表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名無しの物語  作者: こめ
21/34

第二十一話 意外すぎる再会

「えっほえっほえっほ。



緩やかな下り坂をゆっくり走りながら下っていく。目的の茶屋はもうすぐそこだ。



「あー!!ご主人様―っ!!」



ムイの元気な声が聞こえる。先程まで全力で走っていただろうにも関わらず、だぁーーーーーーーっとはしりよって来る。



「ねぇねぇご主人サマ!ボクね、ボクね、一番だったよ!」

「お〜やっぱりか。・・・ユイと野々香は?」

「えっとね、ユイが二番で、野々香ちゃんが三番!」

「あ〜〜〜〜。予想どうりだな。野々香、大丈夫か?」

「うん。お店でお水もらってるけど、大丈夫だと思うよ。」



ふむ。それならまあ、大丈夫だろう。最悪、バッタリ倒れでもしたらどうしようとかおもって

たからなぁ。



「ねね、ボク、一番だよね?」

「ん?違うのか?」

「一番ってことは、ご主人様に何かお願いできるんだよね??」

「む。まぁ確かにそうだな。」



そういうルールだし。・・・なんかムイの眼が物凄く輝いているような気が。



「じゃあね、じゃあね、・・・今日一日、ご主人様とず〜っと一緒にいる!」

「・・・ええ?どゆこと?」

「いっしょにゴハン食べて、いっしょにお風呂入って、いっしょのお布団で寝る!」

「あ〜、ん〜。まぁ、それで良いなら、別にいいけど。」

「わ〜〜〜〜い!!」



ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいる。ここまで懐かれると、嬉しいような、気恥ずかしいような、複雑な気分だ。




そうこうしている内に、ユイ達がいる茶屋に着いた。






「あ、お兄ちゃん。」

「ご主人様。」



水の入ったグラスを置き、二人がこちらを向く。遠目には分からなかったが、この茶屋は小さな小屋にベンチが一つと、日本の時代劇にでも出てきそうな造りだった。



「おや。あんたがお兄さんかい?」



茶屋の奥から、恰幅の良いおばさんが出てきた。



「あ、ども。妹が世話になったみたいで。」

「やだね、世話なんて大げさな。来た人になら誰にでもするサービスだよ。」



からからと笑いながらベンチを指差す。そこには、水の入ったグラスに、空になった皿が三つ。・・・なるほど。見た目どうり、気前の良いおばさんのようだ。



「あ、お団子は有料だからね。」



訂正。けっこうきっちりしている人のようだ。



「ユイすまん、払ってくれるか。財布は・・・これか。ほい。」

「え?僕が・・・ですか?」

「頼む。俺達じゃ、この財布に入ってるのがいくらかもわからんのでな。」

「あ、なるほど。分かりました。」



そう言って、おばちゃんにいくらか渡し、おつりを受けとったようだ。



「はい。大丈夫です。」

「あ、ユイ。財布は野々香に渡しといてくれ。」

「分かりました。・・・はい、野々香さん。」

「ん、ありがと。ユイちゃん。」



野々香に財布を渡しておく。日野家の金庫番は野々香なのだ。なぜかじいちゃんと暮らしていた頃からそうだった。



「ね、ちょいとお兄さん。」

「はい?」

「あんた達、これから王都に入るんだろ?って事は、やっぱり武闘会に出るのかい?」

「武闘会?」

「竜神祭恒例の大武闘会だよ。優勝者にはお姫様の婿候補にもなれるって言うじゃないか。お兄さん強そうだから優勝できるかもしれないよ?」



あっはっはっは、と笑いながら背中をバシバシ叩かれる。・・・なんというか、このおばさんが出場すれば良いんではなかろうか?



「へぇ。そんなのがあるんですか。それって、誰でも参加できるんですか?」

「あれ、知らないのかい?確か・・・参加は自由だったと思うけど。ただ、予選を潜り抜けなきゃいけないんだよ。その手法は、毎年違うらしいからねぇ・・・。」

「なるほど・・・あ、おばさん。どうもありがとうございます。皆、そろそろ行こう。」

「はーい!」

「分かりました。」

「うん。じゃ、行こう。」

「あれ、もう行っちまうのかい?」

「すいません。お祭が近いって事は、宿が取れるかどうかも分かりませんから。」

「あ、そうだね。もし宿が取れなかったら、ウチにおいで。手伝いはしてもらうけど、四人ぐらいなら泊めたげられるから。」

「重ね重ねすいません。じゃ、失礼します。」

「はいどうも。お嬢ちゃんたち、またおいでね。」

「うん!また来るー!」



ムイがばいばーい、とぶんぶん手を振って、茶屋を後にした。









「うわぁ〜。人がいっぱいだね、ムイちゃん。」



王都の入口で入国審査(と言っても全員の名前と関係を書く程度だったが)のような物を受け、

トウマ達はグランベルト王都へと足を踏み入れていた。祭の影響なのか、結構なにぎわいを見せている。



「う、うん。そうだね・・・。」

「あら?どうしたムイ。何でそんな背中に隠れてるんだ?」

「だ、だって知らない所だし、知らない人いっぱいだし・・・。」



む、意外だ。ムイならあちこち走り回る位の事をするかと思っていたのだが、結構人見知りするのかもしれない。



「で、とりあえず、王城に向かうんだよね?」

「ああ。多分、と言うか十中八九あれだろうな。」



トウマは自分達の前方を指差す。そこには、王都の一番奥、巨大な西洋風の城が竜神の山に挟まれるようにそびえ立っていた。



「・・・あ〜、あれだよな。いまさら何だが徹頭徹尾ファンタジーだよなぁ。」

「ふぁんたじー?」

「あはは、そうだね。きっとあのお城の天辺には、ひげがもじゃもじゃで程よく太った王様がいるんだよね?」

「で、俺達の冒険の記録はそこでしてもらうんだろうなぁ。」

「・・・??なななに?なんのコト?」

「いんや。とにかく、さっさと行こうか。いろいろしなきゃいかん事もあるし。」












「ええ?手続きが出来ない?」

「はい。申し訳ございません。」



王城へやって来たトウマは、早速眼の手続きをしようとしたのだが・・・



「現在、手続き等を一手に担っていなさる少佐殿が会議に出席なさっている為、すぐにお答えすることが出来ないんです。一応、お預かりする事も出来ますが・・・いかがなさいますか?」

「あ〜・・・、いいです。そんなに長いこと会議が有るわけではないですよね?」

「はい。本日は定例報告会のみですので、後一時間もすればお戻りになられるかと。」

「じゃ、適当に時間潰してからまたきます。あ、お城の中って見学しても大丈夫ですかね?」

「はい。入れない所もございますが、簡単に見て廻る程度なら大丈夫です。」

「分かりました。ども、失礼しました。」



ふう、と軽く息をつき、野々香達の所へ戻る。



「どうだった?」

「ん〜、今は無理だって。一時間位で担当が戻るらしいんだけど。」

「そうなんだ。じゃ、どうするの?」

「お城の見学でもして時間潰そうと思うんだが・・・来るか?」

「あ、ん〜〜〜、興味は有るけど・・・私はちょっと休んでる。」

「・・・僕も休んでます。」

「ボクも。」

「なんだ。俺一人か。ま、いいや。じゃ、行ってくる。」

「いってらっしゃ〜〜〜い。」












「ううむ・・・やっぱり広いな。」

野々香達と別れて数十分。トウマは未だに王城の中をうろついていた。

「ってゆーかここはドコだ・・・?」

それ以前に迷っていた。もはやここがどの辺りかも分からない。兵士に聞こうかと思ったが、上から下までガッチリと武装(と言うほどの物ではないのだろうが)しているため非常に話し掛けづらい。



「まいったな・・・。お?あの扉なんか開いてるぞ?」



大きくて重そうな扉が半分くらい開いている。どうやら外とつながっているようだ。



「おお、ラッキー。外に出れれば正面に回れるかも。」



特に兵士がいる様子も無いし、入って問題は無いだろう。扉の間をするりと抜けて、外に出る。



「ってあれ?ここは・・・。」



中央に噴水、均等な間隔で植えられた木々。四季にあわせた花が咲くように手入れされた花壇。良く手入れされた庭だった。だが、四面を壁に囲まれている。



「中庭か。」



確かに外は外だが、これでは根本的な解決にはならない。困ったな、と頭を掻いた。と、



「お、おい!お主!!」

「ん?」

「おい、そこの黒髪のお主!」

「ん〜〜〜〜?」

「こっち!こっちじゃ!」



声のする方を見る。が、人影らしき物は無い。



「上!上じゃ!」



言われるままに上を見る。木の陰になって見えづらいが、木の枝の部分に、誰か乗っている。



「はいはい。なんですか?」

「す、すまぬ!助けてくれ!」

「は?」



近くまで来て分かったが、どうやら女の子のようだ。見た目はムイ達と同じ位だろうか。服装から見るに、貴族っぽいというか、お偉いさんとこの娘なんだろうな、という気がした。



「あ、降りられなくなっ・・・。」

「ち、違う!違うぞ!?登ったはいいが、下を見ると意外と高くて怖いな〜、とか微塵も思っておらんぞ!?」

「降りられなくなったんだな?」

「だ、だから・・・。」

「降りられなくなったんだな?」

「・・・・・・はい。」

「うむ。素直でよろしい。」

「・・・うううう〜〜〜〜っ!」



なんかうなっているが、あのくらい元気なら問題ないだろう。



「で、どうする?俺が土台になってもいいし、そこまで登って担いで降りてもいいし。」

「む・・・で、では土台になってくれ。しっかり受け止めるのじゃぞ?」

「了解。ほい、ドンと来い!」



パン、と手を叩いて両腕を広げる。



「むむむ・・・い、いくぞ?受けそこなうなよ?」

「心配すんな。ほら、ジャンプ!」

「ぬ・・・え、えいや!」



ドスン!!



「っと!とっとっと。な?大丈夫だったろ?」



大の字に飛び降りてきたので、抱きつくように受け止める。ここ最近よくムイに飛びつかれていたので慣れたものだった。



「う、うむ。すまぬ。礼を言うぞ。」



離れながら礼を言う。綺麗な長い金髪の女の子だ。



「いえいえ。そういや、なんでこんなトコに登ったんだ?」

「ん?・・・・・・なに。木に登って昼寝でもしようとしただけじゃ。」

「ふーん。あ、そだ。正門ってここからどう行けばいいのか、分かる?」

「正門?なんじゃ、お主迷うたのか?まあこの城も無駄にひろいからのぅ・・・。」

「ま、な。で、分かる?正門。」

「無論じゃ。この城は妾の庭のような物じゃからな。そこの扉からまっすぐ右に行って、階段を下りたら左に行って、二つ目の曲がり角を右に曲がれば正門が見えるはずじゃ。」

「ふむ。そうか、ありがとう。ほんじゃ、この辺で。」

「うむ。もう迷うなよ?」

「そっちこそ。もう登るなよ?」



そういって、中庭を去る。もうそろそろ一時間たつはずだ。






「ふふふ・・・。面白い奴じゃのう。」


トウマが去った中庭で、金髪の少女はそうつぶやいた。








どうにか正門まで戻って来た。と、一人ぽつんと蒼い髪の少年が立っている。ユイだ。



「あ、ご主人様。お帰りなさい。」

「おうユイ。いやぁ、この城広くて迷っちまったよ・・・ってあら?野々香達は?」

「ご主人様が散歩にでてしばらくしたら自分達も散歩に行くと言って行かれました。」

「そっか。迷子になってなきゃいいけど。ユイは何で残ってたんだ?」

「それは・・・ご主人様が帰って来た時に、誰もいなかったら心配するかなぁ、と思って・・・。」

「・・・そっか。あ〜も〜相変わらず良い子だなぁ、お前は。」




          なでなで   なでなで



「そ、そんなこと・・・。」



        なでなでなでなでなでなでなでなで。 



「あううぅ・・・。」




ひとしきりユイの頭を撫でまくった後、もう一度受け付けに向かう。



「はい。お戻りになられてますよ。今呼んで参りますので。」



受付の奥にある部屋へと入っていく。おそらくそこに小将殿がいるのだろう。



「少佐。手続きをご希望のお客様です。起きて下さい。」

「はいはい。何の手続きだ?」

「それは・・・申しわけありません。まだ聞いていなかったので・・・。」

「あ、そ。まあいいや。外にいる?」

「はい。お待ちになってます。」



なんとなく。なんとなくだが。この小将とやらの声、物凄くどこかで聞いた事があるような・・・?



「はいどうも。グランベルド軍少佐・・・。」

「あら・・・・・・?」




なぜだろう。物凄くどこかで見たこと有るような男が中から出てきた。って言うか。



「トウマ・・・!」

「葉山か!?」




なぜか。クラスメイトにして悪友である男、葉山巧が、目の前に立っていた・・・。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ