。野々香をどんな理不尽からでも守れる位。だから戦う。その為に泣かせたり心配させたりしているのだから、本末転倒な気がしないでもないが。



「分かってない。」

「・・・・・・。」

「分かってないよ。私が何度言ったって、止めてくれないんだもん。絶対分かってないよ。」

「・・・済まん。」



するり、とトウマの傍を離れる。



「いいよ。お兄ちゃんがおばかなのは今に始まった事じゃないし。」

「ああ・・・っておいおい。誰がお馬鹿だ。」

「ふーんだ。お兄ちゃんなんかおばかで十分ですよーだ。」



べ、と小さく舌を出して、野々香が笑う。



「さ、もう遅いし、寝ちゃおう?」

「ん、そだな。ユイ、ムイ、おいで。」

『はーい・・・。』



四人で寝室に入る。ユイとムイはもう眠そうだ。寝室には、ベッドが人数分・・・



「無い・・・。」


なぜかやや大きめのベッドが二つしかない。


「2・2で寝ろって事なのかね?」

「多分・・・。」

「んじゃ、俺はムイと寝るから、野々香はユイと寝てくれ。」

「え!?べ、別にいいけど・・・どうして?」

「約束だからな。今日一日一緒に居るって。」

「うん・・・ボク、ごしゅじんしゃまといしょはいい・・・。」

「と、言う訳だ。」

「うん、分かった。・・・変な事しちゃダメだよ?」

「そっちこそ。」



そろそろ言葉尻が怪しくなってきたムイを寝かせて、自分も布団にもぐりこむ。




もぞもぞ  もぞもぞ




「ん?」

「・・・ごひゅひんひゃまぁ・・・くー。」

「・・・なぜ乗る?」



仰向けになって寝ようとした所で、もぞもぞとムイが乗っかってきた。



「くー・・・すー・・・。」

「寝ちゃってるし。」



少々重いが仕方が無い。



「おやすみ、お兄ちゃん。」

「おやすみなさい、ご主人様。」

「ああ、おやすみ。」

「・・・くー。」





夜が更けていく。グランベルドでの最初の一日は、こうして過ぎて行った・・・。







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